出口を探そうか
う、ううう……。
はっ!?
私は今なにを?
……あっ、そうだった。
たしかあの硬そうなやつと睨み合いをしていた。そのはずだ。
あれ? あいつ、いない。
抜け殻だけある。
ていうか私、寝てた?
うぅん? なにがあったのかよく思い出せない。
ん? もしかして、睨み合いをしている最中に意識を失ったのか……。
ぐぬぬ……。なにがどうしたというんだ。
攻撃を受けたなんて自覚なかったぞ?
なら一瞬のうちにエネルギーがゼロになったとでも言うのか。
どうなんだろう。
実際、痛みも感じなかったし、その前に意識がなくなったわけなはずだ。
そんな攻撃があるなんて……卑怯なっ!
それにしても、どんな攻撃だったんだ?
あいつが何かしたかも様子もわからなかった。
攻撃が大きくなればなるほど予備動作も大きくなると思うんだけど……。
まさか……っ!
私が取るに足らない存在だからか? 取るに足らない存在だからか……。
そうか、そうなのか……。
ふふ、いつか絶対に倒してやる。
私はこうと決めたら絶対に実行するんだ。
よし、じゃあ、改めてここから脱出するか。
え? 倒すんじゃなかったのか?
無理。正体不明の攻撃に、圧倒的体格差。
勝てるわけないでしょ。
幸い、あの妙な殺意も目の前にいず、離れている今なら少ししか感じない。
このくらいなら無視できるのだ。
ここはあいつがウロウロしている場所だ。
こんなところにいられるか! 私は外にでるぞ?
さあ、隅々までここを探索しよう。
もちろん、あいつに出会わないように。
といっても、私にできる警戒なんて無に等しい。
せいぜい音を聞いてそこに近づかないようにするだけだ。
それに、あいつだと特定できてしまえばアウト。私はあいつを殺そうとするだろう。
そして返り討ちに合う。
『不死身』があるんだからそうなったっていいじゃないか。とも思わなくもないが、黒星が増えるのは、なんかやだ。
ともかく、私は出口を探すんだ。
警戒についてはさっきの通りである。感知力が上がるスキルがないかとも思ったが、それで上がりすぎても、あいつが正確に認識できるようになってしまって困る。
地の果てまで追いかけるのだが、返り討ちにされ続けるとか嫌すぎる。
あーあ、なんかあいつ以外の生き物いないかなあ?
できれば食糧になるやつ。
まあ、【搾取】で吸収するから強くなければなんでもいいんだけどね。
思えば、私って、生まれてこのかた、何かを口に運んだことがないんじゃないか?
そういえば常に空腹な気がする。
まあいいか。火が通せるまでなにも食べないと決めたんだ。
私は御館様のようになりたくはない。
空腹だって我慢できないわけじゃないし。
あるていど歩いたら、動くものが目についた。
どんな生き物だろう?
ちらっと覗き込む。
見えた生き物はトンボっぽいなにかだ。
一匹だけぽつりと。
可哀想に……。【搾取】を発動する。
慈悲はない。怨んでくれたって構わない。世の中そういうものだ。
トンボっぽいなにかの死骸を踏みしめるながら私は進む。
私はなぜか生き物を殺すたびに機嫌が一段階上がるらしい。いけない兆候だ。
でも足取りが軽くなるのは仕方がない!
これも龍種だからなのだろう。あの抗えない殺意といい、ロクなことがない。
唯一の救いはスキル方向の龍種権限くらいだろうか。まあ、それも変な干渉をされたんだが。
他になにかいいことは?
ステータスも優遇されていないようだし……はっ!? 危うく変なことを思い出すところだった。
はは、私が虫どもに劣るはずがないさ。
虫といえば、あいつは虫という括りには入るのだろうか?
龍だから入らないよな。
入ってたら私は虫に劣っていたということになってしまう。
そうだ、そういえば。
あいつ、なんだったっけ?
私なんか、パラサイト・アンデットドラゴンなんていう数秒で考えたみたいなやつなのに、アインビルティスなんていう固有名詞みたいなものがある。
理不尽じゃあないか?
くそっ、なにか渾名をつけてやる。
うーん、アイン……ビル……あっ……平氏にしよう。これで暗闇の中を光れば完璧なんだが。
実は発光器官を持っているとかないのかな?
まあいいや。くく、どうだ? いい感じだろう? ……そうでもないか。
あ、また生き物が……。
適当に追いかける。今度は蝶みたいなやつだ。あれ? 蛾かな。
どっちでもいいか。どこかでは蝶も蛾も区別されずによばれてるんだったっけ?
まあ、スタミナに変換するんだから変わりないか。
て、あっ、でか!? 私と同じくらいのサイズ?
まあ、翅を含めてだけど。
目玉模様が特徴的だ。
【搾取】を発動。簡単に倒せる。
しょせんは見かけ倒しというわけだ。
吸い尽くしたらカラッと乾くのだけど、それをいつも通りベシャッと潰す。
うん……。
そうか、そうか、つまり私はそんなやつだったのか。
なんか思い出してしまった。
人のものを盗んではいけない。
気を取り直していこう。
はあ、どうやったら上に登れるんだろ。
ただ闇雲に進んでるだけなんだけど、グルグル回ったりしちゃうよな。
迷わないようにしないと。
こまめに目印になるようなものを見つけていこうかな。
あれ? これって無事に引き返すための方法だっけ、じゃあ意味ないじゃん。
これは私の方向感覚が試されてるんだ。
全体的に広めな通路、頻繁に別れ道がある。けれどゴールがどこかわからない私には適当に進むしかなかった。
即断即決。大して何も考えない。
あっ、生き物!
今度はなんだ? バッタがいっぱい!?
異様すぎる光景だ。
一匹私の半分くらいの大きさがあるし、なんか怖い。
手を出すことが躊躇われる。
でも、しょせんはバッタだよな?
でも、やっぱり。床一面を同じ生物が埋め尽くしていたら……ねえ。
本当にどうしようこれ。
えっと、よく見たら壁にもいっぱいくっついていた。
どれだけいるんだ?
普通に数えきれない。
本当にバッタだらけだ。
食糧とかどうしてるんだろう。
さっきのちらほらいた虫たちもそうだが、こんな植物の育たなさそうな場所で、どうやって食べて行っているのだろう。
謎だ。
さて、じゃあ【搾取】を使おう。
こんなやつらサクッと倒してしまえ。
その前に私は全力でバッタから距離を取った。
いや、ポジションって大事じゃないか。
バッタがギリギリで見える位置まで動く。
改めてみても、なんか凄いなあ。
準備はもういいか。撲滅といこう。
この量を倒せば結構な経験値になるはずだ。
ちょっと明日は更新できないかもしれません。不定期更新なつもりだったのになんで毎日更新してるんだろうと思っている今日この頃なんですけどね。
いや、時間帯的に今までも不定期といえば不定期ですが……。