町へ行こうよ
ベッドの上で目を覚ましたよっ。
白い人がベッドの横に椅子を置いて座ってる。
そして、ベッドに伏せた状態で眠っている。
睡眠って、大していらないはずだと思うんだけどねえ。
私はツンツンとつつく。
「うぅ……はっ!? ね、寝てた!? 私、寝ちゃってた!?」
起きてそうそう賑やかなことだ。
なんかこの人、驚いたり、慌てたりしかしてない気がする。
私はこんなのに負けてしまったのか。
納得いかないなあ。
「むぅー」
私はむくれてみせる。
機嫌が悪そうに。
この人は一体何のためにここにいたというのだ。
「あっ、ミツホちゃん……! よかったぁ……。もう起きないんじゃないかって、心配したんだからぁっ」
私がそうすればこの人は、涙目でそんなことを言って、私に向かってカバッと抱きついてくる。
私をそっちのけで寝てたというのに……。
私はこの人の背中に手を回し、あやすようにさする。
なんでかはわからないが、泣くのはやめて欲しいものだ。
しばらくその状態でいたら、白い人が動かなくなってしまった。
心臓の脈動は伝わってくる、私の耳もとでは安らかな呼吸音が聞こえる。
だけど動かない。
要するに二度寝ってやつだ。
うん、まあ、人のこと言えないし、しかたないかな。
今の私の表情というとどうだ?
完全に緩んでいます。
うん、彼女が混じっているからか、人から愛されているというのが、この上なく嬉しいことにでもなっているんじゃないかな?
そんな私は、しばしの間、この人の温もりにうずもれることにしたのだ。
「ふぁあ……あっ!? また寝てた!?」
しばらくたってから、この人はそんなことを言いながら目を覚ました。
そそっかしい人だ。
「そうだ、よしっ。ちょっと待ってて」
服のポケットらしき場所から白いゴムらしきものを取り出し、その長い髪を一ふさにまとめる。
ポニーテールだ。
気合いを入れるようにして、部屋から出て行ってしまった。
私が少し寂しそうな表情だったのは秘密だ。
けっこう長い時間待っていれば、ガタゴトと音が聞こえてくる。
ドアが開けられれば、台車に鍋のようなものを乗せて運んできた白い人の姿が見えた。
白いエプロンをまとっていることから、私のために料理を作ってきてくれたことがわかる。
それにしてもこの人。
衣装が何もかも白で統一されている。
髪をまとめたゴムらしきものだってそうだったが、エプロンまで白だとは……。
さらに、部屋の飾り、ベッド、果ては台車や鍋だって白だったりする。
こだわってでもいるのか。
さあ、鍋の蓋が開けられた。
中を除けば緑のドロっとしたものが入っている。
……緑っ!?
い、一体何なんだこれは。
戦々恐々としてしまうではないか。
ここまで白だったんだから、普通は中身だって白いおかゆみたいなものだと思うよな?
スプーンでその正体不明なおそらく食べ物であろうなにかがすくわれた。
白い人はそれを口もとまで持って行き、ふう、ふう、と一生懸命に息を吹きかけて冷ます。
「はい、あーん」
スプーンがついに私の口もとにまで持ってこられてしまった。
私は迷いを捨て、勇気を振り絞り、パクッとスプーンにかじりついた。
「どう? 美味しい?」
この人は緊張した面持ちで、私に味についてを訊いてくる。
私は顔をほころばせながら頷くことで答える。
美味しいとは意外だった、これ。
「ふふ、そうでしょ? まだ食べさせてあげるから、お腹いっぱいになったら言ってね?」
そう言われて、どんどんと私の口へと運ばれてきた。
私は幸せな表情をしながら、負けじとそれを食べ続ける。
意外と早くに全部食べ終わってしまった。
私は名残惜しそうにスプーンをカジカジしている。
もう少しでスプーンを食べそうになってしまっている。
「お行儀わるいよ……?」
「あ……っ」
そんなことをしていたせいか、笑顔でスプーンを取り上げられてしまった。
ぐぬぬ……。
「じゃあ、片付けてくるから」
そう言って、台車ごと食器を撤収された。
名残惜しくはあるが、おおむね満足ではあるか。
食べた後は眠くなるよね。
私はベッド上で横になる。
いやあー。
私、いい思いし過ぎなんじゃないか?
自分で自分が恨めしくなっちゃうくらいだよ。
この後に何かどんでん返しがくるか怖くなる。
そんなことを思っていれば、何度目になったかはわからないが、ドアが開かれた。
出入りの激しいドアだ。
勿論、外から入ってくる人は白い人。
部屋に入ってすぐに、縛った白い髪をおろす。
「ちょっと外に出て行くから、ちゃんと一人で待っていられるかな?」
この人は、膝に手をついて顔の高さを合わせて、私の目を見ながら私に尋ねてくる。
そんな子どもでもあるまいし、一人で留守居もできないわけはない。
なら、私の返答は決まっているはずだ。
私は白い人の服の裾を掴み、引いた。
きかれてから直ぐさまにだ。
ほぼ反射的な行動だった。
それは他でもなく、ついて行きたいという意思表示だった。
……やっぱり、一人は寂しいかな。
「そう、そうだよねっ」
今日一番のいい笑顔で、そんなことを言われてしまった。
何かすごく嫌な予感がする。
白い人は、部屋の中を歩き回り、収納スペースであろう場所にたどり着いた。
そこを勢いよく開いたのだが、そこには服がたくさんしまわれていたのだ。
その服たち。
白の黒の一対二の割合である。
どれが誰用の服などとは言うまでもないだろう。
これはどうしたものか。
なんとか解決策を考えなければ!!
まずい!
「いくらなんでも、その服はまずいよね?」
いや、別に背中全開でもいいんじゃないんでしょうか?
えっと……駄目?
「じゃあ、これとかはどう?」
収納スペースから、早速服を一着持ってこられた。
その服をよく見ると、背中の肩甲骨の辺りが空いているではないか!?
「穴?」
「うん。だって、戦いのときにいちいち破れたりしたら嫌じゃない?」
私は不思議に思い、それについてを問いかけた。
白い人はそう答えながら、私に背中を見せてくれる。
確かに白い人の服にも肩甲骨あたりに左右で一対の穴が空いていた。
確かに考えてみればそうか。
白い人は、けっこう自由に空を飛び回っていたしなあ。
でもそんな服、都合良く作られてるものかな?
そんなことを考えているうちに、この人は私の服を自然な手つきで脱がせてくる。
まあ、下着までは脱がされないし、大丈夫かな。
こうして私は、この後の長い時間を人形に徹することになった。
筆が進まないっ!!
我慢だ、まだ我慢だ。
なんか最近、自分の書きたいと思える展開じゃないです。
仕方ないです。恨むなら自分を恨めです。
では、また後ほど。