私の終わり
大剣が私に迫った。
私は全力でそれを躱す為に動く。
この山脈にいたと言われる獣龍。
倒したのはおそらく彼女だろう。
彼女はその狂気のなか、龍を倒してまわっている。
そうでなければ、わざわざ私に向かって来た意味がわからない。
彼女のステータスは大して高くはなかったはずだ。
確かに私よりは高かったが、それまで。
龍に勝てるほどの劇的なものではなかったはずだ。
なら何で優位に立てていたか。
まず、考えられるのはスキル。
圧倒的な攻撃力を持つスキルでも扱えるのだろうか?
いや、スキル面では龍種権限があったはず。
このスキルという面で優位に立てていたのはいささかおかしな気がしてくる。
じゃあ、他にどんな可能性があるのか?
そうだなあ、人間が他の動物に勝っているものといえばなんだ?
それは、知恵だ。
そして、それがあったからこそ生まれたもの。
つまりは、道具。
そうだ。
今は彼女の持っている大剣に注目するべきではないだろうか?
ちょっと衝撃を受けすぎて大して気にしてはいなかったが、独特の形状をしている。
こう、なんか。一定間隔ごとに節みたいのがある感じ。
不思議な形してるよ。
彼女の一撃目が振り切られる。
私の右横を縦に叩きつける感じだ。
私の《龍纏・鱗》の竜力がこの大剣に反応して、バチバチと音を立てながら散っていく。
この大剣。
おそらく、竜特効はついているのではないだろうか?
彼女が地面に叩きつけられた剣を無理やり振り上げて私へともう一撃くりだそうとしてくる。
どんな動きしてるんだ!?
脚、翼を最大限に利用して、いったん距離をとることにする。
辛い戦いだ。
――っ!?
距離をとろうとした私めがけて、大剣を振り回している最中だったというのに、飛びかかってきた。
なんでそんな動きができるんだ!!
りゅ、《龍纏・甲》の出力を上げる。
くっ、抵抗虚しく大剣が私へと接触した。
バチバチという音と共に、激しい痛みを感じる。
まだだ。
黒いドロドロを使って大剣を強引に押し返した。
少女は押し返しされるままに数十メートル吹き飛ばされる。
はあ、はあ。
大剣に触れた黒いドロドロは、肉が焦げついているかのような有様。その不定形さを失ったようだった。
私はその部分を切り離す。
やはり、あの大剣は見立て通り厄介だった。
龍纏が切られるとか、躱すしかない。
なんとかあの大剣に触らないように、黒いドロドロで拘束しなきゃいけないか。
黒いドロドロを何本かの触手のようにして、彼女を襲わせる。
彼女は大剣を盾にしてそれを防ぐ。
どうしてあんなに巧みに扱えるんだ!!
攻めているはずのこちらにダメージが蓄積してきている。
守りに徹されているからか、さっきのように吹き飛ばすこともできない。
どうすればいい?
焦るな私。
まだエネルギーには余裕がある。
突破口は――。
不意に、少女が跳躍する。
人間って、あんな高く跳べるもんなんだ……いや、感心してる場合じゃない。
空中にいるってことは、地面蹴れないから動く向きが変えられないってことだろ?
なら今が攻めるチャンスではないか。
再度、黒いドロドロを伸ばして、彼女に襲いかかった。
意味わからん。
回転しながら、大剣を使って黒いドロドロを迎撃してるよ。
あっ……これ、まずいっ!!
ドーンと、これで何度目になるか、大剣が地面に叩きつけられる。
それと共に黒いドロドロが何本か切断された。
幸いなことに、私本体は真っ二つにされてはいない。
龍の反射神経の賜物だ。
叩きつけられた大剣。
私は警戒から、それを確認した。
何か違和感を感じる。
だが、その違和感の正体は、意外とすぐに解明された。
少女が大剣を持ち上げようとする。
そうすると、大剣が動いたのだ。
節を曲げてウネウネと。
一つの生き物のように。
気のせいか?
気のせいではない。
さらにこの大剣の全長が延びている。
最初に少女とは不釣り合いだと思ったが、これではもう、不釣り合い以前にこの大剣が天秤に乗らないんじゃないか?
鞭がしなるように、私へと襲いかかってくる。
大剣の腹の部分が当たるようにしなってくる。
刃でこようと腹でこようて、私へのダメージは刀身に当たるということでは変わらない。
つまり、驚異でしかない。
黒いドロドロを犠牲にして剣を弾いた。
避けられる速さじゃないんだ。
彼女とは言うと、大剣の柄を持ちながら走り回っている。
くそっ!!
大剣の攻撃は止まない。
これの性能が上がった理由はなんだ?
黒いドロドロをぶった切れだからか。
攻撃に当たったら強化されていくとか……理不尽。
私は今、大量の黒いドロドロを犠牲にして致命傷だけは避けている。
この状況を打開する方法。
使えるスキルは全部つかっている。
もう、手詰まり感が半端なかった。
あっ、油断した。
私をグルグルとした感じに大剣が展開されている。
というか、いつの間にかかなりの長さになってるじゃん。
やばい……っ。
黒いドロドロを収束させ、翼に形を変えてから、全力でこの包囲から脱出しようとする。
いけるかっ?
ジリッと焼け付くような痛み。
合間を潜るようにして脱出を――いっけぇえええ!!
――ジャラン。
私を嘲笑うかのような金属音。
身体の自由が奪われた。
拘束をされ、エネルギーがどんどんと減っていく。
不意に、鉤針のようなものが私の身体に食い込んだ。
これ以上わざわざ、逃げられないようにか?
ふと、私の中にこの剣のモデルになったであろう生き物が浮かんだ。
なるほど、龍には百足ってわけか。
そろそろ終わる。
ああ、エネルギーがもう少しで尽きそうじゃないか。
これじゃあ、私は眠らなきゃいけなくなる。
そしてつい、それでも良いかと思ってしまう。
さて、じゃあ。
終わりだ――
私に対する拘束が弱まった。
それから、散々苦しめてくれた大剣が消えていく。
解放された私。その目の前にいたのは、胸、ちょうど心臓の辺りに穴の空いた、虚ろな少女だった。
遂に人を殺してしまったか。
私に虚無感が襲ってくる。
心が壊れてしまいそうだ。
私に残った人間性は、これて消えたと言っていいだろうか?
私は少女へと近づく。
私は覚束ない足取りだっただろう。
まだ、私にはやらなきゃいけないことがあるんだ。
膝をつき、崩れ落ちた少女の傍ら。
私はそこに辿り着く。
そこから迷わず、スキル『体内寄生』を使った。
戦闘シーンが苦手すぎて悲しくなります。