出口に着いたら
私は一人。
この広い城の中でたった独り。
私には前世の記憶がある。
最初から持っていたわけではない、つい最近になって思い出した。
私には母親がいない。
母親は私を産んだすぐ後に死んでしまった。それでも私は寂しくはなかった。
お父様や、私のお世話をしてくれる人たちがたくさんの愛情をそそいでくれたから。
どうしてこうなってしまったのだろう?
まるで前世の焼き直し。いや、それよりも酷い。
なぜもっと早く思い出せなかったのか?
そうすれば、止めることだってできたはずだ。
もはや全てが遅かった。
私を愛してくれた人達はもういない。
誰一人として残ってはいない。
それも全て私の所為。
これもきっと、私が私であるからなのか。
それでも、私には前世の最後であの男にされた問いが過ってしまう――
『永久封印』。
このスキルを、最後に私は私自身に使ったはずだ。
本来ならば、私は永遠に封じられたまま、生まれ変わることなんてなかった。
――それでいいのか? なんて卑怯じゃないか。良いわけがない。だけどそうするしかなかっただけだから。
あの男はあの男なりの善意で動いた。そんなことはわかってる。でも、その結果がこれじゃ、恨みたくもなる。
もう涙は残っていない。
枯れ果てるほどに泣いてしまった。
もう疲れた。死にたい、でも死ねない。
だってなぜなら、前世からの共通点。私がこうなってしまった理由があるから。
――スキル『不死身』。
私に宿った呪いのスキル。
これで私は無理やりに生に繋ぎ止められる。
今回は『永久封印』を取得できなかった。
もうどうすればいいかわからない。
もちろん、それ以外にも前回との違いはある。
それは私が私としてまだ残っていること。
前回、このくらいまで進行したときには、もう自我なんてバラバラに崩れていきそうになったくらいだった。なのに今回まだ大丈夫。
というよりも、私はこれから決して自我を失ったりしないほど。それほどの余裕があるようにも思える。
きっとこれは、お父様たちのおかげ。お父様のせい。
私なんかのために、なんで……?
嘆いてたってなにも変わらない。
こうなってしまった限り、きっと、いや絶対、私は彼らに報いなきゃいけない。
それが自己満足であったとしても。
窓から外へと飛び立つ。
無人になった街。
私の心は痛むばかり。
私は私として、これからどうすればいいのだろう?
問いに答える人はいない。
私は、私の生まれ育ったこの街から。ここからどこかへ消えていく。
そしてそれでも、無人の街は、無人の街のままだった。
***
ザパーンと、さざなみの音が聞こえる。
下を向けば断崖絶壁。
前を見れば大海原が水平線へと広がっている。
うん。
私は外へと向かっていたんだ。
やっとの思いであの地下空間からの出口を見つけた。出口は見つけた。
私にとっての脅威なんかはもういなかったから、割とすんなり辿り着けた。
でも辿り着いてわかったんだ。出口だとしても、私に使えるとは限らないということが。
つまり私は、切り立った崖に空いている横穴の中で立ちすくんでいるのだ。
潮風が爽やかにふき、それが私をなんとも言えない気持ちにする。
もうなんか飛び降りちゃおうかな?
どうせ死なないだろうし。
まずいなこれは、長い時間迷っていたせいで精神的に追い詰められてる感じだ。
思えば、『空間把握』を持っているのに大冒険してしまった私。
ああ、なんか悲しくなってきて、さらに飛び降りたくなった……。
もう、外に出られるならなんでもいいや。実際そんな高くないし。
とう!
私はもうなんか投げやりに飛び降りた。
海面が迫る。
ジャッポーンと入水。深っ!?
いや、うん。浅瀬だと思ってた。
岸に近いのにこんなに深いってなによ?
うん? あれ?
そういえばだいたい、断崖絶壁が続いてるのに、私はどうやって陸に上がろうとしたの? 無理でしょ。
私はちょっと精神的に参りすぎていたようだ。少し前の自分に呆れてしまう。
あっ、泳げない。どんどん沈んでいく。
龍って、海水でも沈むんだ。
そうじゃない。感心してる場合じゃない。
龍種権限さん。
水の中でも活動できるスキルってない?
〔現在。スキル『水棲活動』には龍種権限を発動できません〕
えっと、これ? まずいかな?
そろそろ息が続きそうになくなってしまう。
ごぼごぼと息を吐き出す。
もう本格的に苦しい。
まあ、胃酸攻めよりはマシだけど。
ああ、ダメだ。死んでしまう。
あっ、息してないとエネルギーが減るみたいだ。
エネルギーが……減る?
てきとーにそこらへんでウヨウヨしている魚に向かって【搾取】を使った。
エネルギーが増えた。
でも吸い尽くしたらまたすぐに減っていく。
違う魚に【搾取】。
エネルギーが増える。減る。
……なにこれ?
私にずっと【搾取】を使い続けろと?
というか、どういう原理で酸素なくても活動できるんだよ!?
ここ一帯の魚たちは私によって撲滅された。
『空間把握』使用。
次の魚を求めて動く。
ものすごく動きにくい。
見つけ次第【搾取】を使い、私のエネルギーの足しにする。
エネルギーうんぬんはさて置いても、現在進行形で息が苦しい。
エネルギーが回復しようと息は苦しいままだ。
油断していると――あっ、水吸っちゃった!?
げほっ、ごほっ、がほっ、と咳き込んで、咳き込んで……咳き込ん、で……?
あれ? 咳き込まない。
むしろ楽になった気がするぞ?
エネルギーの減りも心なしか緩くなった気がする。
試しに目一杯海水を吸い込んでみよう!
すぅーっ、と。
なんか楽になった。エネルギーの減りも緩和される。
新発見、海水も空気と同じように吸える。
海水で肺呼吸をしているのだろうか?
意味わからん。
まあこれで、【搾取】をし続けて海の生態系を無闇に破壊する必要がなくなったようだ。
……魚が目の前を横切った。【搾取】を使用して絶命させる。
うん? 別に使わないわけじゃないから。目につけば躊躇いなく使うに決まってる。
ただ自分から殺しにいくかいかないかの問題だ。
殺した魚は私が触れずともボロボロに崩れていく。
海水のせいかな?
私の楽しみの一つが……無念。
まあいいや。
とりあえず、私は海水中でも息ができるとわかった。
問題は泳げないことだ。
海底を歩いて進むことしかできない。めちゃくちゃ遅い。
泳げそうにもないし、岸沿いを歩きながら陸を目指そう。
息ができるとわかっても、誰が進んで水中で過ごすというんだ? 私は早く陸地に辿り着くぞ!?
終わりの見えない崖に沿って、私は進んでいく。
主人公以外の視点を入れてみました。忘れないうちにです。
この人の出番も多分、忘れた頃に、となりそうな予感が……。
とりあえず、海中編?