雪辱を果たそう
何匹目だっただろう。
私は機械のように寄生虫たちを撲滅していった。ただ無心になって、いっぱい殺した。
私の危惧していたことは杞憂で、寄生虫は腐るほどいたのだ。
何日たったかはわからない。何せ光なんてないんだ。
睡眠はとってない。
だというのに、身体の不調はない。これも、龍種だからだろうか。
そのときだ、唐突に声が聞こえた。
最初はレベルアップかとも思ったが、内容を聞いてみれば違う。
〔カルマが一定の値に達しました。査定を実行中……〕
最初は内容の意味がよくわからなかった。
けれど、あの謎だった英文字の羅列を思い浮かべ、ある程度の察しがついた。
とりあえず、ステータスを開いてみる。
〈ステータス〉
龍種Lv:10
パラサイト・アンデットドラゴン
ENE:41/41
STA:39/43
SAN:048/153
MAG:22/22
DRA:72/72
KAR:100/100
現在のレベルは十。
ついにニケタだ。
カルマ――karma。
頭の三つをとればKAR。
確かに一番下の数値が上限に達している。
ステータスを見るたびにちょくちょく上がってはいたが、なんで上がったかはわからなかった。
〔完了。カルマを清算して、罪科系スキルを取得します〕
罪科系スキル?
スキルが増えるのはいいことだと思うが……。なにかいい響きがしない名称だ。
〔スキル【搾取】を取得しました。スキル『生体吸収』は、スキル【搾取】に併合されます〕
スキル【搾取】。
『生体吸収』が併合されたということは、その上位互換という扱いでいいのだろうか?
とりあえず、スキル覧を確認。
〈スキル〉
『不死身』『魂魄攻撃無効』『燃焼攻撃無効』『体内寄生』『拘束効果緩和』『虚時間幽閉』『判別分析』
1.
2.
3.
4.
5.【搾取】
なにか意味わからない覧が追加されてる!?
いや、なんかこれ、あからさまに五個集めろって言ってるよな?
集めた方がいいの?
集め方わからないけど。
とにかくカルマを上げればいいのかな? それって、普通に過ごしてて手に入れられるってことか?
そういえば……。
改めてステータスを確認してみる。すると、カルマの値がゼロへとかわっているのだ。
ん? 思えば、生まれた時には五十くらいだったよな? まあ、いいか。
じゃあ、さっそく使ってみよう。
使う感じは『生体吸収』と同じでいいだろうか。
対象は、やはり御館様か……。
今まで必死にスキルを突破しようと頑張ってきた。
少しずつ進歩してきているはず、だったと思う。
なんか併合されたが、その進歩が無駄ではなかったと信じたい。
くっ、スタミナの吸収はまだ難しいようだ。でも、あと一歩な気がする。
というか、『生体吸収』だったころと変わってない。
これじゃあ、取得した意味がないじゃないか。
まあ、望んで取得したわけじゃないが。
果たして何が変わったんだ?
効率が良くなったわけじゃないようだし。
いったん放置でいいかなあ?
今まで通り使えるし。きっと、いざというときに、覚醒した! 的な感じで活躍してくれる。そう祈ろう。
それにしても、寄生虫を倒しまくった。いっぱい倒した。
時間的にも、もうそろそろだと思う。
ということで、私はこの体内から脱出したい。
方法はある。というか前に見つけている。だが、その前にしておきたいことがある。
だって――
〈ステータス〉
高位竜Lv:90
グレート・ロングドラゴン
ENE:0862/1135
STA:035/745
くく、ふ……ふふ、あははははっ。
さあ、詰みだ。
ふふふ、もうすぐでこの偉大なる竜は死ぬ。
私の高笑いが響き渡る。
もちろん腸壁は反響するわけないし、そんなこと言ったら、そもそも声自体出していない。ただの比喩表現だ。
私はそのくらい歓喜している。
なんでそうなったか?
荒野を越えられなかった? いいや、違う。荒野を越えることくらいなら、きっと出来ただろう。
ああ、そうだ。そんなの決まってる。
ただ『虚時間幽閉』で閉じこめただけだ。
え、いつからだって?
そんなの言うまでもない。最初の寄生虫を倒したすぐあと。
対象を御館様にして使ったのだ。
結果は成功。御館様の体内にあるものもまとめて幽閉された。
この間の虫王はおそらく、一度使った『虚時間幽閉』が解除された状態になった。けれど、そこには御館様はいない。
結果、落下することになったのだろう。
私のレベルが上がった理由は、この落下のダメージで経験値に入っていたからだと推測する。たぶんあの虫王は死んでいる可能性が高い。
なんにせよ、危機一髪だった。
それを踏まえて、もしこのまま御館様が死んだら、経験値が私に入ってくるだろうか?
微妙なところだ。
それはともかくとして、御館様のレベルが上がっていた理由。それは『虚時間幽閉』を解除するために試行錯誤をしたからだろう。
つくづく、なにをしたら経験値が入るのかわからないものだ。
まあ、それも無駄になろうとしているが。
実際は、解除されるかもしれないとひやひやしていた。
でも、それはじきに終わる。
これで、御館様がスタミナを回復するようなスキルをもっていたら、かなりだいなしだが、それはないと思う。
だって、御館様の使っていたエネルギーを回復するスキルは、スタミナを代償にしていたんだ。
気がついたのは最近。
御館様のスタミナの減りが思ったよりも早かった。
そしてスタミナの量が枯渇に差し迫ったとき、自動で回復していたと思ったエネルギーが回復せずに減りだしたのだ。
そこからスタミナの減りも緩やかになった。
寄生虫って、怖いね。
このことから、エネルギーを代償にスタミナを回復して、そしたらエネルギーが自動回復して、みたいなことは起こらないことがわかる。
無条件にスタミナを回復するスキルはないと思える。そんなのがあればスタミナは常に最大量で保つはずだからだ。あって、竜力、魔力を代償にスタミナを回復するものだろうが、もうそれはできない。
試しに、【搾取】を使って御館様の魔力、竜力を吸収しようとするが、できない。スキルで防がれたというよりも空っぽだ。
『虚時間幽閉』から逃れるための試行錯誤で使いきったととっていいだろう。
さて、私はスタミナの吸収を防ぐスキルの突破をひたすらに練習することにしよう。
最後くらい私が止めをさしたい。
本当にもう少しなんだけど……。
くっ、あ……っ。
いける――!
そのときだ。私の全身に痛みが走った。
ステータスを確認してみれば、いまだかつてないほどの勢いでエネルギーが減少している。
周りにはなにもいない。
これは御館様の体内へ攻撃するスキルかなにかだろうか?
なんで今ごろ、と思わないでもないが、私が御館様を買いかぶりすぎていたのかもしれない。
寄生虫を一掃するスキルをいま、ようやく得たのか。
なら、あの寄生虫の行動に整合性がとれないが、もうそれは上限に関係なく、スタミナを一定の値に保つ生き物だったと考えるしかない。
別に少なくたって活動に支障なさそうな感じだったし。
でも、それはもう遅いんだ。
エネルギーを吸収して踏み止まる。
そして全力でスタミナを吸収する。
私のエネルギーはどんどんと減っていく。
御館様のスタミナも減っていく。
しかしながら、私がスタミナを吸収する速度の方が早かった。
御館様のスタミナの値がゼロになった。
ステータスが映せなくなくなる。
私のエネルギーの減少が止まり、スキル『不死身』の効果によって回復しだした。
この『不死身』。いまになって考えてみたら、代償に減っていく値がないんだよな。
我ながら、卑怯な気がする。
〔一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました〕
こうして、私は御館様の討伐を成功させた。
少しの感慨を覚えながら、私はこれからのことを夢想する。
体内編、終了。で、いいのかな?
悲報。早々に微妙にあった書きだめが尽きました。
まあ、これからはのんびりやっていきます。