どんどん倒す
おおきいなあ。
ここからでも姿がはっきりとわかる。
クジラのようなものが悠然と泳いでいた。
〈ステータス〉
海王Lv:56
ノイジー・ギガンティックホエール
ENE:562/573
STA:420/425
強い。
御館様のステータスにはだいぶん劣っているが強い。
あいつはここら辺の反応の中で、他より抜きん出ていたやつだ。
だが、こうしてみると、御館様がいかに規格外だったかがわかってくる。
なら、さっそく【搾取】を発動。
ああ、こいつ……かなり吸いずらい。
レベルがそれなりに高いから当然か。
どのくらいかかるだろう?
さすがに平氏のやつのとき以上にかかることはないだろうけど、それなりにかかりそうだ。
その間、遠距離での【搾取】が使えなくなるのは少し不便だが、しかたないか。
でもそうなると、直接触らないと他のやつに【搾取】が発動してくれないんだよなあ。
私の移動速度は本場の魚たちには圧倒的に劣るし。
そしたら、あのカジキっぽいのを倒したときみたいな肉を切らせて骨を断つ的な戦法を使うしかなくなる。
遠距離攻撃を使えるようなやつだったら、一方的にやられるしかなくなるわけだ。
まあ、そのときになったら解禁すればいいか。
倒したあとにかけ直したって特に問題があるわけでもないことはわかってるんだ。
あれ?
クジラのようなやつが辺りをキョロキョロしている。
もう気づかれたかな?
そう思ったけど、違った。
この暗い深海の中を、極光が走る。
その光の線は、クジラのようなやつを貫いて、私のすぐそばを駆け抜けた。
静寂のなかを、低く大きな声が響く。
光が通り過ぎたあとには、泡が地上にむかって立ち昇る。
急いでクジラのようなやつのステータスを見直す。
……信じられない。
クジラのようなやつのステータスはもう表示できなかった。
つまり死んだということだ。
……あ、あり得ない。
あれほどのステータスを持ったクジラが一撃で?
いや、それ以上に――『空間把握』で感知できる限りの際立って大きい反応が、次々と消えていくのだ。
なんとなく、場所を変えるために動こうとする。
けど、さっきの閃光がそばを通った恐怖からかはわからないが、身体が動かなかった。
くっ……。
気を取り直して、私は攻撃が放たれている位置を特定しようとする。
いくら、大きな反応の対象しか狙っていないとも言えど、巻き込まれているやつだっている。
直線状に小さい反応が消えていっていることから特定は簡単なはずだった。
だけど、できなかった。
この試みから分かったこと。この攻撃の主は高速で移動しているんだ。
完全に放たれている方向がバラバラ。
そんなんだが、たぶんこれは、あのカジキっぽいのより速くないと無理だ。
まさか複数いるとかはないよな?
それと、私の『空間把握』の外からだっていうこと。
これは単純に、そんなことができそうな反応が引っかかっていないことと、攻撃が『空間把握』できる範囲の外から始まっていることからだ。
だめだ。私の中からどうしようもない憤りが沸き出てくる。
こんなのは、龍種権限に干渉してきたやつが私を良いように利用していたと気づいたとき以来だ。
私の獲物を勝手に横取りするなぁあああっ!!
くそっ、くそぉ……!
ここ一帯は私が全滅させようと思ってたに! なんてことしてくれるんだ!?
確かに、まだ体内のやつとも決着がついてないし。
そんな大仰な目標が達成できるようなほどの力は持ってもいないかもしれない。
だけど……。
目の前で獲物を殺されて、私が大人しく引き下がれるわけがない。
どうしてやろう?
うん。
方法がない。
参考までに、光に貫かれたクジラのようなやつの身体を観察する。
一応あの攻撃への対策を練っておきたい。
光に貫かれたクジラのようなやつの身体は……あれ? 穴あいてないじゃん。
あの光って、なんだったんだよ。
なんだ? ファンタジー的な未知のエネルギーみたいな感じか?
速度としては、それほど速くはなかった。
遠くからなら、見てから【搾取】でなんとかなるかなあ?
ただ単純なスキルの威力だったら無理だけど、それはないはず。だよな……?
辺りを見渡す。
巻き込まれた魚たちが海中を漂っている。
哀れ。
全く、こんなことして。
ここら辺一帯の生態系が崩れてしまうじゃないか。
えっ、私?
私は無差別にやるつもりだったから、崩すとかじゃない。失くすんだ。
それはまあ自分でも、無理だとは思っているが、そのくらいの心意気だった。
でっかい反応だけ狙い撃つとか意味わからん。
少しいろいろとなめてるんじゃないか? こいつは。
予定変更。
どうにかしてこの生意気なやつを倒す。
安全圏からの攻撃とか、私が絶対に許さない。
それをやって良いのは、今は亡き御館様くらいだ。
私の場合は、安全圏と言えるほど離れたら『空間把握』の範囲外になるし、竜力つかうと居場所が簡単にバレるし、やっぱり許せないな。
地上を目指すのは後回しでもいいかな?
実際は今の海中の暮らしで不便をしているわけでもない。
少しくらい延期したって困るわけじゃないんだ。
ただ、やっぱり陸で暮らしたい気がする。
なんか無性に、命溢れる森林に行きたい気分なんだ。
その命を――
なんか最近、もう私の性格は原型をとどめていない気がしてきた。
龍種になったことに加えて、【搾取】を手に入れてから、いっそう酷くなってきたんじゃないか。
黒いドロドロの感情操作だってあるし、発狂しないだけで偉いと思う。
そういえば、正気度がかなり低い状態のままだった気がする。
これって、まずいかな?
まあ、どんなデメリットがあろうと、私は【搾取】を使い続ける。
あっ、【苛虐】の存在を忘れてた。
いや、使いこなせれば強いだろうとも思うけど、汎用性がほとんどないじゃん。
それとも、まだ本気だしてないだけだろうか。
出番になったらきっと使うさ。
今ある手札でこの正体不明の敵を倒さなければいけないのか。
しかも、体内のアレと戦いながら。
改めてスキルを開いて見てみると、ずいぶんと多くなったと感心する。
それでも、攻撃に使えるようなスキルっていうと、【搾取】くらいしかない。
やはり私は、【搾取】を使わなければ生きていけないようだった。
――っ!?
そのとき不意に『空間把握』が、規格外の存在を捉えた。
反応の大きさとしては、だいたい平氏と同じくらいだろうか?
移動するのは、辺りの獲物がいなくなったからだろうか。
それは一直線で私にむかって進んでくる。
瞬く間に距離が詰まる。息が詰まる。
そして――私の頭上を信じられない速度で通り過ぎる。
そいつは私に気がつかなかった。
当たり前だ。あの速度で移動しているのだから、周りに注意が行き届かなくなるのは当然だ。
だけれど、私は気がついた――
〔龍種権限により、情報が規制されました〕
〈ステータス〉
鱗龍
リザルアリフィス
少し遅れて声がする。
そのあとになってようやくステータスが開示された。
もう行ってしまったというのに。
この出会いに、私は運命的なものを感じる。