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拝啓、だれか。食べられました

 それは強大だった。

 私の何十倍。体積で言えば百倍は越えているであろう体躯。

 どんな攻撃でも傷つかないと思えるほどに荘厳な鱗に覆われている。


 私よりも圧倒的に上の次元にいると悟れる存在だった。


 一瞬、こいつが親なのか? とも思ったが、それを私の本能が否定した。


 なんというか、こいつは龍じゃない。

 見た目からしてものすごく、ドラゴンって感じはしているのだが、龍じゃないのだ。

 龍として備わった資質なのか、私にはどうやら同族かどうかが見分けられるようだ。


 はっきり言おう、私じゃ勝てない。

 傷つけることさえも難しいんじゃないかと思う。

 むしろ、戦うことを前提に考えている方がおかしいくらいに、相手にならない。


 だけど、何故だろう。

 恐怖は感じない。

 それよりも、どこからか沸いて出た、優越感の方が大きいくらいだ。


 それは相手も同様か、全てを見透かすように私を睨みつけるその目には、若干の怯えのようなものが感じられる。


 じゃあなんで、降りてきたし!


 これ、どうすればいい。

 なんか物凄く逃げたくなってきた。

 これは本能的なものじゃなくて、私の感性から来たものだ。


 でも、どうやって逃げる。

 こいつが塞いでるせいで前へは進めない。

 後ろに引き返すのは、今までの努力を無駄にするみたいな気がするから論外だ。

 なら、迂回して進むしかないか。


 受け取り方によっては絶体絶命のピンチだというのに、私自身、妙に落ち着いている。

 ひとえに、これが種族の補正的な何かだろうか。


 といっても、私が動くのをこいつが許してくれるだろうか?

 現在、私とこいつはお互いを見つめ合っている。

 この膠着状態は、私が余裕そうにこいつのことを眺めていたからかもしれない。


 目をそらした瞬間に、襲ってくる。なんて、動物ではよくありそうな流れである。

 そうなると、目を合わせたままじりじりと動くしかないか。


 改めて、このドラゴンを観察する。

 蛇のように長い身体だ。

 メートル換算で数百はあるのではないのだろうか?

 いや、私自身の大きさがわからないから確かなことは言えないのだが。

 人間と会ってみたら、意外と小さかったなんてことがあるのかもしれない。

 まあ今は関係ない。


 次に目に入るのは、やはりその翼だろうか。

 かなりの大きさだ。たけど、この巨体が飛ぶには少し小さいと思える。

 だけどこいつは確実に飛んでいたんだ。

 つまり、魔法的な何かだというわけだ。

 飛べるというのは、羨ましい限りだが、これで私にも希望が与えられた。


 いつかこの私の小さな翼で大空を舞う日がくる可能性があるのだ。

 それはとても魅力的だ。


 ともかく、第一目標は、こいつの脇を通って前に進むことだ。

 なぜ後ずさらないのか?

 考えても見るんだ。こいつのことだ。その気になれば簡単に追いついてこれるはずだ。

 つまり、進行方向なんて些細な問題でしかない。


 ゆっくりと動く。

 決して目をそらさずに、まず横に移動する。

 こいつの顔を中心に円を描くように移動するのだ。


 確実に、一歩一歩を踏みしめる。

 こいつも顔を動かすことで、私を視線で追従する。

 決して目をそらしたりはしない。

 相手がこちらの興味を失ってくれたらどんなに楽か。

 私の精神がすり減っていく。


 ある程度の時間が経ち、なんとか後退りをする段階へまでもってこれた。

 隣には、こいつの長い躯体が伸びている。

 少し動かされただけで、小さな私など押し潰されてしまいそうだ。


 こいつは、相変わらず身体を動かさずにこちらを見つめている。

 首だけを動かして、ほぼ後ろを見ているのだ。

 その体勢、辛くないか?

 いや、そうさせている私が言うのもなんだが。


 こいつに会ってからかなりの時間が経っている。

 そして、こいつが降ってきたのは夕暮れあたり。

 今はもう、日が沈みきって満点の星々が空から私たちを照らしているのだ。


 当たり前だが、夜は暗い。

 それなのに、周囲がよく見えるのは、私が龍であるおかげだろうか。

 ついでに相手の目線も、私をしっかりと捉えて離さない。


 暗闇で私を見失ってしまえば早い話だったが、それは無理なようだ。

 このまま後ずさっていくしかない。


 ジリジリと、緊張状態が続いていく。

 いつ終わるとも思えない、一秒一秒がとても長く感じられてしまう。


 その状態がお互いに続いているのだから、精神的によくない。

 そういえば、なんでこいつは私なんかを警戒しているのだろう。


 単純に考えて、龍だから?

 でも、見た目からして私はこいつに勝てない。変な余裕こそあれど、一矢報いることだってできない気がする。

 相手にとってみれば、取るに足らないはずなんだ。


 龍にいやな思い出でもあるのだろうか?

 それとも私から、私には認知できないオーラ的なものが発せられているのだろうか?

 どんな理由にせよ、そのお陰で私が助かっていることは言うまでもないのだが。


 もうすぐこいつの尾の射程範囲から逃れられる。

 ここまで長かった。

 一安心というわけだ。

 後は相手が見失うくらい遠くに――


 そのとき私は、一段落したからか、油断をしてしまっていた。

 まだ終わっていないというのに。

 だからこそのこの結果だろう。


 気がついたら、厳ついドラゴンフェイスが私の目の前にあった。

 精神の磨耗、気の緩みからか、少しボーッとしてしまったのだ。


 まずい。

 どうすればいい?


 なにもできる手段がない。

 このまま何もされないんじゃないかという楽観的思考が頭をチラつくが、そんなことはまずないはずだ。

 こいつの目に怯えはの色もうない。


 このまま私は死ぬのだろうか?

 まだ転生して一日も経っていないのに。


 今さらになって気がついたのだが、意外と私は生に執着している。

 だからこそだろう。

 絶望が私を襲った。そして初めて、この目の前にいるドラゴンに対して、恐れの感情が生まれてくる。


 ――っ!?


 それと共にだ。私の全身から力が抜けた。

 これはなんだ?

 肉体が精神に引っ張られた?

 いいや、違う。もっと違うベクトルのなにか。

 わけのわからないままに、私はその場に崩れ落ちた。


 それを契機に、ドラゴンが動き出した。

 まず、私を見定めるようにあちこちから眺める。

 それも数秒、私は口に咥えられ、飲み込まれた。


 ザラザラとした舌に送られて、喉の奥にたどり着く。

 喉のなる音が間近に大音量で聞こえてきた。


 私は何もできない。できなかった。

 筋肉が命令を聞いてくれない。足一つ動かすことができない。


 そのまま私は流されて、水の中に落ちる。


 正確には水ではない。

 タンパク質を溶かすための消化液だ。


 全身が焼けるように痛い。上手く浮かぶことができずに息が続かない。

 苦しい。

 ただひたすらに苦しい。


 どうやっても逃れられない。

 まさに地獄だ。


 このまま私は死んでしまうのだろうか?

 必死にもがこうと、ただ沈むだけ。

 嫌だ、そんなのは絶対にいやだっ。

 だから、だから!!


 私が生き残る最後の可能性。

 スキル『不死身』に願いを託す。


〔一定の環境が整ったため、進化を開始します〕


〔条件を満たしました。スキル『燃焼攻撃無効』『寄生』を獲得します〕


 意識を失う直前に、そんな声が聞こえた気がした。

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