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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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望月家の一族 前編

 日曜日の昼下がり。

 真琴は、日課の散策に励んでいた。

 散策と言っても、目的はある。

 平日は幼稚園や保育所、小学校に通っている子供達の姿を、カメラに収める事だ。

 プライベートの彼らを記録に残し、あどけない姿をいつまでも楽しむ。

 正義を自負する者にとって、これ程の至福が他にあるだろうか。

 新しい生活に期待と不安を募らせる春。

 瑞々しい肌を惜し気もなく晒す夏。

 学芸会に精を出す秋。

 雪と戯れ、靴下に願いを込める冬。

 四季折々の彼らを記録と記憶に留める事が、自分の使命なのだ。

 悲しい事に、最近は公園で遊ぶ子供が少ない。

 子供を狙う卑劣な魔の手には、日々憤りを覚える。

 確かに、性を知らぬ彼らの身体に、第一の刻印を刻みたくなる気持ちは理解出来る。

 しかし、子供は国の宝だ。

 個人の欲望で汚す事など、許されるはずもない。

 それらを脳内で済ませてこそ、真に子供を愛でる者である。

 出来る事なら、それを理解しない愚か者共に自ら鉄槌を下してやりたい。

 自分に任せてくれれば、あらゆる操を蹂躙して、二度と勃たなくしてやるのに。

 そんな事を考えながら、被写体を探していた時。

 子供の……それも幼女の気配を察知し、真琴は路地裏に身を隠した。

 彼らの自然な姿を撮る為に、陰から狙うのは基本だ。

 足音から、十歳前後の幼女一人であると予想する。

 塀に張り付きつつ覗き込むと、歩いてきたのはツインテールの幼女。

 黄色いワンピースが目に映え、何とも可愛らしい。

 スカート部分の裾を掴んで、胸が見えるくらい捲り上げて「あんたバカぁ!?」と涙目で罵られたい。

 そのか細い腕は、葉書の束を抱えている。

 まだ年賀状の季節ではない筈だが……。

 ――って、望月さん!?

 思わぬ形で、クラスメイトに出会ってしまった。

 きっとこれも、清く正しい自分への思し召し。

 やはり、自分とあの合法ロリは、結ばれる運命にあるのだろう。

 身内と判れば、遠慮は無用。

 とりあえず一枚撮ってから、真琴はアリスの前に躍り出た。

「望月さん、こんちはっス!」

「うわぁ!? ま、マコちゃん!?」

 アリスは思わず後ずさり、そのまま尻もちをついてしまった。

 その姿勢が誘っているとしか思えず、勢いで押し倒す真琴。

「こんな所で何してるんスか?」

「それこっちの台詞だよね!? 何するつもりなの!? ナニするつもりなの!? うわぁあああああああああッ!」



「……つまり、この葉書は全部懸賞で、これから出すところだったんスね」

「何事も無かったかの様に振舞わないでよ」

 着衣の乱れを直しつつ、敵意の眼差しを向けるアリス。

 真琴は、そんな彼女の目線にすら萌えていた。

 魔法まで使われて抵抗されたので寸止めであったが、これだけで絶頂すら覚える。

 葉書を見ると、どうやら漫画雑誌のアンケート葉書のようだ。

 アンケートに答えた人の中から抽選でプレゼント、といったものだろう。

 雑誌に一枚しかついていない葉書を、これ程集めるとは。

「えへへ、ボクが好きな漫画家のサインが当たるから、張り切っちゃった。

この人の漫画って、読んでるこっちまでドキドキしてくるんだよね。

絵は綺麗だし、女のコの気持ちを丁寧に描いてるし、いつも次回が気になる終わり方するし」

 アリスは夢中で漫画家への賛辞を述べる。

 話の内容からして、少女向けの恋愛漫画だろうか。

 ――恋に恋するおしゃまな幼女……堪らないっス!

 ませた小学生に対するそれの様な感情を、真琴は抱いていた。

「特に、今月の濡れ場はスゴかったなぁ。今思い出しても興奮しちゃうよ。

ボクもいつかはお兄ちゃんと、頭がフットーする様な、あんな事やこんな事を……」

 真琴が思い描いたそれとはまるで異なる思いを吐露するアリスであったが、先に妄想の世界へ旅立った真琴には届かなかった。

「……あれ? 望月さん、これ……」

 我に返った真琴が、ある事に気付く。

「この葉書、宛名の『宛』を『御中』に直してないっスよ。これも、これもこれも……まさか全部?」

「オンチュウ……『Want you』?」

「あべしッ!? ……き、求愛じゃないスよ。『宛』を斜線で消して隣に『御中』って書くのがマナーっス」

 英語での求愛に胸を撃ち抜かれ、真琴は鼻血を抑えながら説明した。

 興奮と失血で、頭がクラクラする。

 惜しむらくは、予想外過ぎて録音し損ねた事か。

「そうなんだ。じゃあ書き直さないと……はぁ、これ全部だなんて、いつ終わるんだろう……」

 書き直しが必要な葉書の束を見て、アリスは溜息を吐く。

 これ程の葉書を用意するだけでも大変だったであろうに、更に一手間増えたのだ。溜息の一つも漏れるだろう。

 ――ティンときたっス!

 その時、真琴に電流走る――!

「望月さん! 是非! 私に手伝わせて欲しいっス!」

「え、良いの? こんなにあるけど大丈」

「大丈夫っス! 問題無いっス!」

「そこまで言うなら、手伝って貰っちゃおうかな。ボクの家で良」

「もちろんっス!」

 アリスが言い切る前に返事をする真琴。

 余りの剣幕に、アリスは少したじろぐ。

「そ、そう……。日曜なのにボクの為にありがと、マコちゃん。持つべきは友達だね」

 お礼と共に、アリスは屈託の無い笑顔を見せた。

 それだけで、真琴は早くも昇天寸前だった。

 ――自宅……合法……望月さん……侵入……ハァハァ……!

「マコちゃん、何か、顔がスゴい事になってるだけど……おーい……」



 かくして、真琴は望月家の敷居を跨ぐ事に成功した。

 携帯で電話していたアリスが、少し残念そうにそれをしまう。

「お兄ちゃん、今日は出掛けてるんだって。手伝って貰おうと思ったんだけど……ま、二人で良いかな。

最悪、一人で全部やる事になってたかも知れないし。マコちゃんがいてくれて良かったよ」

 ――私も良かったっス……藤原先輩がいてくれなくて。

 一番の邪魔者の不在を知り、真琴の影がニヤリと笑う。

 初めてのお宅訪問に、真琴の期待は止まらない。

 ここに来るまでの間に、三度脳内シミュレーションをし、その全てベッドインした程だ。

 そしてついに、アリスが家のドアを開ける。

「ただいまー」

 アリスに続き、真琴は恐る恐る一歩を踏み出した。

 ――ついに……ついに、望月さんにお持ち帰りされたっス!

 興奮の余り、真琴の思考回路はショート寸前である。

 達成感に浸っていると、家の奥から足音が近付いてきた。

 スリッパを履いているらしく、ペタペタとした音だ。

「アリスちゃん、おかえりー」

 出迎えた足音の主は、かなり小柄な女性。

 辛うじてアリスよりは大きい程度で、小学生と間違われても不思議ではない。

 髪はアリスと同じダークブラウンで、肩の辺りで切り揃えられている。

「あれ、お友達? アリスちゃん、先に部屋片付けないとダメでしょ。置きっぱなしだったよ、ロー」

「ももも望月さん! この小さくて可愛らしい人は誰スか!? 妹スか!? 姉スか!? 攻略して良いスか!?」

「ボクのお母さんだよ! 娘の前で不倫宣言する気!?」

 女性の声すらも遮る剣幕で、真琴はアリスに迫る。

 幼女の家に遊びに行ったら、更に幼女が現れたのだ。

 真琴にとっては、鴨が葱を背負って来た様なものである。

「お母さん!? 望月さんの!? こんなに幼いのに!?」

「アリスちゃん、聞いた? マリアの事、若いって! このコってば上手ねぇ」

「お母さん……似てるけど、意味は全然違うよ」

 真琴の頭の中は、一面の花畑であった。

 アリスを娶れば、彼女を『お義母さん』と呼べるのだ。

 義理とは言え、この愛らしい幼妻の娘になれるなんて。

 藤原は、アリスの家族構成も知っている筈なのに、何故アリスの求愛を受け入れないのだろう。

 自分なら、二つ返事で嫁入りでも婿養子でもOKするのに。

「とりあえず自己紹介しないとね。アリスちゃんの母のマリアです。いつもアリスがお世話になっています」

「わ、私は新谷真琴っス! 望月さんとはクラスメイトで、えっと、その……」

 半ばパニックに陥っている真琴は、言葉を少し詰まらせ、

「毎晩お世話になっているっス!」

「ボクで毎晩何してるの!? ナニしてるの!?」

 とんでもない事を口走っていた。

「大丈夫大丈夫。アリスちゃんも、毎晩妄想の光君で」

「止めて! マコちゃんにだけは言わないで! しかも何で知ってるの!?」

「かく言うマリアは、実物のダーリンと毎晩」

「お兄ちゃん、助けてぇええええええええええええッ!」

 ツッコミ不在の中、アリスの声が虚しく響く。



 どうにか騒ぎも落ち着き、真琴はアリスの部屋に通された。

「あ! ち、ちょっと待って!」

 室内に一歩踏み込んだ途端、慌てたアリスに押し戻された。

 アリスは部屋の物を急いで拾い集め、クロゼットに無造作に押し込んだ。

 ライトノベルでは名前すら出せない代物もいくつかあった気がするが、追及するのは止めておこう。

 改めて部屋に通され、真琴は室内を見まわす。

 机もベッドも、あらゆる家具が一回り小さいので、部屋が広く見える。

 部屋の装飾は全体的に女の子らしく、ピンクを筆頭に暖色が占めている。

「飲み物は紅茶で良いかな? 淹れてくるから、適当に座って待っててね」

 真琴を残して、アリスは部屋を出て行った。

 言われた通り、真琴は適当なスペースを見つけて座る。

 ――ここが、望月さんの……幼女の部屋……。

 改めて、真琴は今いる場所を認識する。

 到る所に、幼女の指紋が、手垢が、残り香が存在する場所。

 自分にとっては高校球児の甲子園にも等しい、夢の様な場所だ。

 だからこそ、何から始めるべきか迷ってしまう。

 少し考えてから、とりあえず深呼吸をした。

 鼻から幼女の匂いをたっぷりと吸い込み、口から吐き出す。

 アリスのそれに似た、甘い香りがした。

 ――これだけでご飯三杯はいけるっス!

 それを二度三度繰り返すと、何だか心が洗われた気分になる。

 さながらマイナスイオンの様な癒し効果だ。

 ふと足元を見ると、フローリングの床に、ダークブラウンの長い髪が落ちていた。

 高確率でアリス、もしくはマリアのものだろう。

 『玩具』の片付けも出来ていなかった部屋に、掃除機が掛けられている筈もない。

 真琴はそれを摘み上げ、長さを確認する。

 肩までしか伸ばしていないマリアに比べ、アリスは腰まで伸ばしている。

 長さから考えて、アリスの物と見て間違いあるまい。

 真琴は、貴重なアリスの体の一部を、ひとまず財布へしまった。

 ――ふふふ、ご利益ご利益っス♪

 金運のお守りよりも、余程効果がある気がする。

 一本見付けると、更に欲が出てくる。

 携帯用、部屋に飾る用、保存用、とりあえず身体に巻いてみる用と、四本は欲しい。

 あわよくば、マリアの髪も揃えたいところである。

 恐らく、ベッドにも抜け毛が残っているだろう。

 そう考えてベッドの傍に移動すると、案の定、数本の抜け毛が見付かった。

 その上、アリスが抱き枕を使用している事が判明する。

 枕のカバーこそ無地だが、藤原を投影しているのは明白だ。

 ――それにしても……。

 一日の四分の一を過ごす場所だけあって、アリスの匂いがより強く感じられる。

 寝汗が染み込んでいるのか、果物にも似た甘酸っぱい匂いだ。

 その匂いを嗅いでいるうちに、顔が熱っぽくなってくる。

 ――こ、これは……理性が……もた……!

 色欲を煽るその匂いに、真琴は堪らずベッドに倒れ込んだ。

 普段、アリスが最も無防備に身を預ける場所で、自分も同じ事をしている。

 そう思うと、何ともむず痒い気持ちになった。

 そして、抱き枕に腕を回す。

 これが『藤原』だと思うと嫉妬してしまうが、アリスは普段これに抱き着いて寝ているのだ。

 これに自分が抱き着けば、間接ハグになる。

 直接抱き着けば済む話ではあるのだが、間接という響きが何とも初々しく、それでいて淫靡で魅力的なのだ。

 アリスの分身とも言えるそれに脚を絡ませ、自分の胸に押し付ける。

 背徳感すらも心地良く思え、呼吸を通じて匂いを嗅ぐ程、夢の底へと沈んでいった。

 ――望月さん……望月……さん……望……月……。

まさかの真琴視点という事で、これまででも指折りの上級者向け小説になってしまいました。

前後編の予定(場合によっては三部構成に変更)ですので、ここまでたどり着いた猛者の皆様は、もうしばらくお付き合い下さいませ。

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