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ぶっ壊しちゃった

 『空間把握』がそれはそれは大きな巣をとらえる。

 狼ちゃんに西を教えてもらった。そしてここまで来たんだ。

 意気消沈して全然教えてくれなかったから、【搾取】をもっかい使うことになった。

 最後にはもうなんか威厳とかどっかいって、グデーンとした感じになっていた。

 悪いことをしたかな?


 まあ、いいや。

 私はあの狼ちゃん、嫌いじゃない。

 お話を聞いて友好を深めた結果わかった。

 だから殺さなかった。

 いくら私でも、理性のある動物を簡単に殺したりはしないのよ?


 ちなみに私はまだ山脈には辿り着いていない。

 その前に少し、私にやりたいことができたのだ。


 せっかく私が出向いたというのに、出迎えの一つもないのか。

 というか、恐ろしいほどにもぬけの殻だ。

 いいよ、こんな巣ぶっ壊してやる。


 うう……。

 そうだった。私は非生物を壊すのに向いていなかった。

 【搾取】は非生物に発動できない。


 そうだ、黒いドロドロを『流体掌握』で勢いよく飛ばして壊すことにする。

 うーん。

 これからはこんな戦法もありかな?

 だけどエネルギーとスタミナがどんどん減ってるしなあ。

 まあ、今はエネルギーも、スタミナも、減らしていったって構わない。

 そんな気分だ。


 たて……あっ、違った。

 巣が完全にぶっ壊れる。

 原型なんて何一つない。

 黒いドロドロした水たまりのある更地になった。

 いい仕事をした。

 他にもう一つあったんだよなあ。

 私が最初に上陸しようとした場所の近くだ。


 あ、間違えちゃった。

 そっちを先に行った方が効率が良かったのに……。

 もういいか、しかたない。

 気にしないで行こうか。


 いやあ、それにしても、月明かりがいいね。

 月って名前の天体じゃないと思うけど。

 だいたい半月みたいなくらいだ。


 星も数え切れないほどの数が空に浮かび、瞬いている。

 こんな光景、今まで私が過ごしていたところからでは考えられないものだ。

 しみじみと私の生活を感じ入る。


 完全に星の並びが違う。

 私の前世とは違う星だということを、なんとなく思い直させられる。

 未練は……若干でも残るのが人だろう。

 それでも私は龍だ。

 きっとそんなことは、ないはずだ。


 移動している間、どうしても暇になってしまう。

 そうだねえ、なら、声を出す練習でもしてみようかな。

 黒いドロドロを全力で活用すればいけるんじゃないか?


 いや、なんでこんなことをするのかというと、狼ちゃんへのささやかな対抗意識だ。

 私もなんかしゃべってみたくなった。


 黒いドロドロを震わせる。

 いい感じに音がなった。

 でも、それだけだ。

 声にするのはほど遠い。


 とおおー。

 今度はさっきより高い音が出た。

 でもなんかなあ、これが組み合わさって声になるとか信じらんない。

 どうなってんだろ?


 テキトーに練習していこう。

 奇妙な音が響き渡ってるけど、私からみんな逃げてるし、気にしないでおこう。

 なかなか上手くいかない。


 どうすればどんな音が出るか、最初から手探りなんだ。

 根気よくやっていくしかないか。


 うん。

 冷静になって考えてみると私はだれとしゃべるつもりなんだ?

 狼ちゃんとおしゃべりを楽しむため?

 狼ちゃん、森から出てくれそうにないし、私はもう森に戻るつもりもないし、それはなんか違うか。


 私、意味ないことやってた。

 そもそも、頭に直接意味叩き込むやつでもないんだし、私の使える言語じゃダメじゃね?

 なんか、損した気分だ。


 もうなんか、無駄でもやってやる!

 実際暇だし。

 一通り、声と呼べるようになるくらいまでは練習しよう。

 アイウエオの発音からだ。

 うん、できない。

 なんだ? 何がいけないんだ?


 そんなことをしているうちに次の目的地に着いてしまった。

 声出しの練習はまた次の機会というわけだ。


 なんでだろうな。

 またもや誰もいない。

 私の接近に気がつけるというのか。

 海岸では気がつかなかったくせに。


 もしや!?

 実は私が何かを発していたりするのだろうか?

 それで、それを感じ取れる道具がこの中にある。

 そう考えるべきかな?


 だいたい、野生の動物とかはどうやって私の存在に気づいてるんだ。

 本能的に、あっちにはヤバいのがいるぞっー!? となるのだろうか?

 野生の感はあなどれない。


 あれれ?

 逃げ遅れが少しだけいる。

 これは……やっちゃおうかな?

 どうしようかな?


 ん?

 おわ! いてっ!?

 《龍纏・甲》が防いでくれたから実際に痛みは走らなかった。

 今のは、攻撃を受けて反射的に言ってしまうことであろう。


 そんな攻撃が私に効くわけがないだろう。

 ほう、戦線布告もなしに攻撃とは、いい度胸ではないか。

 だが、それをやっていいのは相手を倒せるときだけだ。

 お前らに勝ち目はないことがわかってるんだろう?


 全く、狼ちゃんは死を覚悟しながら森のために頑張ったんだよ?

 少しは見習うんだ。

 そんなお前たちに森を開発する権利はない。


 ん?

 そうだった。

 なんでこうなったかと言うと、狼ちゃんが原因だ。

 私も間接的な原因だけど。


 私が【苛虐】を使いすぎたら、狼ちゃんが凄まじい感じにぶっ壊れたのだ。

 どうなったかというと、いろいろ超高速でなんかしゃべり始めた。

 発狂したんじゃないかな?


 それでもって、短時間で頭のなかに大量の意味が叩き込まれてくるわけなのだ。

 一緒になって発狂しかけた。

 逃げるという選択肢がなくなるくらいにはまずかった。


 まあそれで、狼ちゃんの一生みたいなものを理解させられたんだ。

 ちょっと共感した。

 あの子は私以上に大変な人生だったんだよ。

 龍からの蹴散らされ方なんて、ほんとに不憫でならなかった。

 よく生きてる。


 さて、ようやくこれが本題なんだけど、あの森が開拓されそうになっているそうだ。

 話の最後に言ってた。


 なんと、最後まで話してしまったら、それはもうスヤスヤと眠ってしまったのだ。

 あのステータスだし、放っといても大丈夫だよね。


 私が森を破壊しちゃダメなら他もダメに決まってる。

 だから私はそれを防ぐために奔走したというわけだ。


 狼ちゃんではできないらしい。

 なんでも、狼ちゃんの天敵ともいうべき兵器がこのなかにはあるから。

 狼ちゃんはそれで一回、撃退されたみたいだ。


 固定式のようで、持ち出せないから森は大丈夫みたいだけど、とにかく面倒なんだって。

 なんでここに築かれる前から妨害しなかったかと後悔していたようだったし。


 狼ちゃんへのお詫びも兼ねて、ここは私が一肌脱ぐことにしたのだ。

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