なんか酷かった
駄目だ……。
なんかショックであと数秒は立ち直れそうにない。
なにがあったかって?
そうだね。
私は遠距離で【搾取】を発動させようとしたんだ。
そしたらどうなったと思う?
失敗したんだよ。
殺す気で吸い取ろうとしたのに。
悲しくない?
理由としては姿を確認しないと遠距離での【搾取】が発動しないというルール。
ほら、人間って服着てるじゃん。これが引っかかったんだ。
……あっ、人間って言っちゃったよ。
まあ、いいか……。そうだよ。そうなんだよ。
私はさっきまで人間と戦ってた。
しかも殺す気で。
なんのつもりで、と言われるかもしれないが、これは必要なんだ。
いわゆる、前世とのケジメというやつだろうか?
この際だから正直に言おう。
私は人間に未練ありまくりなのだよコンチクショー!
前世では死んでいいと思ってたし、死にたいとも思ったことがある。
でも、やっぱり生きたかった。
だから今までも諦めなかった。
そしてだ。
心のどこかでは、人間でいたいと思っている。
理由は簡単。私が人間だったからだ。
記憶はそのままだし、普通なら自分自身が変わることなんてものは、想像を絶するほどに怖いことなんだよ。
だからだろうか? 最初に見たとき、私の正気度は減った状態だった。
でもそれは駄目なんだ。
私の中で、欠片程度に残っていた人間性が、人間であろうとすることを否定する。
わかっている。
私は人でなしさ。
姿が人じゃないのなら、もう人とはよべないんだ。
それゆえに。
私は、人間を殺すことにした。
私は、人間を殺すことにした。
完全に逃げだ。
でも、そこに大義名分があるならば、正しくないとわかっていても、楽をしてしまうのが人間じゃないか?
私は龍だけど……。
それなのに――。
なんだ? この体たらくは……。
全員に逃げられた。
全力で挑んだっていうのに……。
おそらく、狼ちゃんを苦しめていたであろう兵器を壊す。
この兵器が私にもけっこう効いてしまったのだ。
形としては大砲みたいな感じ。
でもなんかエネルギーの弾丸を出してきた。
なんかすごく速くて、更に追ってきたから避けられなかった。
《龍纏・燐》が少し軽減したのを感じた。
《龍纏・甲》は透過されたようだ。
その後に私の中の魔力と反応してバチバチってなってダメージが入ったんだ。
聖特効。
確か狼ちゃんからの情報だとこんな名前の種類の攻撃だったらしい。
なんか不徳者が使うものなんじゃないかと思う。
神を冒涜する武器みたいに聞こえる。
武器の名前にリベリオンとか付いてそうだ。
閑話休題。
私は、それなら私に効くはずはないと思っていたのだ。
だけれど、現実は違った。
確かに聖特効だったのだろう。
だからと言って、他のやつにもダメージを与えられないわけではないのだ。
誤算であった。
よく考えたら、狼ちゃんが一撃掠っただけでエネルギーの半分が減ったと言っていたのを思い出した。
あの大量にあるエネルギーがだ。
私だったら二回は死んでる。
あの速度に誘導性は卑怯だろ……。
まともに受けちゃったじゃないか。
聖なる感じじゃなくて本当に良かったと思う。
大半のエネルギーを失った私だが、頑張った。
具体的にどう頑張ったかというと、黒いドロドロで傷の修復を演出して、『強制行動』でダメージなんかなかったように動いてみせたら撤退していった。
この兵器での攻撃が最大の攻撃方法だったみたいだからだろう。
追い討ちとかされてたら、どうなっていたところか。
幸いにあの兵器は、もう一度使うには時間がかかるのか、もう使われなかった。
何人かに苦し紛れの黒いドロドロを飛ばす攻撃をしたんだけど避けられた。
ハエみたいにちょこまかしやがって。
決して、私のコントロールが下手だったとかいうわけじゃないし! ……わけじゃないからな?
ヘコむ。
遠くの建物に向かって黒いドロドロを飛ばしてみる。放物線的な軌道で進んで行き――当たらない。
その後ろにあった建物が無差別に破壊された。
……これは練習しなきゃだ。
とにかく今は、立ち直ってこの辺りの建物を手当たり次第に破壊していこう。
黒いドロドロをテキトーに飛ばしてどんどん壊していく。
あっ、エネルギーの消耗が酷いなあ。
兵器の攻撃に加えて、『強制行動』、そして更に黒いドロドロを私の身体から引き離したぶんの消耗。
これでもうエネルギーが残りわずかだ。
落ち込んでた分、『不死身』のおかげで回復したのだろうが、いかんせん減らし過ぎていた。
全ての建物を黒いドロドロで壊せるほどにまで、回復は至らなかったようだ。
うろちょろして生き物がいるかどうかを探す。
私が今どこにいるかって?
それは、あの建物群の外に決まってるじゃないか。
あいつらは中から外にいる私を攻撃していたんだよ。当たり前だけど。
周りを囲っている壁みたいなのがあるんだけど、そんな硬くなかった。
少なくとも、私の苦し紛れの攻撃で崩れるていどには。
狼ちゃんが一回壊したりでもしていて、修復が間に合ってなかったのかな。
おっ! 遠目に生き物を発見。
なんだアレは?
でっかい……カエル?
でもなんか四足でのっそりと、ゆったりとした感じに歩いている。
まあ、【搾取】で吸えばみんな同じだ。
ん? よく見たらカエルの目の前にちっちゃい鳥さんがいる。
壁を崩壊させたりできたけど、それに巻き込まれて死んだやつはいなかったみたいだ。
『空間把握』の反応が撤退の瞬間まで減らなかったから間違えない。
悪運の強いやつらめ!
な……なにっ!?
カエルの口がガバッて開いて、飛び立とうとした鳥を捕らえた……だと!?
こいつ……私の知ってるカエルと違う……!
撤退の瞬間は、なんかピカッと光ったんだ。
強烈な光に目をくらまさなかったんだけど私は妨害もできないし、そのあとには誰一人としていなかった。
人間は私の想像以上に小賢しかった。
【搾取】発動!
謎生命体だって、構わず吸い尽くしてみせるさっ!
順調に吸えてる吸えてる。
まあ、私の演出に騙されて撤退していったほどの知能でしかないんだがな。
ふふん、この建物群は放棄されたとみなして、存分に破壊してやる。
もう半分くらいやってるけど。
カサカサになったカエルっぽい謎生命体の屍体。
なんか自壊したっ!?
と思ったら鳥さんが中から出てきた。
……丸呑みだったのか。
私はその鳥さんを【搾取】で殺した。
なんか何も思わず反射的にだった。