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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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夢か現か猫耳か その二

 色々とあったが、どうにか二人は藤原宅に到着した。

「準備は良いか?」

「ふっ……もう今更驚くものか」

 秋原の返事を確認すると、藤原は玄関のドアを開ける。

「ただいまー」

「邪魔するぞ」

 二人の声が、玄関に響く。

 少しして、リビングから明が出て来た。

「光様、お帰りなさいませニャ。

……あ、秋原さん、こんにちは。ごゆっくりしていって下さいニャ」

 そう言って、明は頭を下げる。

 頭には、やはり白い猫耳があった。

 良く見ると、身動ぎに合わせてヒクヒクと動いている。

「……藤原、ちょっと外に出て来て良いか?」

「えっ? べ、別に良いけど……」

 秋原の突然の申し出を、藤原は戸惑いながら承諾する。

 それとほぼ同時に、秋原は外へと飛び出していった。



「萌おおおおぉぉぉええええぇぇぇっ!!!!!」



 少し経って、秋原が戻って来た。

 呼吸がかなり荒く、手を膝に付いて項垂れている。

「ふっ……これは……実に……強烈……だ……」

 途切れ途切れになりながら、秋原はそれだけ言った。

「紅茶を煎れますから、リビングでおくつろぎになられては如何ですニャ?」

 そんな遣り取りを気にする事無く、明は言う。

 猫耳が付いているとは思えない程に素の対応で、逆に返答に困る。

 藤原は少し迷ったが、結局首を縦に振った。



「で……どうするんだよ?」

 リビングの椅子に座った藤原が、

テーブルを挟んで向かいの椅子に座った秋原に問う。

 キッチンでお湯を沸かしている明には聞こえないように、声を加減している。

「そうだな……見たところ、飾りではなさそうだ。故に外す事は出来ん。

こうなると厄介だな……何だかんだ言って、読者には逆らえん」

 秋原は腕組みをして、言葉通り悩みながら答えた。

 ようやく少し落ち着けた藤原は、ずっと疑問に思っていた事を訊く。

「読者って誰だ?」

「ふっ……お前が知るには早過ぎる」

 しかし、一言で片付けられた。

「だが……今、俺達がすべき事は決まった」

「な、何だよ?」

 秋原が何か思い付いたらしい。

 一縷の望みを賭けて、藤原は秋原を急かした。

 秋原は焦らす様に間を置いて、真面目な顔になる。

「あの猫耳に……触る」

 余りにも真面目に言い放った秋原に、藤原は固まった。

 もう珍しい事でもないのだが、こんな時にまでこんな事を言われては、

彼の人間としての根本的な部分すら疑わしくなる。

「猫耳触るのが定石だ。触られた時のリアクションも見てみたい」

「それはけんめいなはんだんだな」

 あくまでも真面目な秋原に、藤原は棒読みで返した。

「では、早速行動開始だ」

 秋原がそう言って席を立った瞬間。

「むぉ!?」

 床が激しく振動し、秋原は両手をテーブルに置いて転倒を逃れた。

 尚も揺れは続き、明は慌てて火を止める。

「じ、地震!?」

 藤原は焦りながら、テーブルの下へ隠れた。

 そうこうしているうちに、揺れがどうにか収まる。

「ま、まさか……!」

 しかし、明の表情は見る見る青ざめていった。

 大急ぎでリビングを出て行き、そのまま外へ飛び出していく。

「あ、明さん!?」

 藤原と秋原は戸惑いながら、その後を追いかけていった。



 外に出ると、明が立ち尽くしていた。

「どうしたんだ、明さん?」

 藤原が尋ねるが、答えようとしない。

 空を見上げて、驚愕の表情を浮かべている。

「空……?」

 二人が、明と同じ空を見上げる。

 そこには、蒼い空を埋め尽くさんばかりに、無機質な物体の群れが飛んでいた。

 それらは明らかに殺気で満ち満ちていて、

晴天を喰らいながら進んでいる様にすら見える。

「お、おい……嘘だろ……」

「戦闘機か……兄者なら詳しいと思うのだがな……」

 二人が全く違うリアクションをし、

「停戦協定を結んだのに……どうして……!?」

 信じられない、と言った表情で、明は呟いた。

「明さん、知ってるの!?」

「…………」

 藤原に問われ、明は少し躊躇う。

 しかし、覚悟を決めたのか、ゆっくりと口を開いた。

「私は……元々戦闘機でしたニャ。

技術の粋を結集して創られた私は、様々な問題を秘密裏のうちに片付けていたんですニャ。

任務の為なら、どんな事でもしましたニャ。命を殺めたことも……何度も……。

しかし、機械である私にも、寿命はありますニャ。

戦闘機として激務をこなしてきた私は、ボロボロになってしまったんですニャ……。

ですから私は、最期を『人間』として生きる事を許されましたニャ。

最期まで人を殺め続けるよりも、人の温もりの中で……それが私の望みでしたニャ」

 自分の衝撃的な過去を、実に淡々と述べる。

 語尾の所為で、緊張感は半分になっていた。

「そんな……明さんが……!?」

「メイドロボだったのか……これは堪らん……!」

 二人が、それぞれ違う事に驚く。

 猫耳の事など、既に忘れてしまっていた。

「じゃあ、あの戦闘機の大群は……?」

「恐らく、狙いは私ですニャ。私を捕獲、分析して、量産しようとしているのでしょう。

あとは、日本への宣戦布告辺りが妥当ですニャ。

……私はともかく、関係の無い人が犠牲になる訳にはいきませんニャ」

 そう言って、明は少し間を置く。

「ですから……私は戦いますニャ」

 そして、自分に言い聞かせる様に言った。

 同時に、明の身体が、生気を感じられない物に変わっていく。

 右腕は百五十ミリ口径の無反動砲、左腕は二十ミリ口径のバルカンに変形した。

 背中に翼の様な物が生えるが、鳥のそれとは明らかに違い、

鈍い輝きを放っていて、とても冷たい印象を受ける。

 そんな姿でも猫耳はそのままで、不思議な温度差を醸し出した。

「明さん……」

 目の前の明の変わり様に、藤原は思わず呟く。

「大丈夫ですニャ。私に内蔵されている武器は、これだけではありませんニャ。

陸を巻き込む訳にはいかないので、赤外線フレアを使用出来ないのが痛いですが……」

 それでも、明の笑顔に翳りは無い。

 百戦錬磨の強者だからなのか、痩せ我慢しているのか……。

「勝算はあるのか? 相手は多勢に無勢だぞ」

 そんな明に、秋原は冷静に問う。

 明は、首を横に振った。しかし、すぐに口を開く。

「守るべき何かが有れば、勝算の有無は問題ではありませんニャ。

それに、戦う他に道は無さそうですし……」

「ふっ……それもそうだな」

「では……行ってきますニャ」

 そう言って、明が飛び立とうとした時。

「待って!」

 どこからか、大きな声が聞こえた。

 三人が声の聞こえた方を向くと、そこにはツインテールの背が低い少女が居た。

「あ……アリス!?」

「ボクも……戦う!」

 アリスは、簡潔にキッパリと言う。

 その顔は、とても真剣なものだった。

「ゴメンね、お兄ちゃん。

ボク、もう一つお兄ちゃんに隠し事してたんだ……」

 そして、少し愁いを帯びた表情で言い、ランドセルから縦笛を引っ張り出す。

 それをバトンの様に回しながら、アリスは呪文を唱えた。

「一切を無に帰す猛りし風よ 我に纏いて刃と化し給え

万象を護りし穏健なる風よ 我を抱きて盾と成り給え

ケミカル マジカル エコロジカル!」

 アリスを中心に、目も開けられない程の光が発生する。

 藤原が目を開けると、アリスの服装が変わっていた。

 各所にフリフリと大きなリボンが散りばめられている白い服。

 よくある変身少女の服装である。

「愛と勇気の魔法少女、マジカルアリス、ここに推参!」

 口上を言うと、アリスはポーズを決めた。

 縦笛は、いつの間にかステッキに変わっている。

「ふっ……つるぺたロリッ娘の変身シーン、しかと見せてもらった」

 気が付けばサングラスをしていた秋原が、満足げに呟いた。

 表情が、明らかに『何か良い事があった日の顔』になっている。

「何て言うか……俺……もう良いや……」

 次々と起こる事態に、藤原は投げ遣りになった。

 最早、秋原が羨ましいとさえ思ってしまう。

「ボク……お兄ちゃんの為なら、魔法を使うよ。

お兄ちゃんが受け入れてくれるなら、ボクはお兄ちゃんの為に生きていたいから」

 周囲の反響を気にも留めず、アリスは言った。

「……では、行きましょうニャ」

「うん!」

 そして、二人は鉄の群れへと飛んでいく。

 真っ直ぐ、迷う事無く。

「秋原……これも全部、読者の仕業か?」

「否、アリス嬢は著者の趣味だ」

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