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龍の戦い

 あいつからスタミナを含むいろいろを【搾取】で吸収する。


 あー、なかなかうまくいかない。

 全然吸い取れないのだ。

 まあ、完全に吸い取れないわけでもないが、吸い取れてもほんの僅かずつで、かなりじれったい。


 御館様のときみたいに、スキルで妨害されているわけではないのは、なんとなくだがわかる。

 けれどやはり、吸い取りづらいのだ。


 なんでだろう?

 うーん。あっ、そういえば、寄生虫と御館様では寄生虫の方が吸いやすかった気がする。

 たいして気にはしなかったが、レベル差とか、そんな問題なのだろうか。


 どうにかできないものか。

 私はあいつに少し近づくいてみる。

 これで、吸収できる量が増えたりは……しないのか……。


 なんだなんだ?

 距離は吸い取れる量に関係しないのか。

 ならば、後ずさりをしながらあいつから距離をとる。


 こうしてみても、吸収できる量が減ったりはしないようだ。

 それならと思い、後ろに下がり続ける。

 どのくらいで吸収できなくなるか試してみるためだ。


 結果、私が認知している限りは吸収できることがわかった。

 ふざけてないか? このスキル。

 普通に脅威的すぎる。


 どれだけ距離が離れていても、私がそいつに注目している限り、吸収し続けることができるのだ。


 まあ、吸収するにはそいつに集中しなくてはいけないわけで、対象が二つ以上とかはできない。

 それにこの吸収という作業にはかなり集中力がいるから、複数相手にするときは使えない。


 それでもおかしな性能だ。

 きっと遠くからの暗殺に向いているだろう。


 まあ、いろいろと試してみたのだが、これまでに私がこいつから吸収できた数値。

 驚くことなかれ、たったの三だ。

 意味わからん。


 まあ、数値にされているのだが、私の吸収してきた経験則から、残量の小数点以下が存在する。そんな気がする。

 私があいつを睨んだとき、簡単に数値が上がった理由はこの小数点以下の数字の存在があったおかげなんだ。


 だってあれから数値が全然上がらないんだ。こういう結論にもなるだろう。


 はあ、本当に吸収しにくい。

 龍って、こんな面倒なのか。

 でもなんか無性に殺してしまいたいし。

 しかたがないか。


 第一、私にこんな感情がなければ、こんな面倒なやつスルーしてた。

 なんでこんなことしなくちゃならないんだ。


 とりあえず、それもこいつを殺せばなくなるはずだ。自由になれるはずだ。

 あとで、もうこの感情が起こらないようにどうにかしなければならない。


 あ、そうだ。龍種権限さん。感情抑制のスキルってある?


〔龍種権限発動。プログラムを取得中……〕


 あるんだ。

 なら早く手に入れて、ここからもおさらばしたい。


〔ザ……ザザッ……。干渉によりデータが混入〕


 ――っ!? 『虚時間幽閉』のときと同じ?

 一体なんだっていうんだ。


〔完了。スキル『感情制御』を獲得します〕


 あれ、普通に入手できた?

 さっきのはなんだったんだ。


〔エラー。混入データの存在により獲得に失敗しました〕


 そう思ったのも束の間、獲得に失敗してしまったようだ。

 なにが起こってるっていうんだ。


〔混入データを統合。スキル『狂気化』を獲得します〕


 わけがわからない。

 本来入手できるはずのスキルが改変された。

 しかもいかにもな感じで危なさそうなやつに。


 このスキルでは龍へのこの感情は抑えられそうにない。

 むしろ高められそうだ。


 この混入してくるデータはなんなんだ?

 いや、いまの私が考えてもわからないことだろう。


 でも、もしも作為的なものだったら、いつかそいつを殴ってやる。

 あ、龍種な私には足しかなかったんだ。あと役に立たない翼。

 まあ、なら、蹴ることにしようか。


 決意新たに同属へ向き直す。

 やはり、沸き上がる感情のせいで無視できそうにない。


 吸収量は最初より上がってはいるものの、まだまだ倒せそうにない。

 というかあいつ、ごく稀に大きく蠢くようになってきたのだ。

 そろそろまずいかもしれない。


 持てる集中力の全てで吸収をしようとする。


〔一定の経験を得たことにより、レベルアップしました〕


 頑張りすぎてレベルアップしたくらいだ。

 だけどステータスを見ている余裕はない。


 よくわからないけどまずい。

 こいつが羽化したらまずい。

 吸収できる量からも、御館様より上位の存在である可能性が高い。


 どうしても、それまでに殺しきらなければいけない。

 相変わらず吸収できる量は少ない。ようやく吸収した合計が六になった。


 少なくとも進歩はしているはずだ。

 いまだって、吸収できる量は少しずつ上がっている。

 それでも遅い。


 羽化が早いか吸収しきるのが早いか。


 私にはこいつがいつごろ羽化するか正確にわかっているわけではない。

 でも、私がいるせいで羽化の時期を早めるのではないか。漠然とそんなことを思う。


 それが可能なのか問われれば、わからないと答えるしかないが、なんとなくできそうな気がするのだ。

 それは単に私の妄想かもしれない。


 どのくらい時間が経っただろう。

 私のスタミナはもう満タンで、どのくらい吸収できたかもう数えることができなかった。


 集中力を使いすぎて、私は精神的に狼狽し始めていた。だというのに、龍に対する殺意は止むことがない。


 そこから事態は動きだした。


 繭とも蛹ともつかないそれが、ひび割れ出したのだ。

 そう、羽化が始まった。


 そのひび割れから露わになる甲殻は、光の加減によって様々な色彩に移り変わる、玉虫色とでも言うべきか、そんな美しい色をしていた。


 古い皮を脱ぎ捨て、こちらをその複眼で睨みつける。

 節のある六本の足。そして二枚の鞘翅を含めた、合計四枚の翅を広げる姿はいかにも虫らしい。


 その顔の触角は、触角とは思えないほどしっかりとした作りで、いかにもドラゴンらしい顔つき。

 足のうち前二本は鎌状になっていた。


 虫と龍とを混ぜ合わせたような姿形だが、そこには歪みなく、ある種の――絶妙に平衡を保っているかのような美しさを見い出すことができる。


 完全に皮から抜け出し、私を睨んでいる。

 負けじと私も睨む。

 絶対に威厳的なもので負けているだろうがが気にしない。


 ああ、でも、吸いきれなかった。

 あいつは完全に羽化を遂げた。

 これで私の負けなのだろうか?


 甲龍がなにかをした。そう、きっとなにかをしたのだろう。

 私はわけのわからないままに、なにも感じないままに、意識を失ってしまった。

 頑張れ主人公。きっといつか勝てる。いつか……。

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