休みをとると
ぷはっ。
瓦礫を押しのけなんとか身体を自由に動かせるようになる。
あー、酷い目にあった。
もうずっと生き埋め状態でいなきゃいけなくなるところだったよ。
自分の力が思ったよりも強かったことに感謝だ。
身体中を確認しても、欠損部位はない。
これは、最後に千切れた脚とか翼とかは生えてきたと考えていいだろうか?
これも『不死身』の効果かな。
いや、私自身が、部位欠損をしても生えてくる生き物だという可能性も、まあ、ほとんどないか。
ようやく一息つける。
とりあえず、自分のステータスでも確認してみようか。
〈ステータス〉
龍種Lv:31
パラサイト・アンデットドラゴン
ENE:125/125
STA:096/110
SAN:036/234
MAG:70/70
DRA:164/164
KAR:019/100
〈スキル〉
『不死身』『魂魄攻撃無効』『燃焼攻撃無効』『体内寄生』『拘束効果緩和』『虚時間幽閉』『判別分析』『狂気化』『強制行動』『空間把握』
1. 《龍纏・甲》
2.
3.【加虐】
4.
5.【搾取】
レベル上がんないなあ。
強敵を倒したはずなのに……。
そのかわり、一つぽつんと孤立した状態で書いてあるスキルがある。
《龍纏・甲》。
平氏のやつが死んだとともに、解放されたなどと聞こえてきたが、これが御館様の平氏を倒そうとした理由だろうか?
まあ、使ってみよう。
毎回思っていることなんだが、スキルがあったって、その効果とかが見られないんだ。そして使い方がわからない。それじゃ、スキルのある意味がない。
名前でなんとなくわかるやつもあるけど、どうせなら説明を載っけてほしい。
でも、いま嘆いてたって変わらないものはかわらないか。
どうすればいい?
なんか纏う感じの名前だから、身体を何かが覆うイメージでいこう。
とう! ていや! たあ!
お、おお?
竜力が……!! 竜力がものすごい勢いで消費されてる!?
えっと……これ、発動してる? というかどうやって止めるの? 竜力の消費以外、発動してる実感がないけど……。
あっ、まずい。半分きった……!?
ふう……。
あ、危ない。もう少しで竜力全部使い切るところだった。
まあ、使い切ったって何も起こらないけど。でも念のために残しておきたいと思うのは私だけだろうか?
だいたいさっきので発動のしかたが掴めた。何が起こってるかよくわからないけど。
私の予想では、結界のような物を纏うスキル、である。
そのうち性能の実験をしたい。
さあ、最初にいた階まで落とされてしまったみたいだが、さっそく脱出をしよう。
もう、最初の頃の私とは違うんだ。大冒険をする必要なんてない!
ということで、スキル『空間把握』を使用。
うーん、と……。
ここが出口で……この道が繋がってて……私がここかな?
あ……っ、この道壊れてる。
え、この出口だめなのか?
じゃあこっちかな? あ、でも繋がってなかったあ……。
……詰んだ。
出口に辿り着けない。
予想外の展開だ。
かくなる上は、出口を作ろうか?
私ならできる。私ならできるはずだ……!
根拠なんかないけど……。
でも他に道はないのか?
一生懸命さがす。
ダメだ。なんか考えすぎて頭が働かないや。『空間把握』に使っていた集中力が切れてしまった。
うん? あれ?
スキルがもう続かない。
疲れが一気に出てきたからかもしれない。
まあ、いいや。
今は休んだ方がいいかな。
くつろぐための体勢をつくる。
思えば、今まで無休で頑張ってきたんだ。
睡眠とか、特にとらなくても活動できたし。私は、今なら睡眠がとれるかと思い、目を閉じた。
それでも、一向に眠れる気配はない。
ただただ意識の混濁したまどろみにも似た感覚が味わえるだけだ。
この心地良さのまま、何時間たったのかはわからない。ただ意識をはっきりとさせる音が、いや、声が聞こえてきた。
「へぇー、これが件の龍か」
「触るな。干渉は禁じられているはずだ」
二人分の声だ。どちらとも、恐らく男。
いつからいたんだ?
はっきりとはしなくとも、意識はあったはずだし、ささいな物音でも私は反応できる自信はあった。
なのになんで、声がするまで気がつかなかったんだ。
「固いな、兄さんは。大して何かするわけでもないに」
「そういう問題じゃない。私たちがここに来ていることだって、かなりギリギリなんだぞ?」
何がギリギリなんだ?
というかこいつらなんだ?
そもそも、なんで私はこいつらのじゃべっている内容が、言語が理解できているんだ?
「それを兄さんが言うかな? じゃあ、あの事件はなんだったんだ?」
「それとこれとは話は別だ。とにかく、用が済んだなら送り返すぞ?」
少し険悪な雰囲気が流れる。
私はこの寝たふりを続けた方が無難なんだろうか。
少なくとも、いま起きたってロクなことはない気がする。
「あっ、そうだ。イリウスのやつがどっかの国……エイリンスだったっけ? そこでなんか悪だく――」
「何故それを早く言わない?」
固有名詞が出てきて若干、混乱してきた。
そんな中、一人が台詞を言いきる前に、もう一人が責め立てた。そこには、僅かな焦燥を感じることができる。
「ごめん、ごめん。本当に忘れてただけなんだ」
「はあ、仕方ないやつらだ。少し私は様子を見てくる。大人しくしてるんだ」
ごめんと言いながらも悪びれない様子な一人。その様子に、ため息をつきながら、諦めるように一言。
なんかこの人、苦労してそうだ。
「毎回毎回、兄さんは大変だなあ。そんなんだからイリウスのやつもつけ上がってるんじゃないか?」
「違いないか……。だが、あいつの気持ちもわからんでもないからな。本当に大人しくしてるんだぞ?」
間違いない。この人は苦労性だ。
この人のそんな気質が会話から滲み出ている。
「わかってるから」
そう、もう一人の男が答える。
それから数分たった後のことだ。
「行っちゃったな……。よし、この状態で大人しくしているわけないじゃないか?」
えっ? ちょっと……。
何をする気だ!?
あ、足音が近づいてくる。
なんかものすごくまずい気がする。
そうだ。ある程度近づいたらやむを得ない。目を開けて攻撃をしよう。
一歩ずつ近づいてくる。
私は精一杯身構える。
このまま、もう少し近づいたら【搾取】あたりを――不意にそいつの足音が止まった。
「くっ、あの馬鹿イリウス……! ゼラビス!! お前ならあの馬鹿の居場所がわかるんじゃないか!?」
鬼気迫る様子の、あの苦労性な人の声があたりに響き渡った。
めっちゃ怖かった。
「に、兄さん。ず、ずいぶんと早かったんだ。どうだった?」
私になにかしようとしたやつも、かなり動揺したような様子だ。
ふふ、ざまあないぜ。
「どうもこうも、どうしたら国一つなくなるんだ? いいから早く居場所を吐くんだ」
「え……っ? 国一つ……?」
理解できないというような声色だ。
この世界の国の規模はわからないが、きっと大変なことなんだろう。
「……イリウスの……馬鹿……」
このとき、私の中で、イリウスというやつイコール馬鹿という方程式が成り立ってしまった。
そのイリウスって、どんなやつか知らないけど。これほど言われるんだ。きっと馬鹿なんだ。
「きっとあれなら穢龍のところじゃない? 毎回あれ使ってなんかやってるみたいだし」
そして私になにかしようとしたやつは、呆然からようやく立ち直り、おそらくそのイリウスというやつの居場所を提供する。
「わかった。ならいくぞ?」
「えっ、僕も!?」
そんな会話を最後に、声は一切しなくなった。いったい何だったんだろう?
私を見に来たということでいいのだろうか?
私は目を開ける。
目の前にはやはり誰もいない。
なんとなく感じたんだが、あいつら私よりもかなり強い気がする。苦労性な人は瞬間移動してたみたいだし。
姿は見ていないから人間かはわからないのだが。というより、会話の内容から、龍種権限に干渉してきた何かよりな気がするんだ。
ぐっと全身の関節を伸ばす。
ともあれ、この世界にも、やはり国はあるようだ。一つ滅んだみたいだけど……。
いつか人間、もしくは知的生命体と出会うかもしれない。本当に面倒だ。
まあ、まずはここから出ることが先決だ。
この二人、たぶんもう後数十話くらい経たないと再登場はないと思います。