諦めたくはなくて
閃光。
それが私の身体を貫く。
いや、正確には伝導か。
全身が熱くて辛い。
ついでに、痺れて身体が動かない。
なんだよ、効かないんじゃなかったのかよ。
ステータスを確認すれば、エネルギーは減っていない。
私のスキルのおかげだろう。
熱さとかであまりエネルギーは減ったりしていないようだ。
さて、じゃあ、言うまでもないかもしれないが、どうしてこんな状況になったかだ。
まずはこの年貢のやつの移動方法からだ。
こいつ、泳ぐ速度はそんなに速くない。
まあ、速いことには速いんだが、あのカジキのようなやつほどではないのだ。
どうしたらそんなことがわかるのか?
考えてもみてほしい。
だって、最初に私の頭上を通り越したとき、ステータスが開けちゃったんだ。
あのカジキのようなやつは理不尽な速さからステータス自体開けなかったというのに。
じゃあこの年貢のやつは、どうやって私の【搾取】を外したり、短い間隔でいろんな方向から攻撃を放っていたか。
ワープ、もしくは距離を短縮するようなスキルを持っていたと考えるのが道理だろう。
それを使って、私の『空間把握』の範囲からも瞬間的に外れたというわけだ。
そうやって逃げたこいつだが、仮にも龍だ。
本能が負けっぱなしを許すわけがない。
逃げたのではなく、戦略的撤退か。
そうして、私から退いた先で、こいつは回復に注力したというわけだ。
だからこうやって、また私の前に現れた。
今度は完全に倒せるように、近くから最大出力の一撃をお見舞いしてくれたわけだ。
なら次に、こいつの攻撃方法について。
これなら簡単すぎて私もなんでわからなかったか不思議なくらいだ。
これは一足飛びに正解を言おう。
この攻撃は、電撃だ。
光が通った後にできていた泡。
これは海水が電気分解でもされたか、電気が通るときに生じた熱で沸騰したからじゃないかと思う。
私のそばを通ったときに、私の身体が少し動かなかった。
目に見えない電気がまだ残っていて、それで痺れただけだろう。
あのクジラみたいなやつが、貫かれたというのに、穴が開いていなかった理由。
これも電気ならなんとなくわかる気がする。
さらに、【搾取】で閃光を散らしたとき。
あの散り方は、電気と言わずして何と言うんだ。
最後に、『燃焼攻撃無効』。
あの【搾取】で散らしたときに私の方にも散ってきていたような気がしたが、これのおかげで、私は電気のダメージを受けなかった。
そう、私は電気のダメージを受けない。
――私は。
くく、ふふふ、あはははっ!!
どう……っだ!
やってやったぞ。
体内にいたあいつは感電することで死んだんじゃないか?
いやあ、苦しめてくれたわりには、意外と呆気ない終わりだったなあっ……!
さあ、問題の一つは片付いた。
なら後は目の前の敵を何とかすればいい。
幸い、私を見てくれた。
さぞ驚いてるんじゃないか?
私があの一撃で死んでいないってこと、そして私も龍だってことに。
どうする?
この龍。
さっきの一撃に蓄え直した竜力を全て使い切ったんじゃないか?
くははっ。
だけどもう、私と同じように、沸き上がる殺意で戦略的撤退なんて出来ないだろう?
私は【搾取】を発動する。
前回の戦闘で多くなった吸い取れる量はそのまま。
私の見立て通り、竜力は吸って数秒で底を尽きる。
もうこうなれば、接近戦をするしかない。
それでも私は、逃げ回っていれば勝ちなんだ。
伊達に練習して来たわけじゃない、私の泳ぎを見せてやるよ。
時間内を逃げ切るぐらいやってみせるさ。
年貢のやつは私に向けて急接近をしてくる。
私は上へと逃げる。
年貢のやつは、尻尾を使って私を弾き飛ばす。
そのまま弾き飛ばされよう。
やはり平氏のやつの鎌のような即死の威力なんかない。
威力のありそうな攻撃。
つまり、噛みつかれるか、爪で引っ掻かれるかしない限り、私は即座に【搾取】と『不死身』で回復するんだ。
今の私ならどちらとも容易く躱せる泳力を手に入れてる。
スキルってすごい!
致命傷だけは避けながら、私は海中を弾き飛ばされ続ける。
一見したら、私が一方的にやられているように思えるが、実は私が優位にいるという構図ができる。
そろそろ【搾取】の方もいい感じに……。
〔龍種権限による抵抗に失敗しました。融合が開始されます〕
ば……馬鹿なっ!?
電気で死ななかっただと……!?
……うふふ、なんてね。
知ってた。
電気程度でこいつが死なないというのはなんとなく予想がついてた。
あと、龍種権限が役立たずだってことも。
電気で死んでくれたら本当にありがたかったんだけどなあ。
しかたないか。
この黒いドロドロ。
実は私の細胞と成り代わっている。
だからこそ、スキル『寄生体追放』を竜力で強化したときに、私が感じる痛みが強くなった。
自分で自分を痛めつけていたようなものだったんじゃないだろうか。
【搾取】が発動しなかったのも、これが理由だったのだろう。
それに、電気に耐えたのは私のスキルがこいつにも発動したわけだ。
私を守るためにと――。
そういえば、私が水中で息ができているのは、こいつのおかげかもしれないな。
ずいぶんと皮肉が効いてるわけだ。
もう私はここまでくればお手上げ、何もできることがない。
私の意識が遠ざかっていく。
私は年貢のやつからの【搾取】をやめる。
全てを諦めるために――
――否、全く違う、そんなことはあり得ない、絶対にそんなことはしない。
そう、それだから、私は使う。
スキルを使う。
だって、こんな状況に最適なスキル。
私は持っているだろう?
私の残る全意識を集中させる。
年貢との戦闘中だが、今はそんなことどうだっていい……!
対象はもちろん、私自身の身体だあっ!!
いくぞ、働けぇえええ!! 【苛虐】ぅうううっ!!
ここで使わずどこで使えって言うんだ!
従えぇえええ!!
今にも失われそうな意識を気合いだけでかろうじて保つ。
勝算なんて五割にも満たない。
だけど私は信じている。
【苛虐】と、そして何より、私自身を――
〔融合が完了しました。ステータスが統合されます〕
微かに残る意識のなか、そんな言葉が響いてくる。
その声を合図に……私の意識は……闇のなかに――
――ダメだ! いけない!!
【苛虐】に僅かながら手応えを感じる。
【苛虐】が効く条件。
これが効くにはある程度は弱めていないといけないんだ。
なら、なんで効いているか?
私は今、絶賛カジられ中だからさ。
そんなのと融合したら弱ってしまうに決まってる。
意識が明確に浮上する。
【苛虐】が完全に効いている。
いま、理解できた。【苛虐】、それと【搾取】は私のスキルだ。
ステータスが統合されようが、あいつには使えない。
じゃあ、私を散々苦しめたあいつに、最初で最後の命令を出そう。
私の意識を抑える何かに「消えるんだ」と、そう伝える。
私を抑えるものは完全になくなり、私は私の身体の主導権を握る。
〔条件を満たしました。種族が昇格されます〕
〈ステータス〉
妖龍Lv:1
ライトスイクィス
ENE:012/138
STA:092/118
SAN:019/240
MAG:88/88
DRA:062/176
KAR:036/100
〈スキル〉
『不死身』『魂魄攻撃無効』『燃焼攻撃無効』『体内寄生』『拘束効果緩和』『虚時間幽閉』『判別分析』『狂気化』『強制行動』『空間把握』『水中遊泳』『複数分裂』『精神干渉』『流体掌握』『融合吸収』
1. 《龍纏・甲》
2.
3.【苛虐】
4.
5.【搾取】
ステータス、スキルを確認。
ステータスでは、あんまり強くなった気がしない。
スキルは統合された感じでかなり充実したから十分か。
ついに私にも固有名詞みたいなのが付いてしまったか。
やけにイが多い気がする。
そして、それとなくなんでこんな名前になったのか私には分かってしまうところが悲しい。
そうだ、急がなくては。
私は瀕死に近かった。
【搾取】を再稼動してエネルギーを吸収し直す。
あいつの敗因は【搾取】での吸収が使えなかったことだろう。
あるていど私のエネルギーが回復した。
そこで私は私の身体を引きちぎる。
そしてカジられてる状態からの脱出に成功した。
黒いドロドロが私の身体から流れる。
おや? へぇー。
どうやら、黒いドロドロを私の意思で操れるようだ。
それどころか、身体の一部を黒いドロドロにすることも可能。逆もいける。
まあ、失った部分の補填がかろうじてできるくらい。エネルギーは回復しない。
翼を黒いドロドロに変える。
《龍纏・甲》を翼に使用。
その状態で、年貢のやつの口を塞ぐ。
ふふふ、どうだ?
後は爪に気をつければ……て、ほえ!?
高速で泳いで私を振り回すな!?
新しく手に入れたスキル。
『流体掌握』を使用。
難しいが、これでなんとか障害物に当たらない。
しばらくこのアトラクションを遊んでいれば、だんだんと速度がなくなってくる。
そろそろ時間だ。
もう走りきったというわけだ。
そう思ったときだ。
私の身体が動かなくなる。
痺れたようにだ。
これは……電気の攻撃?
でもなんで今更……なっ!?
龍が純粋な力だけで地面を割る。視界が大量の泡で埋め尽くされる。
目が合う。
覚悟を決めたかのような目。
――爆発。
〔条件が満たされました。スキル《龍纏・鱗》が解放されます〕
ああ、瀕死だ。
エネルギーが一桁だ。
最後の最後でやってくれた。
〔一定の経験を得たことにより、レベルアップしました〕
お、今度はちゃんとレベルが上がったみたいだ。
まったく、経験を奪うなんて、私たちの闘いへの冒涜としか思えない。
はあ、最後に自爆とは、なかなかやるじゃないか――鱗龍リザルアリフィス。
お前のことは少なくとも、黒いドロドロの意識よりは、私の記憶に残ったぜ。
これで、憂いなく地上を目指せる。
き、きつかった。
戦闘はあっさりするもの。
次回。
果たして、こんなのが地上に進出していいのだろうか?
まあ、次も頑張ります。