奔放であり
ワンステップ。
ツーステップ。
スリーステップ。
大ぶりに大剣をふるった。
だけど、そんな簡単に当たっちゃくれないようだ。
ひたすら後ろに下がることで私の攻撃を躱し続けられる。
「これは、困りましたねぇ。近距離は不得手でして」
平坦な声でそんなことを私に話してくるが、その割には余裕を持って躱しているよう。
汗の一滴も流していない。
「〝音声認識〟えーと、なんでしたっけ? あっ、そうそう〝霊魂縛鎖〟」
何か呟かれた。
しかし、何も起こらない。
私は構わずに攻撃を続ける。
「やっぱり、無理でしたかー。仕方ありませんねぇ」
女性は後ろへトン、トンと軽いステップを踏み、私から距離をとる。
私は舗装された地面を壊す勢いで蹴りつけ、距離を縮めようとする。
「特効銃〝縛霊弾〟」
拳銃のような物が取り出され、白い半透明の弾が排出された。
あっ、まずっ!?
私は空中で大剣を盾にする。
白い半透明の弾は大剣に当たって弾けたが、おかげで距離を詰めることに失敗した。
うん、あの弾はやばい。
だって白い人がやってきた攻撃とほぼ同じなんだもん。
あれに当たったら、なんか当たった部位が動かなくなる、多分。
私は上着を脱ぎ捨てる。
本気出さないときついのかもしれないな。
私の衣服の開いた肩甲骨の辺りから、黒いドロドロもとい翼が生えてくる。
どうだ? 精神にダメージがあるんじゃないか?
「これは聞いてませんねぇ。……所長、見てますよね。応答しやがれです」
表情は変わっていないのだが、手を耳に当ててなんか言ってる。
所長、か。
私がそいつを叩けば彼女のためになるのだろうか。
私は構わずに、さっきよりも早く突っ込んでいく。
翼のおかげで、機動力が上がっているのだ。
翼をどうやって使っているのか。
こう地面に突き刺す感じで、スリリングショットの紐みたいな役割。
いや、普通に、羽ばたいて加速、みたいなことするよりは速いと思うよ?
くっ、なんか軽々と躱されてる。
こっちを一切見てないよな?
一体どうなってるのだ。
感知系のスキルでも持ってるのかな。
「光穂ちゃんの特性を洗いざらい吐くんですよー!! そのくらい、当然ですよねぇ」
なにやら、知らないところで口論がされている。
口論の割には口調が平坦な気もする。
それよりも、翼をワイヤーを巻き取る感じで駆使してスピードを上げている私の攻撃がなぜ当たらないんだ!
思えば、白い人にも一回も攻撃が当たらなかった。
まああれは、なんというか、物凄い変態機動だった。重力とか、慣性とかがなくなっちゃったんじゃないかと思うくらい。
あの飛行能力は反則だっと思う。
でも、あの人は龍。
こいつは……さっきから『判別分析』を使ってるんだけど効果がない。
人間で……合ってるよな?
まあいい。
どれにしたって、龍種である私に敵う種などあるはずがないのだ。
なのに、なぜこんなに翻弄されているんだ……!?
「なるほど、妖特効でいいと。――はあ、龍特効? そんな希少なもの弾に使うわけないじゃないですか? 所長、馬鹿なんですかー? それに械龍を最後に素材ほとんど使いきりましたよね? 忘れたとは言わせないですよー?」
上司に話しかけているはずなのに、煽っているように聞こえるのは気のせいだろうか?
それはいいとして、妖特効なるものが存在するようだ。
え、まずくない?
「では、早速。特効銃〝妖傷弾〟」
こいつは私の翼に向けて弾丸を撃ち出してきた。
聖特効のときと同じようなエネルギーの弾だ。
急いで翼を引っ込める。
まずは機動力から削ごうとしてくるか。
無難な作戦だよ。
私もそろそろ勝負にでるかな?
あいつとの距離はある。
普通この状態で剣を振ったって届くはずがない。
だけど、私は剣を振るった。
普通なら届くはずがない一撃。
けれどそれは、大剣が伸びることによって対象に到達したのだ。
「うわ、危ない危ない。ヒヤッとするじゃないですかー」
でも、当たらなかった……。
完全に不意打ち出来たと思ったのに。
なぜ当たらんのだ!?
「なるほど、なるほど。自分から竜力を流すことで大剣を成長させたと。やるならもったいぶらずに最初からやってくださいよー。ビックリするじゃないですかー?」
くそーっ。
だめだ、なんかイラっとするぅ。
口調が平坦で、完全な無表情だ。
それなのになんかイラっとする。
ひとえにしゃべり方のせいだろう。
しゃべり方のせいなのか?
とにかくイラっとする。
ここまで、人を挑発できる言葉があるとは……。
「では、今度はこちらがビックリさせてあげましょう。〝浄聖弾〟」
なにやら、弾を空に向かって打ち上げた。
なにがやりたいんだ?
そのままなにも起こらずに時間が過ぎる。
「そろそろですかねぇ。〝聖叛弾〟」
そうすると、また弾を空に向かって撃ち出す。
そして次の瞬間、紫電の煌めきが大空を包んだ。
それは何もかもを忘れさせるような幻想的な光景で、おのずと目を奪われてしまう。
「どうですー? 綺麗でしょう」
全く平坦な声色だが、自慢気に語っているように聞こえる。
私はその問いかけへとただ純粋に頷いた。
光は目に焼きつき、余韻を残して消えていく。
綺麗だったなあ。
「そろそろお暇させていただきます。光穂ちゃん、次に会うときも元気にしていてくださいねぇ」
え、うん? あっ!
戦闘中だった。いや、余りにも綺麗だったもので……。
というか、帰るんだ。
私が不利な状況だったと思うのに、なんでだろう?
「しっかり手を握っていないといけませんよー? もう少しで連れ去られるところでしたから」
はっ、と私は振り返ってみる。
そこにはなんと白い人がいたのだ。
遅い。
けど、これが理由か。さすがに二人の相手はできないから帰るのだろう。
「え、えっと……ありがとうございます」
白い人は状況がわからずに取り敢えずお礼を言っている。
それから私に、誰? とアイコンタクトを送ってきた。
私はそれに、敵、悪い人じゃない、と送り返す。
白い人の困惑は増すばかりだった。
「では、また近いうちに」
逃がさない――!
私は全力で踏み込んで大剣を振るう。
このタイミングでの一撃。
きっと、予想外のはず。
私の一撃が届こうとするとき――爆風にのまれた。
な、なんかあの女性を中心に爆発した!?
砂煙が収まれば、そこにはなにも残っていない。
逃げられたみたいだ。
せ、戦闘描写はやっぱりきつい。
どうも、久しぶりです。
なんとか生きてます。
いや、新しく違う小説書こうとしたから遅れたわけじゃありませんよ。ありませんからね。
まあ、当分は新しい小説は諦めて、こっちに専念します。
……更新止まってるやつあるんだった。なんとかしなきゃ……。