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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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夢か現か猫耳か その三

 鉄の群れへと飛び込んだ二つの光は、次々と相手を撃ち落としていった。

 鉄の集団も反撃するが、まるで歯が立たないようだ。

「……なぁ、これってどう考えてもおかしくないか?」

「ふっ……文句なら読者に言うのだな」

 そんな攻防を、藤原と秋原は見上げていた。

 今日はおかしな事が連続で起こっているので、

上空で明とアリスが戦闘機の大群相手に戦っていても、それほど驚けない。

「あ……秋原君!」

 聞き慣れない声が聞こえ、二人が声の聞こえた方を向く。

 そこには、一人の少女が息を切らせながら立っていた。

 身長は百六十センチよりも少し高いくらい。

 絶妙なバランスの体型は、誰もが目を奪われるだろう。

 少しだけ脱色されたロングヘアは、

入念に手入れされているらしく、美しい光沢を放っている。

「良かった……! 空が何かスゴい事になってたから、

不安になって探しに来たんだけど……」

 その少女は、秋原の無事を確認すると、ホッと安堵した。

「秋原……その娘、誰だ?」

「俺も知らん……これも、読者によるものか……」

 そんな二人の遣り取りには目もくれず、少女は秋原に抱き付いた。

 大胆な彼女の行為に、藤原はもちろん秋原も驚く。

「秋原君に何かあったら、私……!」

 これはきっと、そう言う事なのだろう。

 秋原は暫く呆然としていたが、平静を取り戻すと、

「済まんな……心配掛けさせて……」

 少女を強く抱き返した。

「なっ!? お前、知らない娘に……っ!?」

「この娘は、俺を想ってこうしているのだ。

俺は、それを寛大な心で受け入れただけだ」

「あぁ、そう……」

 秋原の言葉に、藤原は只々呆れるだけだった。

 それっぽい事を言っているが、要は只の節操無しである。

「せ、先輩……!?」

 今度は聞き慣れた声が聞こえ、二人は声の方を向く。

 驚愕の表情で、堀が立っていた。

「その娘は……!? 僕に言って下さった言葉は、全部嘘だったんですか!?」

「あ〜あ、知らないぞ俺は……」

 さっき秋原が堀に言った言葉を思い出し、藤原は溜め息混じりに言った。

 秋原が自分で招いた事態なのだ。

 藤原にとっては、勝手にしやがれと言ったところだ。

 堀は、真剣な表情で、秋原と少女に歩み寄る。

 少女は、秋原を護る様に抱き寄せ、威嚇する様に堀を睨み付けた。

「貴女……名前は?」

「……渋谷京子しぶやみやこ

 たったそれだけの遣り取りなのに、

押し潰されそうなオーラが、二人を中心に放たれる。

「僕は、高校に入学してから、ずっと先輩の背中を見てきました。

貴女の様なポッと出が、気易く触ることは許しません」

 今までにないくらいの怒気を孕んだ声を、堀は京子に投げつけた。

「君が言ってるのは、あくまで『後輩』としてでしょう?

私は、ずっと秋原君と『恋人』だったの!

学校こそ違うけど、手を繋いで歩いたり、遊園地で同じ観覧車に乗ったり……」

 そこまで言って、京子は少し躊躇する。

 しかし、頬を紅く染めつつも、

「そ、その……キス……とかも……」

 たどたどしく告白した。

 更に京子は続ける。

「……お母さんが死んで落ち込んでた時も、

秋原君は、私の大好きなイチゴサンデーを奢ってくれて、元気付けてくれて……。

いつも傍に居てくれて、突然泣きたくなった時も泣かせてくれた。

必要以上にその事に触れなかった事も、嬉しかった。

だから、今度は私が秋原君の傍に居てあげたいの!

秋原君の支えになってあげたいの!」

「け、結構深いな……」

 思っていた以上に設定が濃く、藤原は思わず呟いた。

 恋人同士なら普通の設定かも知れないが、当の秋原には全く覚えがないのだ。

 こうなると、逆に京子が哀れに思えてくる。

「貴女がそこまで言うのでしたら、先輩に直接問いませんか?」

「良いわよ! 白黒ハッキリさせようじゃない!」

 どうやら、秋原に直接選んで貰うらしい。

「先輩、当然僕を選んで下さりますよね?

僕の目を見据えて言って下さった言葉は、嘘じゃありませんよね!?」

「秋原君、私を裏切ったりしないよね?

共有した時間は、偽りなんかじゃないよね?」

 堀と京子が、秋原に殺到する。

「俺は……俺は……」

 秋原は、少しだけ考えた。本当に少しだけだった。

 そして、

「どっちも好きだあああぁぁっ!」

 辺り一面に響く声で、秋原は叫んだ。

 予想外の答えに、堀も京子も藤原も黙ってしまう。

 何度か深呼吸をして、更に秋原は続ける。

「……勘違いしないで欲しい。

『選べない』のでも『選ばない』のでもない。『両方選んだ』のだ。

……確かに、人生は選択の連続だ。

しかし、何もかもが択一で良いのか? 俺はそうは思わん。

メイドは萌える。妹も萌える。幼馴染も萌える。

巫女もナースもスク水もエプロンも捨て難い。

たった一つしか選べんのか? 他は全て捨てねばならんのか?

一番大切な物しか残らん人生など、虚しくないか?

……だから俺は、二人とも選ばせて貰う」

 長々と話し、秋原は何も言わなくなった。

 二人の返答を待っているのだろう。

「……て言うか、早い話、二股じゃないのか?」

 藤原の声は、誰の耳にも届かなかった。

 少しの間の後、

「先輩!」

「秋原君!」

 二人は同時に秋原に抱き付く。

「あはは……皆馬鹿だ……」

 藤原は、泣き笑いになりながら呟いた。



 その直後、何かが激しく打ち付けられる音が、二回、近くで響いた。

 驚いて見に行くと、そこには一人の猫耳と一人の魔法少女が横たわっている。

「あ、明さん!? アリス!?」

 藤原が声を上げるが、二人は反応しない。

 二人ともボロボロで、アリスは頭から血を流している。

「ん……んんっ……」

 明が意識を取り戻し、どうにか上体を起こした。

 身体が痛むらしく、顔を強張らせている。

「前線を退いたツケが……こんな形で回ってくるとは……」

 自嘲気味に呟くと、隣のアリスに目を向けた。

「望月さん……私が至らない所為で……。このままでは……私は何も……」

 そう言って、明は暫くの間考える。

 決意を固めると、ゆっくり立ち上がった。

「あ、明さん……?」

「……止むを得ません。最後の手段を使いますニャ。

敵中へと飛び込み、私もろとも敵を全滅させますニャ」

「え……えぇ!?」

 明の決意に、藤原は驚愕した。

 明は、自分の髪を結わえていたリボンを解くと、アリスの止血に使う。

 纏められていた髪が、広がって靡いた。

「私のコアは、核兵器として使えますニャ。

もちろん試した事はありませんが、東アジアを滅ぼせる威力だそうですニャ。

彼らからここを守るには……他に手がありませんニャ」

「でも、明さんは……」

 藤原が何か言おうとしたが、明はそれを手で制した。

「光様は、望月さんを守って下さいニャ。

念の為、ブローニングM1910とRPG-7を置いて逝きますニャ。

どちらも扱い易いので、いざと言う時には躊躇わずに使って下さいニャ。

守るべきものがあるのは、私も光様も同じですから」

 そう言うと、明は光の額にそっとキスをする。

 思わず藤原は紅潮し、明は微笑んだ。

「では……行きますニャ」

 そして、明は戦闘機の渦へと飛び込んでいった。

「……待てよ。東アジアが滅びるって事は……」

 何もかもが、光に包まれていく。



「……藤原」

「何だ、秋原」

「気付いた事がある……」

「何だよ?」

「これは……夢オチだ」

「……そうか」

「さぁ、目覚めよう。俺達も……読者も」

出来心でやりました。

今は反省しています。

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