第0節
「部活?やんないよ」
「そう、まだ時間もあるし幾つでも選択肢はあるからゆっくり考えれば良いよ」
「詩織はもちろんサッカーするんでしょ?」
「当たり前。逆に何をすると思ってる」
入学式の後、笠原渚は帰宅する為に少し肌寒い中を中学からの友人の近衛詩織と歩く。
渚より少し背の高い彼女は一つに纏めた背中まで伸びた黒髪を揺らしながら渚の隣を歩く。
「サッカー部、今メンバー少ないって聞いたけど?」
「試合が出来るならそれで良いよ」
相変わらず遠くを見るような目付きで前を向いたまま問いに答える詩織。
「最近足は痛くないか?渚」
「うん大丈夫、痛いどころか体育くらいなら出来るんだから」
「なら良かった…」
中学時代、渚は詩織とサッカー部に所属し地区代表にも選ばれる程の強力なコンビを組んでいたが、渚は交通事故に遭いサッカーを辞めざるを得なくなってしまった。詩織はマネージャーでもすればいいのに……と一瞬考えるが余計なお世話だろう、と考えるのを止める。
「じゃあね詩織、明日から頑張って♪」
「ああ、また明日……」
別にやりたい事なんて無いし、とりあえず3年間それなりに楽しく過ごそうって感じだった。