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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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望月家の一族 中編

「アリスちゃーん。お茶……あれ? すれ違ったのかな?」

「うひゃぁあああああああああああああああああッ!?」

 突然ドアが開き、更にはマリアの声まで聞こえ、真琴は現実に引き戻された。

 裏返る程の声を上げ、ベッドから転がり落ちる。

 どうにか受身を取ると、すぐさま正座の姿勢をとった。

 そんな真琴を見て、マリアはクスクスと笑う。

 その手には、麦茶の入ったコップが二つ乗ったお盆を持っている。

「ふふ……今の貴女、マリアの家に初めて来た時のダーリンにそっくりだよ」

 慈しむ様な目を向けながら、テーブルに麦茶を置くマリア。

「あ、あの、えっと、その……どうもっス」

 何も言う事が出来ず、誤魔化す様に麦茶を一気飲みした。

 冷たいという事以外、何も感じる事が出来ない。

 嫌な汗が、額から流れてくる。

「真琴ちゃん……だったよね。アリスちゃんから色々聞かせて貰ってるよ。

小さい子が大好きで、男のコでも女のコでも見境無い変態さんなんでしょ」

「うっ!? そ、それは……」

 アリスがいないからか、かなりストレートな台詞が飛んできた。

 『変態』と呼ばれるのは心外だが、前半に関しては事実そのものである。

 誤魔化せたとは思っていなかったが、先程の失態も見られてしまったらしい。

 あれはアリスの匂いに中てられた故の気の迷いで、普段からあのような事をしているわけではない……と思いたい。

「まあ、マリアも若い時に……今も若いけど、ダーリン相手に色々したしねー。

ハメを外さない範囲なら良いんじゃないかな。とは言っても若いから、多少ハメちゃうのは大目に見るけど」

 笑いながら話を続けるマリア。

 どうやら、自分とアリスの関係を認めてくれるらしい。

 ――こ、これでご両親公認のお付き合い! 結婚秒読み! ぷ、プロポーズはどこで……!

「とは言っても、アリスちゃんには光君っていうフィアンセがいるから……それを蹴ってまで百合に目覚めてくれるとは思わないけど」

 マリアが補足するが、既に真琴は声が届かない世界に旅立っていた。

 ――ナイトパレードが一番盛り上がった時に指輪を渡して、その勢いでホテルに連れ込んで、シャワーはどっちから……いっそ二人一緒に……!

「あと、アリスちゃんが魔術師の血を引いている事も知っているんだよね。それも、転校初日に尾行して、写真まで撮ったんだって?」

 しかし、すっかり舞い上がっていた真琴の心は、その一言で一気に凍り付く事になる。

 ――そ、そんな事まで耳に入って……!?

 真の報道とは、正義とは何か答えが出せず、元部長に言われるまま探り当てた初のゴシップ。

 転校初日から自分に心を開いてくれたアリスを、その日のうちに売り飛ばそうとした事は、忘れていないし、忘れてはならない。

 もちろん、誰にも口外していないし、撮ったデータも削除した。

 しかし、記録は削除出来ても、記憶は削除出来ない。

 自分がそうである様に、アリスも決してあの事は忘れまい。

 だから、アリスが保護者であるマリアに報告したのは当然なのだ。

 その事を、ほんの少しでも恨めしく思ってはならない。ならない筈なのに……。

 自分の汚らしい一面を垣間見てしまい、旨を締め付けられる思いを抱く。

 きっとこれは、一生背負うべき罰だ。

 綺麗な言葉を謳いつつ、心も体もそれには届いていなかった罪への罰だ。

 真琴は両手を膝の前に添え、額を床に着ける。

「その事に関しては、私は頭を下げるしかないっス。これで許して貰えるとは思ってないっス。責められ続ける覚悟でいるっス。

ただ、あれ以来、新聞部員として、何を、どこまで報じるべきか、ずっと考えている事だけは知って欲しいっス」

 今、自分が用意出来る答えは、これだけだ。

 悩み続ける事だけが、今の自分に出来る償いだ。

 それでも尚罵られるならば、自分の罪はそれ程重いというだけの事。

 黙して受け入れる以外、自分に選択肢は無い。

 そんな事を考えながら土下座を続けていると、何かが自分の頭をそっと撫でてきた。

 それがマリアの掌である事は、頭を下げたままでも判る。

 だからこそ、何故自分がこの様な扱いを受けているのか、理解出来なかった。

「アリスちゃんが言ってた通り、こういう事に関しては、なかなかの堅物だね。

顔を上げてくれないかな。こんなところをアリスちゃんに見られたら、マリアが怒られちゃうよ」

 優しい声に言われるままに、顔を上げる。

 目を合わせると、マリアは慈しみを孕んだ笑みを浮かべる。

「別に、マリアは真琴ちゃんを責める気なんて無いよ。そもそも、アリスちゃんの軽率な行動が原因だもの。

誰にも口外してないみたいだし……ある意味、見られたのが真琴ちゃんで良かったとすら思う。

アリスちゃんだって、マリアと同じ事を考えているんじゃないかな。

まだ根に持っているとしたら、わざわざ家に招き入れるはずないもの。

アリスちゃんが、建前で人付き合い出来る程に器用じゃない事、真琴ちゃんなら知ってるよね?」

「は、はい……裏表があるタイプではないと思うっス」

 マリアの予想外の対応に、真琴は戸惑っていた。

 てっきり、娘を裏切った事を責められると思っていたのに。

「真琴ちゃんは、友達っていうのを、ちょっと勘違いしているんじゃないかな?

相手にとって心地良い事だけをしたりされたりだなんて、友達でも恋人でも……家族でも無理なんだよ」

 心なしか、マリアの発する『家族』という言葉から、自嘲めいたものを感じた。

 それを気に留める間もなく、マリアは話を続ける。

「人は、相手を思い遣る心だけで生きる事は出来ない……例え、その相手がどんなに大切な人でもね。

相手が自分と違う事を受け容れられなかったり、我が身が一番可愛かったり、自分の間違いや無知を認められなかったり……。

誰だって、悪い心や情けない心を抱えて生きてる。真琴ちゃんも、アリスちゃんも、もちろんマリアも、皆そうなんだよ。

ぶつかって、喧嘩して、頭を冷やして、話し合って、妥協して、仲直りして……一生その繰り返し。

ところで、真琴ちゃんは、掘り出されたダイヤモンドをどうやって宝石にするか知ってる?」

「いえ、知らないっス」

 何故、ここでダイヤモンドの話になるのだろうか。

 疑問に思いつつも、真琴は正直に答えた。

「ダイヤモンドは余りにも硬いから、同じダイヤモンドで研磨するんだよ。

ダイヤ同士で身を削って、完成する宝石の宝石言葉は……『永遠の絆』。

硬さがその由来なんだろうけど、マリアはこうも思うんだ。

人の絆は、何度もぶつかり合い、傷付け合う事で、初めて完成するものなんだ……って。

だから、真琴ちゃんがしてしまった事は、二人が更に仲良くなる為のスパイスでしかないと思うの」

「人の絆は……ダイヤと同じ……」

 真琴は、マリアの言葉を反芻していた。

 何やら難しい話だが、少なくとも、とても大切な話である事は解る。

 見た目は幼女そのものだが、年頃の娘を持つだけあって、人生経験の量では敵いそうもない。

「それでも罪滅ぼしをしたいって言うなら、これからもずっと、アリスちゃんと友達でいて欲しいな。

二人一緒に、宝石にも負けないくらい綺麗で素敵な大人になる事が出来たら、それはとっても素晴らしい事だと思うから」

「はい! もちろんっス!」

 真琴の答えには、一点の曇りも無かった。

 これから何度諍いが起きたとしても、自分はアリスの友達だ。

 出来る事なら、それ以上の関係にも進展したいところであるが。

「さて、そろそろマリアは退散するけど……お茶のお替わりは要る?」

「お気持ちは嬉しいんスけど、望月さんが紅茶を淹れに行ったから、そっちを飲むっス」

「アリスちゃんが紅茶を!? た、大変! アリスちゃんがお湯を沸かすなんて……」

 マリアの顔が青ざめると同時に、階下から爆発音が聞こえる。

「うわぁあああああああああああああああああッ!?」

 それとほぼ同時に、アリスの悲鳴も聞こえた。

 予想が的中したのか、マリアは溜息を吐く。

「アリスちゃんてば、友達の前だからって見栄張り過ぎだよ……まあ、割とよくある事だから、ちょっと待っててね」

 そう言うと、マリアは部屋を去っていった。

 ――この家にこそ、明さんが必要なんじゃないスか……?



「お、お待たせ……けほっけほっ」

 少し経って、アリスが咳込みながら戻ってきた。

 その手には、コーラの入ったコップを二つ持っている。

 黄色のワンピースが一部焦げ色になっており、前髪の先がチリチリになっていた。

 恐らく、先程の爆発が原因だろう。

「あの、望月さん、紅茶は?」

「どうせボクは、冷蔵庫の飲み物を出してくるのが精一杯だよ……」

 どうやら、紅茶は諦めたらしい。

 アリスはテーブルにコーラを置き、学習机のペン立てからボールペンを取り出した。

「じゃあ、とりあえず半分ずつ分担しよっか」

「そうっスね。……あ、蛍光ペンは無いっスか?」

「あるけど、何に使うの?」

「葉書の縁を塗っておくと、目立って当たり易くなる――かも知れないっス」

「おまじないって事だね。はい、マコちゃんの分」

 真琴の向かいに座り、葉書とペン一式を渡すアリス。

 それを受け取ると、真琴はアリスの左隣に移動した。

「あの……マコちゃん? 何で隣に来たの? ちょっと狭いんだけど」

「気にしない気にしないっス」

 訝しげな顔を向けるアリスを、適当に宥める。

 当然、真琴がアリスの左隣を陣取ったのには理由がある。

 アリスは左利きで、自分は右利き。

 隣同士で作業をしていれば、ほぼ確実に腕が触れ合う時が訪れる。

 つまり、至って合法的に幼女に触れる事が出来るのだ。

 アリスと自室で二人きりというシチュエーションで、これはかなり大きい。

 即座に結婚とはいかなくとも、ラッキースケベには大きく近付く筈だ。

 本当は、ここまで懇切丁寧にフラグを立てるなどと遠回りな手段は取りたくない。

 何せ、手を伸ばせば触れられる距離に、アリスの全てが在るのだ。

 ワンピース故に露出が高く、肩も、脇も、二の腕も、脚も、無防備にさらけ出されている。

 そして、ワンピース一枚を隔てた向こうには――。

「ま、マコちゃん……そんなにジロジロ見られると集中出来ないよ」

「気のせい気のせいっス」

 だが、ここは敢えて襲ったりしない。

 ここで耐え抜けば、何だかんだで偶然押し倒したり押し倒されたりといったラブコメ展開になるはずだ。

 その時にこそ、この無垢なる想いを思う存分ぶつければ良い。

 そんな事を考えながら、真琴は懸賞葉書を書き直していく。

 言ってしまえば単純作業なので、手を動かしながらも色々な事を考えてしまう。

 ――幼児向け雑誌の懸賞なら、望月さんみたいなロリショタがたくさん葉書を出す筈っス。

 ――つまり、私が葉書を出せば、私(の葉書)はたくさんのロリショタ(が書いた葉書)と一緒に……!

 ――イケる! これはかなりイケるっス! こんな所にハーレムの入り口が広がっていたとは!

 ――後で『ユロユロ』と『ちゃあ』を買って計画実行っス!

 親が代筆している可能性を一切考慮せず、真琴は皮算用をしていた。

 手は止まるどころか、妄想によって加速している。

「マコちゃん速いね……もうそんなに終わったんだ」

 倍近い速度で仕上げていく真琴に、アリスが驚きつつ言う。

 妄想が顔に出ていたお陰で、向かいの席に逃げられてしまったのだが、真琴はそれすら気づかない。

 懸賞葉書によるハーレム計画で、思考回路はショート寸前である。

「枠に色塗ったりとか、詳しいよね。慣れてるの?」

「一応、ママと一緒にクロスワードとか色々応募していた時期があったっス。

昔取った杵柄って奴っス。懐かしいっス……私がまだ望月さんぐらいの時っス」

「ボク、同い年なんだけど!?」

「歳じゃなくて身長っスよ」

「うぅ、ちょっと納得してしまう自分が悔しい……」

 へこんでいるアリスに萌えつつ、幼い頃を思い出す真琴。

 母親と一緒になって、クロスワードで悩んだり、線つなぎがこんがらがったり……。

 葉書を出すときのマナーも、この時に教えて貰った覚えがある。

 あの頃の自分は何も知らなくて、無邪気で……幼女だった。

 ――何で歳なんて取ってしまうんスかね、人って。

 昔の写真を見たりする度に、どうしても考えてしまう。

 人間の成長が十歳くらいで止まれば、この世は天国だというのに。

 今の自分には、アンチエイジングの発展を願う事しか出来ないのがもどかしい。

「一緒にクロスワードするなんて、お母さんと仲良いんだね、マコちゃん」

「まあ、悪くはないと思うっスよ。余所と比べた事がないから、私の感覚スけど」

「そっか……良いよね、そういうの」

「……? 望月さん?」

「!? ……あはは、何でもないよ」

 そう言うアリスの表情は、どこか浮かないものであった。

 無理して笑おうとしているのが見え見えなのだが、真琴にはかける言葉が思いつかない。

 そういえばマリアも、家族に対して何かしら思うところがあるような含みを持たせていた。

 もしかしたら、アリスとマリアは……。

 しかし、仮に憶測が当たっているならば、尚更踏み込んではいけないのではないだろうか。

 友達とはいえ、デリケートな部分に土足で踏み込むようなものだ。

 そんな事をしてアリスを傷つけてしまえば、自分は『記者』ではなく『野次馬』に堕してしまう。

 それに何より、せっかく取り戻したアリスの信頼を、また裏切ってしまう。

 誰にだって、胸の内に秘めておきたい事の一つや二つくらいある。

 アリスが言いたがらないのであれば、そっとしておくのが優しさというものだ。

「さ、そろそろ半分だし、ボクも頑張」

「望月さん!」

「うわぁ!? ……な、何?」

 思わず、アリスの腕を掴んで叫んでしまった。

 ――やっぱりダメっス。こんなの耐えられないっス。

 理屈では理解していても、行動を伴わせる事は出来なかった。

 アリスの悲しそうな顔を見てしまったから。

 今ここで見過ごしてしまえば、ずっと後悔すると思ったから。

「……『何でもない』なんて、嘘っスよね?」

「ま、マコちゃん……」

「望月さん、辛そうな顔していたっス。何でもないはずないっス。

私は、望月さんに本当の事を話して欲しいっス。望月さんの気持ちを知りたいっス」

「でも、ボクは……」

 顔をそらそうとするアリスの両頬に手を添え、正面を向かせる。

「もちろん、望月さんが言いたくない事も、私が聞いたところできっと何も出来ない事も、解っているっス。

それでも、このまま放っておくなんて出来ないっス。だって私は……友達っス!」

 つくづく自分は不器用だと、真琴は内心思っていた。

 しかし、ほんの少しでもアリスの力になれる可能性があるならば、それに賭けたかった。

 マリアは言っていた。絆とは傷つけあって育むものだと。

 傷つく覚悟も、傷つけてしまう覚悟も、出来ているつもりだ。

 だからこそ、アリスの心を、真正面からこじ開けてみせる。

「……そう、だね。マコちゃんには、知っておいて貰った方が良いかな」

 やがて、アリスは観念したかの様に呟いた。

 アリスの両手が真琴の両腕にかかり、頬からそっと引き離される。

「ボクが魔法使いの血を継いでいる事は、マコちゃんも知っているよね」

「もちろんっス」

「本来は、この事は他人に易々と知られちゃいけないんだ。

メディアの玩具にされない為に、信頼出来る……それこそ結婚を前提とした人でもないと。

ボクは、ずっとそれがイヤだったんだ。友達にずっとウソを吐き続けないといけないんだもん。

こんな物を眼に入れておかないといけないしね。慣れるまでは本当に大変だったよ」

 そう言って、アリスは左目のカラーコンタクトを外した。

 普段は決して見せない、碧眼のオッドアイが露わになる。

「人には無い力なんかより、普通の女のコとしての人生が欲しかった。

だから、それを手に入れられない身体に生んだお母さんを、物心ついた時から恨んでいたんだ。

今思えばすっごくヒドい事を、いっぱいしたり言ったりした。

お兄ちゃんに説得されて、それからも色々あって……やっと受け入れる事が出来たのは、ここ数年の話だよ」

「信じられないっス……あんなに仲良さそうなのに」

 玄関でのやり取りは、ごく普通の親子だった。

 その裏に、そんな過去があったとは。

「マコちゃんは、小さい頃にお母さんと一緒に色んな事したんだよね?

……ボクは、そういう思い出が全然無いんだ。お母さんの全てを拒否しちゃったから」

 真琴の予想は、当たっていた。

 アリスもマリアも、『家族』の話題では陰のある表情を見せていたから、きっとそうだと思っていた。

 ――望月さんの事情も知らずに、私はあんな話を……!

 自分がしてしまった事の罪深さを知り、今更になって、自己嫌悪に陥る。

「べ、別にマコちゃんは悪くないよ。ボクの自業自得だもん」

 そんな真琴の気持ちを察したのか、アリスが慌ててフォローする。

 無神経な自分に、ここまで優しくしてくれるなんて。

 それだけに、過去に母親に辛く当たっていた事が、俄には信じられない。

「お母さん、ボクが物心ついて反発するようになるまでは、スゴく楽しそうに子育てしてた。

アルバムだって何冊もあって、その時の事をいっぱい書き込んでて……。

きっと、もっと色んな事したかったんだろうなぁ。

一緒に料理したり、あっちこっち出かけたり、絵本読んだり、お絵かきしたり、公園デビューしたり……」

 次第に、アリスの声と肩が震え始める。

「でもボクは、お母さんがしたかった事を何一つ叶えてあげられなかった。

自分の事ばっかりで、お母さんがどんな思いでボクを育てていたのか、ちっとも考えてあげられなかった」

「だけど、今は違うんスよね?」

「もう手遅れだよ!」

 真琴が問うと、アリスは吐き捨てるように叫んだ。

 その眼には、涙が浮かんでいる。

「だって、今更何をしたところで、奪った思い出は返してあげられない!

なのに、お母さんもお父さんも、ボクを責めようとしない……このままじゃボク、優しさに甘えてダメになっちゃうよ……!

ねえマコちゃん……ボクはどうしたら良いのかな? どうしたら償いが出来るのかな? どうしたら……!」

 最後の方は声にもならない声になってしまい、聞き取る事が出来なかった。

 元気を絵に描いたようなアリスが、こんなにも親との関係で思い詰めていたなんて。

 果たして何をしてあげられるのか、真琴は迷っていた。

 アリスの様に親との関係で悩んだ経験が、自分には無い。

 そんな自分が何か言ったところで、アリスの心に響くだろうか。

 ――でも、それでも私は……!

「望月さん、そんな事で悩んでいる暇なんて無いスよ」

「ふぇ……? ど、どーゆー事?」

「確かに、過去は取り戻す事なんて出来ないっス。

でも、相手にとって心地の良い事だけをしたりされたりなんて、親子でも不可能っス。

大事なのは、これまでを後悔する事じゃなくて、これからを後悔しないようにする事じゃないんスか?」

「そ、それは……」

 真琴の言葉に、アリスは言葉を濁した。

 アリスも、きっと内心は気付いているのだ。

 過去を嘆いたところで、未来から取り返す以外に方法が無い事くらい。

 アリスに必要なのは、背中を押してくれる人。

 ――だったら、それは私がやるっス!

「私も、望月さんの信頼を踏みにじる様な事をしてしまったっス。

今でも、償いが出来たとは思っていないっス。

でも、望月さんは、そんな私を許してくれているっス。

だから、望月さんも許されるべきだと思うっス」

「マコちゃんは、体を張って新聞部の体質改善を頑張っているんだもん。

ボクは、お母さんの為に何をすれば……」

「望月さんはまだ十六歳っス。卒業とか、進学とか、就職とか、結婚とか、出産とか、まだまだ大きなイベントが山ほど残っているっス。

だから、お義母さんと思い出を作るチャンスは、これからいくらでもあるっス。

今言った事を全部やって、それでも足りなかったら、その時に改めて悩めば良いんじゃないスか?」

「お母さんは……それで許してくれるかな……」

「もちろんっス! 私みたいなパパラッチでさえ許してくれたんスから、実の娘を許さない筈ないっス!」

 真琴の言葉の後、しばらくの沈黙が訪れる。

 涙が乾いた頃に、アリスは呟く様に言った。

「……そうだよね。やっぱり、これから取り戻すしかないよね」

 そして、久々にアリスの表情が綻ぶ。

「ありがと、マコちゃん。マコちゃんが聞いてくれたから、ちょっと気持ちが楽になったよ」

「大した事はしてないスけど……望月さんが笑ってくれるなら、私は何でもするっス」

 一部マリアの受け売りもあってか、アリスの笑顔を取り戻す事が出来た。

 もし、あの時、アリスの心に踏み込もうとしなければ、アリスの辛い思いを知る事すら出来なかっただろう。

 もちろん、アリスの傷口を広げるだけで終わってしまう危険性も常にあった。

 それでもやはり、自分にはこのやり方が一番合っているのだと思う。

 アリスの笑顔を見て、こんなにも温かい気持ちで胸がいっぱいなのだから。

「……ところでマコちゃん、さっきからお母さんの事『お義母さん』って言ってない?」

「それはきっと空耳っス」

皆様、どうもお待たせしました。

就活や社会人生活もひとまず落ち着き、久しぶりに筆を執らせて頂きました。

久しぶりの復帰作がロリコンの話の続きというアレな展開ですが、楽しくかけました。

一年半ぶりに創作意欲が湧き出てきたので、遅筆ですが順次次話を掲載出来ればと思います。

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