遠距離での接戦
私はあいつを倒すために頭をフルに回転させる。
いや、駄目だ。違う。今は考えている暇なんてない。
感知できる範囲からあいつはもう外れるところだった。
『空間把握』に全力で竜力を込める。
どうだ。これでこっちに気がつくか?
あいつは動きを一瞬だけ減速。
その後、直角に曲がるように移動。『空間把握』の範囲外へと外れていく。
させるか!
つぎこむ竜力の量を追加し、あいつを捉え続ける。
そうしたことにより、そこそこに大きな反応が私に向かって集まろうとするが、気にしない。
するとあいつが静止するのを確認できる。
――来るっ!?
深海の闇を刹那の閃光が支配する。
私に群がろうとする魚の一部を蹴散らしながら、私へと向かってくる。
だが、この距離なら反応するに十分。
【搾取】を使用。
その瞬間に、光は散った。そう、散った。けれど、これは消えたという意味ではない。
その光は拡散され、不規則な軌道を描いた。
収束されていないぶん、殺傷力は低いのだろうが、周りにいる雑魚たちを再起不能にするほどの威力は持っているようだ。
そうなった攻撃だが、私のエネルギーが減っていないことから、私へとは届いていないことが理解できる。
私は急いで【搾取】の対象を切り替える。
もちろん、さっきの攻撃の仕返しだ。
『空間把握』竜力強化バージョンで捉え続けているし、姿ならさっき見たから可能なはず。
さあ、どうだ?
【搾取】があいつに対して発動した手応えを感じる。
やはり、平氏のやつと同じく、物凄く、凄まじい程、凄絶に吸いづらい。
それでも、初めて平氏と相対したときよりは、いくぶんかマシだ。
【搾取】を使い続けて熟練した結果だ。
【搾取】が効いていることから、少しの安堵を覚える私だったが、なかなか上手くはいかないものだ。
すぐ後にもう、【搾取】の手応えがなくなったのだ。
その理由は『空間把握』から教えられる。
あいつが移動したんだ。私が少し気を抜いていた隙にかなりの距離を。
ある程度の速度があれば【搾取】で捉えられないことは、あのカジキっぽいので体験済みだ。
あいつもそのくらいのスピードが出せるのだろう。
予想はできていたが、これではかなり厄介だ。
まあ、これは【搾取】の性能というよりは、私の技術的な問題な気がする。
要するに、私がその速度についていって、常時【搾取】を発動し続けられるようになればいいのだ。
なんとか頑張ろう。
あいつからの第二射。
今も私から竜力が発せられていることにより、私がまだ死んではいないことがわかっているはずだ。
一射目と同じようにして、私には届くことはない。
あいつは、この攻撃を放つときとその前後に動きが止まるよう。
大きな攻撃には、隙がつきものだ。
その数秒に【搾取】を使う。
じんわりと吸い取る。
そうすると、次に気がついたときはもうすでに、かなりの距離を短時間で移動されて、【搾取】が外れてしまっている。
高速で動いた理由。
私が【搾取】発動していることに、きがついているのか? それともあの攻撃の後のクセか?
まだ感づかれるほどの勢いで吸い取れてないことから、おそらくは後者。
ならば、私が反撃しているとなどは気がついていないはず。
三射目の閃光。
私は慣れたようにして無効化する。
こんな攻撃では、私には届かんぞ?
あいつはそろそろ、なかなか倒せないと他の手を使ってくるだろうか?
まあ、他の手を使えど、逃げるなんてことはしないはずだ。
だって、私が反撃していないように見えるんだからしかたない。
三度目の【搾取】。
微量だけ吸い取ると、あいつはまた別の場所に短い時間で移動している。
速すぎると思うんだけど、いろいろと大丈夫なのだろうか?
私の心配はよそに、また同じ攻撃が繰り返される。
だからそれは効かないって……。
同じように対応して、ダメージを受けずにやり過ごせる。
こいつ、他に攻撃手段もってないの?
私ごときに使う必要がないと?
よおし。【搾取】使用。
相変わらず全然吸えない。
けど着実に進歩はしているはず。
それから数回に渡って同じような攻防が繰り広げられた。
お互いに決定打はない。
しかし、私は追い詰められつつあった。
現在、私の竜力は半分を切ったくらいの感じだ。
これでも全力で節約しているつもりだが、『空間把握』に使っている竜力の消費がそれなりなものだからだ。
それに加えて、あいつから吸収できる量が全然増えていない。
これではそう遠くないうちに、私が一方的に攻撃されるようになってしまう。
とにかく、『空間把握』で捉えられなくなるのはまずい。
【搾取】が使えなくなるということでもあるが、それ以上に……。
私は予備動作ありきで、あいつの攻撃を見切っている。
それもできなくなるということは、アレをまともに受けるということ。
あの速度は予備動作を認識できなくなるのでは、さすがに防げない。
これは詰んだかもしれない。
まあ、どの道、私に引くという選択肢はない。玉砕は覚悟するべき。
ふふ、いいや、違うさ。
実際はそんなこと、露ほどにも思ってはいない。
それはあいつが、私との距離を徐々に、本当にゆっくりとだが、確実に詰めてきているからだ。
理由としては、あいつも竜力が心もとなくなってきたからだろう。
あいつの遠距離攻撃が遠距離攻撃として機能しているのは、ひとえに、竜力で強化しているからだ。
遠くに飛ばそうとすればするほど、竜力を消費する。だから、あいつは遠距離攻撃を続けるために近づかざるを得ないのだ。
本当に、いつまでこれを続けるつもりだろう。
私がダメージを受けていないのをあちらは認識できていないのか?
長期戦になればなるほど、私が有利になるのは違いないが、なにか違和感があった。
普通なら、私みたいに手札が少ないわけでもない限りは、別の手を使うはずだ。
どうしてこうまでも、ワンパターンなんだ?
ついにあいつがデフォルト『空間把握』の圏内に入った。
これで私がかなり有利になる。
予備動作から、私に攻撃が辿り着くまでの時間が短くなってくるが、そこは慣れでなんとかする。
あいつの動きに慣れてきたおかげか、あいつに対する【搾取】もあまり途切れずに使用することができるようになる。
私の勝ちはもうすぐそこだと思ったときだ。
反応が突然で、忽然に、忽如であり、突如として、突然なことに消えてしまった。
逃げられた、ということなのだろか?
信じられない。
私は予想外の出来事に、しばし呆然とした。
これから更新ペースが本格的に遅くなるかもしれません。