糞沼の聖女、現状を把握する。(1)
私はムチャクチャ後悔していた。よりによって何であんな連中に助けを求めたのか。
時は少しさかのぼる。
私が、空中に投げ出されていた時までだ。なぜか、沼の側にいた大きい方が、私に縄をかけてきたのだ。
あれは、ビビったね。まぁ、その後、富士急の「ええじゃないか」もびっくりな振り回しについていくので精一杯だったんだけど。
自分が何をされているのかも分からないまま、それはもう景気よくグルグルグルグル振り回して下さった。
おかげで、1週間寝込んだ。あれに耐えられた私、すごい。
しかも、最初なんて、糞沼に顔つっこんだからね。
口にあれが入った衝撃分かる?
分からないでしょ。
分かるって?
いや、絶対わかってないね。あれは経験者しか分からない苦しみだよ。
今なお、顔からあれが臭うからね。自分の口臭があれな苦しみといったら!!!
自分から臭うって事は、あの臭いから自分だけは逃げられないって事だよ。
会う人皆から、憐れみの視線でみられ、自然と私の周りだけ巨大なサークルができる。
そのサークルに入った者は、自然と崩れ落ち・・・地面にゲ〇を吐く。
そして、私が一度口を開けば、皆が瞬く間に気絶し始める。
悪かったな!!そんなにかよ。そんなにか。〇ロなみか。
まるで、覇王色の〇気が使える気分だ。
多分、ルフ○ーもこんな気持ちだったに違いない。
周囲の人間が、自然と私に跪く様子といったら!!!
まぁ、阿保なことを考えるのもここまでにしよう。
その後は顔からのスライディングを華麗に決め、見事顔面血みどろ。
精霊の守護により、体の治癒力が上がっていたため治るのは早いと言われはしたが、今なお、包帯グルグル巻きだ。
口臭があれなミイラ女、最悪だ。
もっと、最悪なのが、こんな状態にしたあの兄妹でも、私の命の恩人であり、現在生活の面倒を見てもらっている相手だという事だ。感謝なんて1ミリもしたくはないが。
さて、あの兄妹は存在からして突っ込み所満載だ。
まず、妹。
齢3つにして、身長170センチ。私より10センチもでかい。
そして、私に縄を付けて、振り回せたようにムチャクチャな怪力の持ち主である。
彼らの家にやっかいになっているため、食糧調達をしに、妹と一緒に森に出かけた時の事だ。
妹が私に、野生動物の仕留め方の手本を見せるといいだした。
まぁ、それはいい。私はサバイバルなんてしたことがない現代っ子だ。
よく見ておかなくては。
すると、妹は地面に転がっていた握りこぶしサイズの石を拾った。
石をニギニギして感触を確かめると、うん、と頷いた。
そして、片足を上げ、大きく振りかぶると勢いよく空に向かって投げた。
そりゃあもう、音速で。空気を切り裂きながらも飛んでいった石はいったい何処にいったのか。
結果は数秒後に分かった。
空から何かが降ってきたのだ。
それは、点から徐々に大きくなっていき地上100メートル位でやっと何か分かった。
全長50メートル程の怪物だ。
頭が牛っぽく体は蛇のようにテラテラしていて、馬っぽい足が胴から6本生えている。背中からは蝶のような模様と形をした羽根が8枚生えていて、尻からはぶっとい針が突き出ている。
しかし、その怪物の頭には拳程の大きさの穴が開いていた。
要するに、彼女は石を投げて、目視すらできない上空にいた怪物の頭に石を貫通させたのだ。
怪物はみるみる内に近づき、凄まじい騒音と共に落ちてきた。
落ちてきた怪物は地響きをたてながらクレーターを作り、呆気に取られていた私の元に衝撃波が襲った。
何の準備もしていなかった私は、見事数十メートルは吹っ飛ばされ木に衝突する事となった。
おい、何味方にまで被害出る攻撃してんだ。
文句を言おうとするも、ぶつかった衝撃で話せない。
この糞ガキが。
おい、こっち見ながらドヤ顔してんじゃねぇ。
なんで、得意げになってんの?私の状況見て分かんない?
確かに、神業だったのは認めよう。
それを、やれって?いやいや、無理があるでしょう。
ジンジン痛む背中を摩りながら思った。
しかし、妹は人の話を聞かない。どこからか、似たようなキモイ怪物を連れてきた。今度は生きている。
私に殺せという事らしい。んな無茶な。
いくら聖女と言われても、レベル1で、ラスボスは倒せないないでしょう。
まだ痛む背中に手をあてながら立ち上がった。
こりゃ、痣になってるかも。取り敢えず準備運動をする。
人生初の戦闘が、こんな怪物になるとは思ってもみなかった。
ため息を出さずにはいられない。
でも、仕方なくそこら辺にある石を拾って投げてみる。
いや、実は少し期待していた。なんだって、精霊の守護だ。始まりこそあれだったが、ここからが、チート主人公の伝説の始まりだ。
手からマジックパワー的な何かが出てくるとか。
神の後光的な感じで私を見た瞬間ひれ伏せるとか。
聖女に敵対したとして、天罰がくだるとか。
はい、調子のってましたとも。
ドキドキな感じで投げたはいいが、結果は期待を裏切って普通に当たって、普通に落ちた。
本当に、身体能力が上がっているのだろうか?
自分に攻撃を仕掛けたと思った怪物は怒って、妹の拘束を振りほどき私に向かって猛然と駆けてくる。
生物としては当たり前、ある意味予想通りの反応だ。
私はと言えば、期待が外れ逃げるのが遅れてしまっていた。
予想外だったのは、私の頭のゆるさと、妹の拘束のゆるさだ。
ここに来て、直接的な命の危険は2度目だ。
どっちも妹が間接的に関わっている気がしてならない。
今日の教訓、妹と二人っきりで行動するな。
教訓を得たところで、さっさと帰りたいのは山々だが、そうは問屋がおろさない。
怪物から逃げるために、超絶激烈猛ダッシュ中だ。
妹は呑気にがんばれーって手を振ってる。おい、助けろよ!!
こんのぉ糞ガキが!!!、後でシメル。絶対シメル。無理でもシメル。
心の中で言っても、口には出さない。だって、それどころじゃないから。
必死になって、森の中を駆け回る。デコボコな岩場も根性で走り抜ける。
こんなダッシュは久しぶりだ。ん?私、何か忘れてる?
まぁ、今は集中だ。相手はムチャクチャでかい50メートル級の怪物。
木が密集している所じゃ動きづらいだろう。
そう思って後ろを振り返ると、そんなの関係ねぇ、と言わんばかりに木々を蹴倒しながらかけてきていた。
オワタ。完全オワタ。
私との距離はもう10メートルに迫っていた。
追いつくのも時間の問題。
ダメだ。こいつからは逃げられない。
絶体絶命の大ピンチ。
私の隠されたチート能力よ。今こそ力を発揮するべきではないのか!?
腹をくくって怪物に向き直る。
その迫力にビビってちょっとちびったのは秘密だ。
思わず、辞世の句を詠もうとしたその時。
そんな私を救ったのは謎のヒーローでも、私をこんな所に送り込んだ神様でもなかった。
臭いだ。うん〇臭だ。
全力疾走中にでてくる私の体臭と、ゼーゼーハーハー出している口臭がいい感じにミックスされた凄まじい刺激臭。
きっとブレスケアでも制汗スプレーでも太刀打ちできないに違いない。
私は念願のチート能力を手に入れたのだ。
怪物はピタリと立ち止まると、もう耐えられないと言わんばかりに、顔を背けながら去って行った。
私は、そんな怪物を見ながら、茫然と立ち尽くしていた。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
何それ。
ちょっと、何それ。
ちょっ、こっち戻ってこいよ。えぇ?何であんたにまで、そんな態度取られなきゃいけないの?
おい、ちょっ、待てよ。
そこまでか。そこまでなのか。
私の心を無視できないダメージが襲っていた。
身体は無事でも、私のライフはもうゼロだ。
もはや灰になっていると、とことこ妹が歩いてきた。
「さすが、くそぬまのせいじょさん、くそのにおいぷんぷんだね。ちょーう〇こくさい。」
ニコニコしながら、そうのたまった。
10メートルの境界線からこちらには近寄ってこずに。
私の中の何かがブチッと切れる音がした。
「お前のせぇだろーが!!!!!」
私が切れた事で今日の食糧調達は終わった。
私の臭いが原因で、野生動物も、怪物すらも近寄って来なかったという事ではない・・・はずだ。
あばら家に戻ると兄が待っていた。
「随分と早かったな。私は色々用事があっていけなかったが、目立った怪我がなくてなによりだ。
あのミリアと一緒にいて無事とは、さすがは聖女。これからも子守を頼む。あぁ、そうだ。後で教会の方に寄っておいてくれ。聖女降臨を伝えなくてはいけないからな。それに今までは寝込んでいたせいで紹介が遅れていたが、村の住人と改めて顔合わせをしておいた方がいいだろう。色々と面倒ではあるが、中央と連絡を取る事になるはずだ。その時までの辛抱と思って耐える事だな。」
親切なのか、突き放しているのかよく分かんない男だ。
「それで、ミリアが中に入って来ないんだが何かあったのか?」
原因は十中八九、私の臭いだろう。相当臭いはずだ。
彼は感じないのだろうか?
「リムトは何も感じないの?」
「あぁ、私の体は普通じゃないからな。五感のオンオフが自在なんだ。因みに、今は嗅覚をオフにしている。って事は、君の臭い関係か。なら仕方ない。放っておこう。」
「そこで仕方ないって言われるとかなりムカつくけど、反論はしない。それにしてもその体っていつ見ても凄いね。なんで生きてるのかも不思議だし。そんなスペックもあるなんて。スケルトン半端ないわ~」
私はそう言いながらリムトを見た。
もうこの地に常識を求めるのは間違ってるだろうけど、彼の外見は骨格標本まんまだ。
椅子に座り、骨の指を上手く動かしながら書き物をしている。
彼はこの村で小さな子供に学校の先生のような事をしているらしい。
ここは貨幣が流通していないため、物々交換で生活がなりたっている。
ここに来た当初は交換できるような物は持っていなかったため、知識を教える代わりに食糧を貰っていたらしい。それが今でも続いているそうだ。
それにしても、彼の事を子供達は怖がってないんだろうか。
骨格標本が先生している光景はかなりシュールな気がする。
彼みたいな種族はよくいるんだろうか。
彼は人間だと言い張っているけれど、私はきっと大昔に死んで蘇ったんだと思っている。
きっと未練があったに違いない。そりゃ、生前の事に執着して自分を人間だなんて言い張るはずだ。
そこには壮大なドラマがあるのだろう。
「スケルトン?よく分かんないが君はどうやら勘違いしているようだ。」
リムトは足を組みながら、右肘をテーブルに付き頭を支えながらこちらを見て首をかしげた。
「いやいや、大丈夫。君の事は分かっているさ。生前に執着する君の気持とかね。」
私はしたり顔で頷いていた。今思うと恥ずかしい限りだ。
すると、リムト右手の人差指で頭をトントン叩きながら言った。
「いや、勘違いしている。私は死んだことなど一度もないし、蘇った者がいるなどと聞いた事もない。
私は生きながらにして、肉が剥がれ落ちたんだ。ミリアの願いによってな。」
んなバカな。
「はぁ?」
「理解できないだろう。私も当事者ながら、自分に起きたことが初めは理解できなかった。元々私達は、片親しか繋がっていなく、ほとんど交流もなかったんだ。私が呪いに侵されるまではな。」
衝撃的な事を聞いてしまった。片親だと?って事は血がつながってるって事?
「似てねぇ。」
「まぁ、なんせ父親しか繋がってないからな。」
いや、そういう問題じゃないんだけど。
「昔はよく父から似ていると言われたものだ。目の位置とか。鼻の位置とか。耳にある黒子の位置とかな。」
それ、似てるって言わなくない?
「肉がある頃の私はなぁ。紅顔の美少年とよく言われたものだ。あの頃はあまり何も感じなかったが、特に髪の毛の色艶、目の輝きが美しいといわれたものだ。」
今度は、腕を組みながら、虚空を見上げしきりに頷いている。
何とも嘘くさい話だ。
「それで、呪いってのは?」
「あぁ、そうだった。その話だったか。私はそこそこいいところのボンボンでな、父には男児が私しかいなかったし、割とすんなり後継者になったんだが、それを良く思わない輩に呪いをかけられたわけだ。しかも、その呪いが曲者でね。魂に直接書き込むというかなり強力な技を使っていた。おかげで、未だ解呪の仕方も分からないままだ。呪いは生きながらにして肉体が腐り落ちるというものだった。私は肉体が腐り落ちる激痛に発狂せずにはいられなかった。もう、後継者だのなんだの言ってる場合ではなくなっていた。生きているのが苦痛だった。しかも、解呪しないと死ぬ事も出来ないという地獄付きだ。私の国には一度後継者と決まれば、その者が死なない限り変更は出来ないという決まりと後継者は当主の直系でなくてはならないという決まりがある。それを逆手に取られたんだろう。おそらく相手は家をお取り潰しにしようとたくらんでいたはずだ。だが、父は私を死んだ事とし、世間に公表した。当然、呪いをかけた相手は嘘を見破るだろう。なにがしかの行動を取ろうとした者をあぶりだそうとした訳だ。まぁ、当然新たな後継者の指名という意図もあるがな。そこで、私の隠遁先として選ばれたのが、ここ、コスタリカ村だ。ここは、あらゆる意味で捨て置かれた土地だ。私の様に行き場のない者もよく集まる。そこで、当時、もう一つの頭痛の種だったトウジ族の血を濃く引くミリアを連れてここまできたんだ。」
リムトは淡々と語っていた。
指一つ動かしもせずに唯の事務報告のように語っていた。
しかし、その事実は酷く残酷なものだった。
生きながらにして、肉体が腐り落ちるとはどんな絶望なのだろう。
彼の悩みの前では私の口臭など些細な事だろう。
私は自分がひどく小さな人間に感じられた。
思わず、黙りこくっていると、外から声が聞こえてきた。
「おにーちゃーん。かいぶつさばけたよー。なんかねー。きれいないしでてきたよー。」
うん、シリアスがぶち壊しだ。
ミリアの興奮している声が聞こえてくる。相当うれしいんだろう。
リムトは、わずかに身じろぎをした。
少し笑っているかの様に思えた。
「さて、ミリアのお呼びだ。いかなくてはな。今夜は久しぶりの肉だ。」
そういって立ち上がるとドアから出ていった。
私もつられてドアから顔を出す。
家の前にはさっき取った怪物の血でいっぱいだった。
さながら殺人現場、という感じだ。
違うのは上にあるのが人間の死体でなく、怪物のバラバラ死体という点だ。
その中で佇むミリアはなぜか血で汚れていなかった。
リムトはなれた様子で血だまりの中を歩き、ミリアに近寄っていった。
ミリアが得意げに虹色に光っている石を見せる。
確かに綺麗だ。ミリアにしてはいいセンスをしている。
「ほう、これは中々。シェポート石だ。さてはこの怪物、ミズマルダ鉱山で食ったな。
おかげで、良い物にありつけた。ミリア、でかしたぞ。」
「えへへ。でしょー?でね、おにーちゃん、みりあねぇ、これでねーねっくれすつくりたいな。きれいなやつ。いいでしょ?」
「好きにしろ。」
ミリアは嬉しそうに石を握りしめると、あんなのがいいなぁ、こんなのがいいなぁ、と呟きながらデザインを考えてるようだった。
すると、リムトは私の方に近づいてきた。
「ミリアを良く見ていろ。さっきの話で、こんな姿になったのはミリアの願いのせいだ、といったな。
それがどういう意味なのか、これから分かるだろう。」
リムトは私に向かってそう言うと、背中を壁に預けながらミリアの方に向き直った。
さっきの話というと、リムトが骨だけになった理由だろう。
確かに呪いの話は聞いたが、そっから何を経てこんな姿になったかは聞いていなかった。
ミリアの願いと言われてもよくわからない。
私達が話している間に、ミリアはデザインが決まったみたいだ。
「おにーちゃん、みりあねぇ、かいぶつのぺんだんとつくるー」
そういった瞬間、ミリアの手元が光った。
正確に言えば、手元にあったシェポート石が光った。
3秒くらい経っただろうか。光は徐々に弱くなり、消えていった。
ミリアの手元にはシェポート石で作られた怪物の形をしたペンダントトップがあり、首につけられるようにチェーンまでつけてあった。
「あれー?なんでだろー?ま、いっか。なんかできたー。おにーちゃん、みてーできたよー」
ミリアは自分の手元を不思議そうに見ていたが、すぐに開き直り、自慢げに見せてきた。
「え?何あれ。ありえないっしょ。何でペンダントできてんの?速くない?速すぎじゃない?
ミリア一体何したの?ってか、チェーンどこからでてきた?」
「あれが、ミリアの力だ。いや、トウジ族の力だといった方がいいか。トウジ族は自ら強く願う事でありえない事象を引き起こす事が出来る。彼らは種族的に頭が弱く、いや温厚だからな、自分達の異常さに全く気付いてもいないし、調べようともしない。普通、こんな力を持ったら悪用する事を考えるが彼らは基本的に自分から他者を害そうとはしない種族だ。彼ら自身、不思議な事がよく起きるなぁとしか思っていないというのも理由ではあるが。」
「おにーちゃん、みんなにじまんしてきていい?」
「いいぞ、自慢してこい」
「ん。いってくる。」
ミリアはパタパタ走っていった。
「立ち話もなんだからな。家に入ろう。」
そういって、家に入っていく。私も話を聞くために付いていった。
「さて、今の話で少し変だと思った事はないか?」
「いや、全体的に変だと思うけど。そういう事を聞いてるんじゃないんだよね?
んー。他者を害そうとしないって話だけど、私、ミリアからろくでもない目に遭わされてるけど。」
「あぁ、ミリアは馬鹿だからな。全て自分を基準に考えて行動するから普通の人間には死活問題になるだけだ。害意はもってない。」
「それって、だけとは言わないでしょ。」
「いや、些細な事だ。トウジ族と関わると命がけなのは世界各国共通認識だ。」
「マジで。ねぇ、私引っ越していい?」
思わず冷や汗をかいた。
「私が言いたいのはそういう事ではない。ミリアは抵抗もなく、怪物を殺しただろう?普通のトウジ族は食糧のためでも生き物を殺したりしない。彼らは土を食べるだけでも生きていけるし、味覚を持っているかも怪しいからだ。トウジ族は総じて、他者からの害意に鈍感だが、一度恐怖を感じるとでかい図体に反比例するようにノミの心臓を持つようになる。つまり、恐慌状態におちいるんだ。そうなった時のあいつらは天災だ。赤ん坊の癇癪のように暴れまわり、土地をも変形させる。そんなビビりな奴らが自分から敵対しに行くはずがないだろう?だが、ミリアは違う。あいつは人間のハーフだ。ミリアは相手を害する事に躊躇いはない。怪物もすぐに殺せただろう?しかも、トウジ族独特の死の概念により死そのものにはまるで恐怖を抱いていないんだ。これが、どういう事だか分かるか?」
「人類にとってかなりの脅威になるって事だね」
「そういう事だ。だから、我々は幼少期からミリアの情操教育に力をいれていかなくてはならないんだ。
将来、ミリアが大量破壊兵器にならないようにな。」
「さりげなく、私を頭数にいれるのやめてくれない?あんなのと付き合ったら命がいくつあっても足りないから。無理無理。」
一応兄の前だけど、ウンザリした顔は隠せない。
「ふん。だが、実際生き延びてるじゃないか。聖女は身体能力が普通の人間の何倍もある。身体の免疫力も回復力も普通の者より遥かに高い。あいつの相手にはうってつけだ。正直、あいつのやらかした後処理で私は忙しいんだ。なんならお前がするか?あいつが殺した相手の家への謝罪参り。皆ここらに住むからには割り切っているがな色々ご近所付き合いは大変なんだ。」
「謹んで引き受けさせて頂きます。」
「全く、初めからそう言えばいいものを。大体、お前は居候の身なんだ。家主の言う事はちゃんと聞くように。あぁ、後ミリアの特殊性は口外しないように頼む。私とお前しかしらないからな。」
「え?私達しか知らないの?人間のハーフって事も?」
「あぁ、そうだ。面倒なことになる。絶対言うなよ。」
あぁ、完璧巻き込まれた。
しかし、レムトも苦労してるな。私だったらご近所の人を殺しまくってる妹の面倒なんてみたくない。
いくら閉鎖的な村で、トウジ族が天災のような人達だったとしても、ここでは司法は機能してないんだろうか?
「ここって、自警団とかいないの?普通、人殺したら捕まるでしょ?」
「どこの誰がトウジ族を閉じ込められる檻を作れるんだ。それに、トウジ族に敵意を向けたらどうなるかさっき教えただろう。誰もそんな地雷を踏むような事はしたくないだろう。私もしたくない。まぁ、普通の人間同士の争いもなくはないがな。そこら辺は自己責任だ。だが基本的にご近所とは仲良くしている。いざ天災が起こった時、いかに速く対処するかで生存率が変わるからな。お前も気を付けろよ。情報が回らなくて逃げ遅れたらしゃれにならん。」
「成程。極端に強い生命体には逆らえないよね。しかし、ご近所付き合いかぁ。私なんて周りから不審者って思われてたし、自信ないなぁぁ?ぁああぁあああああ!!!!」
「五月蠅い。何だ。急に叫びだして。」
「そうだよ。あれだよ、あれ!!何で声聞こえないの!?何で気配感じてないの!?
今の今まで忘れてたよ!!!スゲーー、マジか!えーーーー、なんで、なんで、なんで!?!?」
「落ち着け、何の事だ。」
「私こっちくるまで、変な声は聞こえるし、変な気配は感じるし、だけど姿は見えないし、でチョー大変だったの。もー、マジ、パなかったからね。それがさ、変な気配に囲まれて意識失って、気付いたら空の上でさぁ。もーヤバかった。死ぬかと思って。まぁ、お宅の妹さんに?あんな事されちゃって?一応助かったけど?、ぜっっっっっっっっっったい礼は言わないから。」
「・・・・・・・。別に礼はいい。正直、お前が生きてるのは奇跡だ。それにしても、ひょっとしてお前、異世界出身か?」
「へ?あ、あぁ、異世界・・。異世界ねぇ。んー、うん、多分異世界。なんか、状況に適応すんのに大変で考えてなかったけど、異世界だね。うちんとこには、あんたの妹みたいな理不尽な存在はいないかんね。」
「やっぱりか。はぁぁぁぁぁ。おい、それ絶対に秘密にしとけよ。もっと面倒なことになる。」
リムトは真面目くさった感じで私に言った。
あぁ、またも嫌な予感がする。私の平穏は遠い。
聖:ねぇ、レムト?結局その体になったのはミリアが願ったせいだって言ってた けど、どーいう事?
レ:私が、肉体が腐り落ちていく中あまりにも苦しんでいるもんだから、それ じゃ、そもそも肉体がなかったら腐り落ちる事もない、と考えたらしい。
逆転の発想だな。
聖:スゴッ。それで生きてるレムトも凄い。
レ:自分でもそう思う。