虫退治
穴をじっと覗き込む。
私は苦労の果てにようやく上にたどり着いたのだ。
まあ、上と言っても脱出できたわけじゃない。地下五階から地下四階にきたみたいな感じである。
五や四といった数字。これは、頑張って穴の上の方を覗いたらそのくらいだったからだ。
まだまだ先は長そうだ。
次に上の階に上がるときは、段差に気をつけよう。ついさっき、私にいやな思い出が増えてしまっのだ。
緩やかに上がっていく坂道だと思ったのに、なんで急に段差がでてくるんだよ。
やっと上がれると思って浮かれぎみになっていた。そして、足もとの注意をおろそかにしたせいで、ぎゃんっ! って、感じになった。
そのとき私を見つめてた虫がいたけど、三倍増しくらいの勢いで吸い尽くした。自分でもビックリな勢いで吸えた。
だから証言者はいない!
それにしてもこの穴、縁がなんか硬くなってる。まわりの地面と違うような材質でだ。
考えてみれば、私の激突した地面も、こんな感じになっていた気がする。
よくみれば数カ所、屋根にぶら下がるツララのように、縁から液体が垂れた形で固まっている。
これが意味することは一つしかない。
まあ、この穴を開けた方法は理解できた。
〔完了。スキル『空間把握』を取得します〕
おっ、今度は邪魔がはいらなかったか。
えへへ、ついにとっちゃった。
なんでかって言うと、もうあんな大冒険をするのはいやだ。これからは最短ルートで上を目指すんだ。
さっそく使ってみる。
おお、感度良好。道を完全に把握できた。
途中にいる生物っぽいのも確認できる。
生物はぼんやりとした塊みたいで、大きいのから小さいのまでがある感じだ。
試しにテキトーに選んで【搾取】を使ってみる。
うー、ダメだった。
まあ、そこまで都合良くはいかないか……。
結論。どうやら、姿がしっかりとわかっていなくては、【搾取】は発動してくれないようだった。
それでも、使い勝手が良すぎるからいいんだが。
それにしても、生き物の位置がわかるなら、一直線に出口に向かわずにそいつらを倒してからでもいい気がしてきた。
私は今、むしゃくしゃしている。
なんでかって?
さっきあの穴を見ていろんなことがわかったからだ。
穴の開いた理由も概ね理解できた。
でも一番気に入らなかったことは、龍種権限への干渉の理由だ。
まだ確かとは言えないが、大体わかってしまったのだ。
私を利用するなんてっ!
まあいいさ。
『虚時間幽閉』だって有効活用させてもらうよ。それに、これを使って嫌がらせをできれば、それ相応の意趣返しにはなるだろう?
だれかは知らないが、首を洗って待っているんだ。
よし、大きな反応の元へ向かおう。
私は全力で走ってみる。もちろん、足もとには気をつけてだ。
うん、普通に疲れるな。
最近、私は運動不足だったような気がするんだ。
きっとこれは【搾取】のせい。
龍が運動不足って、なんなんだよとも思わなくもないが、やはり機敏に動けて損はないだろう。
大きな反応の一つ目にたどり着いた。
やっぱりでっかい虫だ。
今まで虫と龍くらいしか戦ったことがなうのではないだろうか。
あ、あと、今は私の体内に住む謎生命体もいた。
もし、この洞窟的な場所に名前をつけるとしたら、「虫の巣窟、ときどき冒涜的な何か」だろう。
今回の虫は黒い。
そして尾端がクワガタの顎みたいになってる。こんな虫、なんて言うんだっけ……?
〈ステータス〉
虫王Lv:8
ストロング・ハイイアーウィッグ
ENE:212/219
STA:205/207
ダメだわからん。思い出せん。
て、え?
王虫にしてはステータスが低い?
そういえばあの寄生虫たち、ステータスだけはやたら高かったもんな。
それがこの差になるのか。
さて、では私がこのよくわからない虫に肉薄する。たまには運動もいいものだ。
それに気がついたよくわからんやつは、尾端の鋏で攻撃してくる。
鋏、はさみ、ハサミ……そうだ、ハサミムシだ。
ようやく思い出せた。
そんな私だが、ハサミ攻撃をまともに受けてしまった。
痛い……血が出た。
【搾取】発動。
ハサミムシから吸い取る。
とっさにハサミムシは私から離れる。私に触れている部分がなくなり、吸収が途切れてしまった。
あと少しだったのに……。
不利を悟ってか、私から逃げようとする。
あれ? 寄生虫な王虫は、もっと手強かった、というよりどうしようもないと思えるくらい強かったんだけどなあ。
こいつ弱すぎじゃない?
まあいいや、逃げるなら追い立てればいい。待てハサミムシィー!
はっはっは、私に目をつけられたことを怨むんだな……!
……なんか私、悪役っぽい。
でも楽しいからいいや。
私の方が足は早かった。
龍種の脚力を舐めちゃいけない。
ハサミムシ一匹、追えなくて何が龍だ。
ふふふ、簡単に追いつけた。
尻尾攻撃をしようとしてくるが、私に当たる前に、躊躇った感じでに止まった。
確かにいま当てていたらそこで【搾取】が発動して終わりだった。
けれどそれで隙ができてしまっている。
ジャーンプして、ストンと乗っかる。私の重さで潰れるような甲殻じゃなかった。
じゃあ、いただっきまーす。
生命を吸って、生命を奪う。この瞬間が生きる楽しみになってきた。
もうそろそろなんかヤバい。早く更生しないと後戻りできなくなる気がする。
やけくそ気味に鋏攻撃をされる。
避けられない。普通に痛いよ。
今わかったこと、私の回避力はゼロに近い。
いや、だって『不死身』とかあるじゃん。
どうせ治るんだから無理して避けようとする心意気がないんだよね。
別にいいじゃん。
思えば、バッタの攻撃を受けたのも、そんな考えが根底にあったからこそなのかもしれない。
だからと言って、反省も後悔もしていないが。
あの変なやつとはいい関係が築けると、私はしんじている。
ハサミムシから完全に吸収しきった。
死骸が崩れていく。
痛みが気にならないほどの心地よさに満たされた。
はあ、終わった。
じゃあ次だ。
新しく手に入れたスキルで、標的を探す。
途中にいる虫たちも蹴散らしながら、次の大きな反応に向かう。
まだいっぱいハサミムシより大きな反応があるんだ。これをどんどん倒していこう。
思えば、私のレベルも上がりにくくなったものだ。
けっこう高くなったからかな?
それも仕方がないか。
こんなので、私は平氏のやつを、それに龍種権限に干渉してきたやつをどうにかできるのだろうか。
でも、少しずつでいい。
大して急ぐ必要はない。
ああ、だって――