同種との邂逅
ううぅ……酷い目に遭った。
私は暗闇の中で目を覚ました。
第三者から見たら高くから落としたトマトみたいに潰れてたんじゃなかろうか?
幸いに、痛みを感じる前に意識を失うことができた。
ステータスを確認すれば、エネルギーは満タンである。
あとはスタミナが若干減っているくらいか。まあ、このくらいなら当分は活動できるはずだ。
辺りを見渡す。
地面が私の血液で赤黒くなっていた。
私の血、赤かったんだなあ……。
さっき、トマトって表現したけど、思えばそのときは私の血が赤だと決まっていたわけではなかったんだ。
確か血が緑の生物もいたっけなあ。なんだったかよく憶えてないけど。
それにしても、広い。
穴に落ちたと思ったけど、地下は空洞になっていたのか。
上を見上げれば、私が落ちてきた穴を通して白い雲が見える。
とりあえず、地上に上がるために地下を探索しよう。
階段とかは……さすがにあるはずないし、とりあえず出口っぽいところを探そうか。
出口……あるよな?
私が進入したのは上からだ。
このいっぱい開いている穴以外に外と出入りできない状況である可能性がなきにしもあらず。
やめよう。希望は捨てないでおこう。
最悪の場合を想定し、縦穴から脱出する可能性もいちおう視野に入れておく。
さっそく私は歩みを進める。
硬い地面を踏みしめ――あれ?
なんか地面の硬さが違った。
周辺をウロウロしてみる。
わかったこと、私の落ちた周辺だけ、なんか地面が硬い。
いま、踏み比べているのだが、それが如実にわかるのだ。
やはりこの穴は作意的なものだった!?
地面が硬いのは落ちてきた獲物を確実に殺すため?
きっとそんな感じだろう。
怖い落とし穴だ。
でもどうだ?
あんなでっかい穴、落ちるやつはいるのだろうか。
いや、現に私は落ちてしまったが、それは例外として、そんなやつは普通いないだろ。
落とし穴なら、なにかを被せてカモフラージュするはずだ。
きっとこの穴を作ったやつは無駄な労力を使ったに違いない。
じゃあ、改めて進んで行くことにしよう。
うーん、なにか他に生物いないかなあ?
【搾取】でスタミナに変換したい。
まあ、まだ枯渇してるわけじゃないんだけどね。
なにをするにも、先立つ物が必要だというではないか。
それに他の生き物の棲息地を知っていれば、いざという時はそこで補給できるんだ。
……かたっぱしから潰してしまって、結局そんなことはしない気もするが。
そんなことを考えて歩いていたら、ここで初めての生物と遭った。
それは、私が落ちてきた場所から大して歩かない位置だった。
そいつは、いた――
〔龍種権限により、情報が規制されました〕
〈ステータス〉
甲龍
アインビルティス
そいつのステータスを開くとともに、私の頭に声が響いた。
確かに本来なら見ることのできるはずのレベル、エネルギー、スタミナが見えない。
けれど、重要なのはそこじゃない。
そいつが龍であること。
そして私は、そいつをどうしようもなく殺したいのだ。
この感情はどこから来るのか?
考えるまでもなかった。
それこそが、龍であるうる本能であり本能から本能でそのことを察せられる。
相手も龍である限り、同じことを感じているはずだ。
――私のことを認識できているならばだが。
では、そいつの描写をしよう。
そいつは巨大だった。
私なんかと比べてしまえば、何十倍もの倍率を用いる必要に迫られるほどであった。
そいつは地面についていない。
空中にただいる、いや、ある。固定されているといった方が正しい状態。
そう。天井から幾重もの糸を垂らしてぶら下がっている様相は、まさに繭に包まれたと言うべきものである。だが、どこか蛹にも近しいものが感ぜられる。
一見したところで、それが生物であることに気がつくものは少数だろう。なぜなら、そうしたところでそいつは微動だにしないように見えてしまうからだ。
私だって近づくまでわからなかったものだ。
けれどそれはそう見えるだけだ。近づいたならばそれはおのずと知れるだろう。
本当に微弱だが、確かであり力強い生命の脈動を、そこに見い出すことができるだろう。
以上、描写終わり。
うん、どうやって倒そう?
相手は空中にいるから攻撃手段がない。
壁をクライミングして飛び移る?
無理だ。私がそんな器用な真似できるわけがないだろ。
くぅ、攻撃が届かないなんて、そんなの卑怯だぞ!
蛹か繭かは知らないが、動けない状態のまま仕留めようとしている私が言えるようなことではないが。
か、かくなる上は……。
私は今まできた道を少し引き返す。
助走をつけて。
ジャンプ!
だめだ……全然届かない……。
って、おっ! うわぁっ!?
着地に失敗して盛大にこけてしまった。
こ、甲龍許すまじ……!
でもなんだ、本当に攻撃する方法はないのだろうか?
そうだ、こんなときこそ龍種権限。
なにか遠距離攻撃ができるスキルを!!
――……反応がない。
スキルの指定ががアバウトすぎたのだろうか。
でも、遠距離攻撃って、えー?
なんだろう、ドラゴンブレス的な?
――……おーい。龍種権限さん?
えっ、そんなもんない?
おかしい。ドラゴンといえばブレスのはず……。
あー、駄目だ。思いつかない。
おかしいな、私ってこんなに攻撃に関して知識が乏しかったか?
きっとなにかあるはず。
わかった! 念力で攻撃みたいなのは?
くっ、電気ビリビリ攻撃とかでは。
な、なら、熱の攻撃はどうだ……!
じゃあ、水をばーって吐くやつなら?
〔現在、スキル『流体掌握』には龍種権限を使用できません〕
うわっ!? 少しびっくりした……。
今まで無言だったものだからつい。
えっと、なんで『流体掌握』?
ばーって吐けそうにないんだけどなあ。
きっと近いのを探してくれたんだろうけど、他のに反応しないって、ちょっと不自然すぎないか?
うーん、龍種権限が謎すぎる。
どうしようかな?
じっと動かないあいつを見つめてみる。
え、ちょ? 動いた!?
今までにないほど大胆に動いた。
こ、これは急がなければ。
そ、そうだ。吸収系を取得したときみたいにスキルに目覚める可能性だってある。
ならさっそく睨んでみる。
やっぱり駄目か……。
そうあきらめかけたとき、不思議な感覚が私を襲った。
ステータスを見れば、スタミナの値が一だけど回復している。
そう、今まで触れていなければ発動できなかったスタミナの吸収が、離れていてもできるようになったのだ!
なんか、ものすごい違和感……。
これが【搾取】ってやつか。
ん? なら、あの虫王は【搾取】をもっていたのだろうか? 私は触れてなかったわけだし。
あっ、虫王。あの高度なら確実に落下死してるだろうし、もう確かめるすべはないな。
同じ落下仲間である私が、弔ってやるよ。
まあそれは後でだ、今はとにかくこいつから搾り取ることに集中しよう。
穴をだれが開けたかとその理由を現段階でわかった人がいたら尊敬します。