ある少女の一生
『体内寄生』を使用した。
そこからすぐさま『融合吸収』を使用。
徐々に、徐々に、彼女の感覚が私のものへとなっていく。
彼女の意思は感じられない。
ただ抜け殻のようになった身体を支配していく。
段階を進むうちに、私に流れ込んでくるものがあった。
それは、他でもない。
断片的ではあるが、彼女の記憶。絶望の記憶だ。
私はしばし、追憶の旅に出る。
***
私は不幸な人間だ。
なぜなら、私が私自身を不幸だと思っているから。
人間の幸せの度合というのは、そう思っているからそうなるものだ。
だからといって、私は私を幸せだと思うことはできない。
無理やりに自分を幸せだと信じ込ませるのは、それはそれで違うものだ。
私は私を不幸だと思うことしかできなかった。
私は学校に行く学生という身分なのだが、どうも学校には行きたくないものだった。
私は学級のなかで、しばし孤立していた。
理由としては、学友と話題が合わなかったからだ。
私の親は少々厳しく、まあ、いろいろと規制がされていた。
最初のうちは話しに加わろうと努力もしていたのだが、その内に居たたまれなくなってきたため、距離を置くようになってしまった。
その結果がこれだ。
私には優秀な姉がいた。
頭がよく、運動もでき、芸術の才能だってあった。
テストではいつも上位。何かあるごとには表彰をされていたんじゃないかと思う。
かくいう私は、並より少し上なくらい。
全く姉には届かなかった。
私は頑張った。
なのにやればもっとできるだのなんだのと言われ、親が私を褒めてくれたことはなかったんじゃないだろうか。
これは私の思い込みかもしれないが、私は家に居場所がなかった。
私は親が苦手なんだ。
姉は優しくしてくれたが、その優しさには同情的なものが含まれており、私には辛いだけだった。
そして、ある日。
ストレスを溜め込みすぎたせいなのかはわからない。
ふと、死にたくなった。
衝動的に道路に飛び出した。
私がいなくなったって、悲しむ人なんかいない。いや、誰もなにも思わないんじゃないかと思った。
そして、凄く後悔した。
私が轢かれる直前に、誰かが私をつき飛ばしたんだ。
そこらへんは、記憶が曖昧でよく覚えていない。
咄嗟に振り返ったが、どんな人だったかもよく思い出せない。
だけど、一つだけ覚えていることがある。
最後になぜか笑っていたんだ。
いや、振り返った瞬間に笑いかけられたんだ。
静かな笑みで、純粋な笑みで、満足そうな笑みで、安堵したような笑みで、そしてどこか、不敵な笑みで――。
これだけは、一生記憶に残っていることだろう。
そこから、私は意識を失った。
そしたら、なにを言っているか意味がわからないだろうが、見知らぬ大地にいたのだ。
私はわけがわからなかった。
絶体絶命のサバイバルを繰り広げるかと思ったところを、通りがかりの人に助けられた。
一時は安堵したものの、その人はなにかマズい人だったらしく。
私は研究所みたいな場所で監禁された。
逆らえないように、私の身体のなかになにかを入れられもした。
私は被験体として扱われたのだが、変な形の剣を持たされた。
念じれば手元に現れてくる。
それを使って、研究所内の広い部屋で猛獣らしきものを倒したんだ。
不思議なことに、その剣を私は身体の一部のように扱えて、さらにその剣を持っている間だけは、身体能力が大幅に強化された。
だから、戦いで困ることはなかった。
しばらくすると、私は外へ連れ出された。
よく知らないけど、戦地のような場所の真っ只中に放り出された。
襲いくる人を全員倒したら、回収される。
そんな日々が続いた。
私は人を殺した。
言葉で表してみれば非常に簡単だが、その度に私の心は壊れそうになった。
何度だって死のうと思った。
だけど、何かされたから死ねなかったし、死のうとすればあの笑みを思い出してしまう。
あの人のために生きなければと思ってしまうのだ。
私は半ば意地で、正気を保ち続けた。
正気を失えば、廃人になったままにあいつらに利用される。
それだけは嫌だった。
いつかここを抜け出したかった。
三年だ。
三年間こんな生活を続けた。
よく耐えられたと思う。
これは私の力ではない。
敢えて言うのならば、借り物。
どこかで私のことを見守ってくれているかもしれない、あの人へのただの見栄だった。
そんな日々。
唐突に終わりが来る。
限界を迎えたのだ。
その時になってみれば、意外と呆気ないものだった。
〔カルマが一定の値に達しました。査定を実行中……〕
最後にそんな声が私の頭の中で響いた。
今までに何度かこの声を聞いたけれど、最後まで意味がわかることはなかった。
〔完了。カルマを清算して、罪科系スキルを取得します〕
だけど、きっと何か良いことだ。
そんな気がする。
だから私は、安心しながら、深く、微睡みの中……へと――。
***
〔スキル【虚飾】を取得しました〕
追憶が終わり、現実に声が聞こえてきた。
受け取った、彼女のスキルを――!
だけどまずい。
いろいろと衝撃的すぎた。
私のSAN値もピンチだ。
というかゼロった。
あんまり高くなかったんだ。
無理しすぎたかもしれないなあ。
「やっと、見つけた」
なんか声が聞こえてきた。
空から、半透明の翼を生やした白い、綺麗な少女が降り立つ。
幻想的ではあるが、今はそんなことをきにしている余裕なんてない。
あ……まずい……いしき……が――。
******************
久しぶり。
いきなりでわるいんだけど、これでこの物語はおしまいだ。
正気を失ってしまえば、続けられるものも続けられない。
しかたのないことだ。
えっ、僕が登場していたか?
ふふ、そんなわけは無いはずだよ。
だって――
「一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました」
彼女に席を変わってもらうのは、至難の技なんだからね。
それはさておき、このまま終わってしまうのは、少々消化不良過ぎると思わないかい?
少々なのか、過ぎるのかはっきりしてくれって?
これは手厳しい。
ともかく、ここまで来たんだ。
明かされていない部分も多々ある。
気になっているんじゃないか?
続きは、ないことはないんだけど……いや、なんでもない。
じゃあ、ちょっと探してくるから、しばらくの間残された謎をゆっくりと考えて、待っていてほしい。
これで一旦の終わりです。
ご愛読ありがとうございました。
気が向いたら続きを書くんで完結済みにはしません。
というか、明日にも更新するかもしれません。
では、またいつか。