深海に着いた
真っ暗な中においても、私の目は使える。
これはもう体験して、証明済みだ。
光の届かない海の底に私はいる。
水圧とかは大丈夫だったけど、これからどうしたらいい?
どうしたらって、海から抜け出したいのだが、どうやって陸まで上がる?
ひたすら泳ぎを練習するくらいしか思いつかない。
『水中遊泳』なるスキルを手に入れたことで、私は泳ぎが上手くなったと思う。
それなら、またここから練習して、陸地まで辿り着けるくらい上手くなろう。
海底を移動する方法もあるが、これだけでは、海底が断崖絶壁みたいな感じになってる場所もあるだろうし、無理があると思う。
必ずとは言えないが、かなりの可能性で泳がなければならない場面がでてくるだろう。
方向性は決まった。
でも、どこを目指そう?
流されてきた通り道を私は覚えていない。
私にそんな器用なことができるのなら、大冒険はしないはずだ。
困ったなあ。
一直線に進んでいけば、陸地に辿り着けるわけでもない。
陸地に辿り着けずにそのうち一周して戻ってくる可能性だってあるんだ。
私のことだ。きっと一周しても、一周したなんて気がつかないだろう。
うーん。
目指すべき陸地がなければ、私は進むことができない。
『空間把握』は陸地っぽいところまで届いていないようだし。
どうすればいい……?
テキトーにうろうろして『空間把握』に陸地が引っかかるのを待つか?
でもそれじゃあ、不確定要素が多いし、時間がかかるか……。
何か他にありそうなんだけど……あっ!
《龍纏・甲》をいったん解く。
まあ、このくらいあればいけるかな?
『空間把握』に対して竜力を使おうとする。
音攻撃やら、衝撃波やらに竜力がのせられてたのと同じ感じ。
あれ、でも。あれって、竜力が攻撃と同時に放たれてた感じだったよな?
じゃあ、『空間把握』はどうすればいい?
ちょっと竜力を頭に集中させてみる。
んん? なんか頭クラクラしてきた。
『空間把握』に変化はない。
なんか損した気分だ。
なら、放出するみたいな感じか。
竜力をバッと拡散させてみる。
広がる広がる。
でも、一度放出した竜力のコントロールはもうできないみたいだ。
ついに『空間把握』の限界領域まで竜力が広がった。
そこからは竜力の存在する場所だけ『空間把握』が使われているような感じになる。
ある程度までいくと竜力が消えていったようで、『空間把握』が途絶えることがわかる。
ちょっといろいろ試してみる。
薄めに竜力を放出すれば、すぐに消えるし、濃いめに放出すれば、かなりの範囲を広がるようだ。
おかげで陸地らしきものを見つけることができた。
ただ、どんな濃さで放出しても、最初の『空間把握』の限界までは届くようだった。
少しやりすぎたかもしれない。
もう竜力が四分の一を切っている。
そろそろ止めようかな。
て、えっ、あっ!?
まずい。
今回は、《龍纏・甲》のときみたいに止め方がわからないわけではない。
問題は『空間把握』で感じ取れた生き物の反応の方だ。
最初に、小さい反応。
これは大して変わりない。
次に、中くらいの反応。
私と逆の方向に動いていく。
そして、大きな反応。
何か私の方向へ向かってきております。
最後に、数個ある、かなり大きな反応。
私に興味がないかのように不動だ。
しまった。
竜力を放ったせいで私の存在を他に知らせることになってしまったのだ。
少し考えればわかる気がする。
ん? でも。よく考えたら不具合なんてないんじゃないか?
そこそこの強さのやつらが向こうから集まってくれるんだ。
むしろ大歓迎かもしれない。
すると、早速一匹やってきた。
って、めっちゃ速くない?
その魚は、口、というか、吻が長いようだ。
カジキっぽい感じ。
というか、もろカジキ。
そのスピードのまま、私に突撃してくる。
えっとこれ、避けられるか?
とにかく海底を蹴って、飛び上がってみる。
すると、私が動いたのに合わせて、そのカジキは進行方向を変える。
ホーミング突撃するな!
避けることができずに、カジキの一撃をもらう。
その長い吻に、私は串刺しにされ……たりはしない。
ギリギリで《龍纏・甲》を最大出力で使用。
なんとか海の中を吹き飛ばされるだけで済む。
エネルギーもいっさい減らなかった。
だが、おかげで竜力なんてもうほとんど残っていない。
次の一撃は耐えられるかわからない。
少し、あまりの速さに動揺してしまったが、【搾取】で焦らずに対応しよう。
カジキっぽいのに【搾取】を発動しようとする。
えっ、速っ!
相手の動きが速いせいか、照準が合わないみたいに、【搾取】が反応してくれない。
それにステータスを開くことさえもできないなんて!?
こんなのって、ありなのか?
私がその速さに翻弄されている。
そうすると、すかさずに次の一撃がくる。
今度も《龍纏・甲》を使い防御するが、破られた。
カジキっぽいのが私へと突き刺さる。
くっ、痛い。
だけど、《龍纏・甲》で少しは軽減されたのか、それほど深くない。
そして、今、この状態なら。
〈ステータス〉
海魚Lv:76
スウィフトソードフィッシュ
ENE:152/186
STA:125/173
ステータスを開ける!
【搾取】だって使える!!
うっ、なかなかに吸いずらいかもしれない。
でもこのくらいなら、平氏のやつなんかよりは数十倍楽だ。
いっきに吸い取ろうとする。
うお、あっ!
カジキっぽいのは、危機を感じたのか、吻を振り回した。
働いた遠心力によって、私は吹き飛ばされる。
ぞんざいなやつめ!
大して吸い取れなかったじゃないか。
減ったぶんのエネルギーだって完全に回復できていない。
傷口は塞がっておらず、海中にそこから黒い液体がこぼれでる。
あれ? くろい?
がはっ!?
焼けるような痛みが身体を貫いて走った。
ついに、串刺しにされてしまったようだ。
エネルギーがあと僅かになるまで減少してしまう。
なんで追撃してくるんだよ!?
そこは吸収されるのを警戒して、攻めあぐねるところじゃないのか?
あっ、いや、そうだな……。
くっ、こいつ。
一回目、完全に防がれた。
二回目、少し防がれたけど攻撃が通った。
なら、三回目はもっと攻撃が通るとでも思ったのか……。
吸収を警戒しなかった理由は、一撃で決められればそんなものは関係ないとでも考えていた、というわけだろう。
もっとも、私のエネルギーはまだ尽きていない。
【搾取】を発動して吸収を開始する。
もちろん、カジキっぽいのは私から吻を抜こうとするが、今回は深々と突き刺さっているのだ。
簡単に抜けるわけがない。
さっきと同じように、振り回すことで抜こうとしてくる。
私は振り回される度にダメージを受けるのだが、それ以上の勢いで吸収できる。
吻が完全に抜かれる前に吸収しきることに成功した。
あ、危なかった。
カジキっぽいのの死骸が崩れていく。
傷口から流れる液体が海水に混じっていく。
いやあ、激戦だった。
ただ、安心している暇ではない。
このカジキっぽいの以外にも私の方向に向かってきたやつはいるんだった。
そして、もうそいつは来ている。
私の視界にでっかいサメがいた。
それは私へと猛スピードで向かってきて、カジカジしてきた。
カジキっぽいのの最後の攻撃で、傷が深く、ほぼ満身創痍な状態の私はまともな反応ができなかった。
エネルギーがゼロになるのを確認すると共に、けっこう久しぶりに意識を失った。