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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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ネタ被り小娘 中編

「では、そろそろ始めましょう」

 数分後に準備が整い、自然と空気が張り詰めました。

 変身する当人であるアリスの緊張感も、最高潮に達します。

 厳かな雰囲気を保ちながら、ナツメが杖をバトンの様に振り回しました。

 先程よりも複雑な形をした魔法陣が、ナツメの周りに浮かび上がります。

 舞い上がる様に風が吹き、またもやスカートが捲れますが、ナツメは気にも留めません。

 この魔法が、それ程までに難しいという事なのでしょう。

 縞模様の下着を惜し気も無く晒しながら、ナツメは高らかに唱えました。

「メルヘン、クーヘン、薬子の変! 我は請う! 彼の乙女が理に逆らう刹那を赦し賜え。

彼女の御身に神々の息吹を。其の行く末には女神の祝福を!」

 相変わらずの可愛らしい声で、ナツメは詠唱を終えました。

 すると、今度はアリスの足元に魔法陣が現れます。

 そこから光が放たれ、アリスの身体を包みました。

「うわぁ!? こ、これは……!?」

「御心配無く。痛い思いはしませんよ。其れ程掛かりませんから、身を委ねなさい」

「う、うん……」

 ナツメに言われ、アリスはその通り光に身を委ねました。

 温かい感触が全身を包み、湯船に浮かんでいるかの様です。

 アリスの意識は、湯煎にかけたチョコレートの様にとろけていきました。

 目を開けたまま夢を見ている様な状態で、アリスの変身が始まります。

 真っ先に、一糸纏わぬ姿になるのはお約束。

 何だかんだで大事な部分は見えませんが、それでこそ夢が膨らむというものです。

 背が伸び、胸が膨らみ、肉付きが良くなり、見る見るうちに大人の身体になっていきます。

 そして、アリスを包む光のヴェールが、煌びやかなドレスに変わりました。

 何もかもが終わり、魔方陣が夜闇へと消えていきます。

「ん……う〜ん……」

 夢心地だったアリスの意識が戻る頃には、秋原は既にカメラを仕舞っていました。

 レンズを太陽観測で使いそうなフィルターで覆っているので、さぞかし良いものが撮れたのでしょう。

 白々しいくらいに手際良く、秋原は大きな鏡を用意しました。

 何も知らないアリスは、鏡で自分の姿を確認します。

「うわぁ……! これがボク!?」

 見違えた自分の姿に、アリスは感嘆の声を漏らすばかりでした。

 身長が伸びた所為か、世界を見る目線すら変わった様に感じます。

 ブラすら要らなかった『まな板』の上に出来上がった、やや小振りながらも見事な双丘。

 ほんの少し前までは叶わなかった、美しい曲線を描いた腰のライン。

 鉋をかけた木材の様に、いつまでも触っていたくなる肌。

 そのどれもが、ついさっきまでの幼児体型とはかけ離れていました。

 そして、そんな身体を丁重に包む、雪原の様に真っ白なドレス。

 余所行きなど着た事が無いであろうアリスに配慮してか、スカート丈が膝までしかありません。

 動き易いと同時に、健康的な生足が露出されています。

 ガラスで出来た靴は、歩き易い様に、ヒールを低くしていました。

 その他の箇所も、過多な装飾は施されておらず、機能性重視の様です。

 それは、アリスが元来持つ、無垢で活発なイメージを前面に押し出していました。

「悦んで戴けたなら幸いですが……本当に良かったのですか、秋原さん?」

 嬉しそうに全身を見るアリスに対して、ナツメは複雑な表情を浮かべます。

「慥かに、魔法少女の変身に於いて、大人への変身は定番です。

視聴者層である年端も行かない幼女は、大人に成る事を切望していますから。

然し、第二の視聴者層である『大きな御友達』の中には、魔法『少女』目当ての人も少なくありません。

幼女の成長に、不満を抱く者が現れる可能性も否定出来ませんが……?」

 今現在、全力疾走で魔法少女をしている者からとは思えない質問内容でした。

 そんな問いに、秋原は腕組みをして頷きます。

「貴様の言う事は概ね正しいぞ、なっちゃん。

企業側としても、資金に優れる『大きなお友達』の反感は買いたくないであろうしな。

だが、ホイホイと『大きなお友達』の意見ばかり聞いている訳にはいくまい。

下手をすれば、世の魔法少女が全て、子供が手の出しにくいOVAになってしまう恐れもある。

子供の夢を奪う様な輩など、『漢』と言い張る資格も無いわ。

我々『大きなお友達』には、公式が叶えられなかった夢を叶える『同人誌』があるしな。

ロリやエロや裸や触手が足りなければ、ファンが補えば良いだけの事だ」

「然うですか……ま、貴方が良いのなら構いませんが」

 童話が舞台であるにも関わらず、二人の会話は生々しいものでした。

 この二人に空気を読ませる事は、虎をベジタリアンにするよりも難しいでしょう。

「あ、あの……ちょっと良いかな?」

 魅入る余り何も聞いていなかったアリスが、やや遠慮がちに声を掛けました。

「よくよく見たら……ボクが見せたAVのコ、もっと胸大きかったよね?」

 どうやら、まだ胸の大きさに不満があるようでした。

 先程までバストサイズがAAだったとは、到底思えない内容の不満です。

 下の毛も生えていないのに、心臓には毛が生えているのでしょうか。

 人とは恐ろしい生き物で、その欲望には果てがありません。

「生憎ですが、其れが私の限界です。一応云っておきますが、其れはBカップですよ?

御先真っ暗な貴女のバストのサイズが二つも上がったのですから、充分過ぎると思いますが」

 そんなアリスを、ナツメはバッサリと切り捨てました。

 ここまで言う魔法少女も、ある意味珍しいでしょう。

「ふむ……Bカップか。なかなか良い仕事をしたではないか、なっちゃん。

決してある訳ではないが、無い訳ではない。この何とも言えぬ感覚が堪らん。

黒でもなく白でもない灰色……オセロで喩えるなら、縦だな。

そして、オセロで駒が縦に立つ事など滅多に無い。即ちBカップとは、選ばれし者のみに許される奇跡の賜物なのだ!」

「話の最中に失礼ですが、日本人女性の三割弱はBで、最多だそうですよ」

 秋原が語り出しますが、今回は少々無理があった様です。

 ナツメにツッコミを受けますが、秋原はそんな事を気に留める小さな漢ではありません。

 語らなければ死ぬ。それが漢達のルールなのですから。

「Bカップの胸を真の意味で堪能するには、正面から見るばかりではいかん。

側面に回り、緩やかなカーブを描いた身体のラインを吟味するのが通の常識。

あらゆる角度から観察し、時として触り、必要に応じて挟ませる。

胸とは……芸術とは、己が五感で感じ、魂に刻み込むものなのだ!」

「いっそ、逮捕歴を人生に刻み込んでは如何ですか」

 国家権力に狙われかねない発言さえ躊躇わない秋原を、ナツメはやはりバッサリと切り捨てるのでした。

「兎に角、此れ以上は如何する事も出来ません。未だ文句が有るなら、元のゴスロリ幼女に戻しますよ」

「むぅ、判ったよ……」

 これ以上秋原に暴走されない為に、さっさと話を進める為に、ナツメはさっさと話を進めます。

 アリスはまだ納得出来ていない模様ですが、知った事ではありません。

 馬相手に与太話をしていたホリを蹴り倒し、アリスを馬車に乗せます。

「其の姿で居られるのは、十二時の鐘が鳴る迄です。

卑猥なアニメの様に全裸に成る事は有りませんが、元のゴスロリ幼女に戻ってしまうので、直ぐに帰って下さい」

「え〜!? オトナは深夜に燃えるんだよ!? アニメだって深夜がゴールデンだし」

「私の門限は、一昨年まで五時でした。贅沢云うなら、今度は身長縮めますよ」

 いちいち文句をつけてくるアリスに、ナツメは切り札の一言を使います。

 アリスは真っ青になり、それ以降何も言わなくなりました。

「あの……ちょっと良いですか?」

 今度は、ホリが控えめに声を掛けてきます。

 存在感は空気の癖に、空気が読めない奴です。

 カリカリした様子で、ナツメは続きを促しました。

「この馬、ライト付いてないんですけど」

 余りにも世界観ぶち壊しの発言ですが、運転は安全第一です。

 馬車は軽車両扱いなので、夜間の無点灯運転は罰則の対象になります。

 とうとうキレたナツメを宥めつつ、秋原が堀に渡したのは、

「……坑夫ですか僕は」

 ヘッドランプでした。

 ようやく準備が整い、馬車が動き出します。

 蹄の音がリズミカルに鳴り、それに付いて行く様に、馬車が引っ張られていきました。

 やはりまんざらでもないらしく、馬車の中で、アリスは一人胸の柔らかい感触を楽しんでいるのでした。



「……ふむ、これで俺となっちゃんの出番は終わりか」

「散々脱線しましたし、もう充分でしょう。全く、私に無理矢理こんな服を着せて……何処の需要ですか」

「その割には、なかなかノリノリだったと思うが」

「然う思うのなら、ご自由にどうぞ。私は否定しますけど」

「ならば、その服は回収しよう。クリーニングに出して、再利用するからな」

「え!? 呉れないんですか!?」

「ほう……不要ではないのか」

「あっ!? ち、違います! 貴方が想像している様な事は断じて在りません!

私は……えっと……何て言おう……あ、そうだ。……他人が此れを着るのが厭なんです。

私が嘗て着ていた服を、何処の誰かも知らない族が着るなんて、想像する丈で虫唾が走ります」

「…………ふっ」

「な、何ですかその眼は!? 違うと云っているのが解りませんか!?

可愛いから時々着てみたいとか、憧れの魔法少女に成りたいとか、一人ファッションショーで使いたいとか、そんな事は一切考えていませんから!

……だからさっきから何なんですか!? 証拠でも在るんですか!? こら、ま、待ちなさい!」



 アリスを乗せた馬車は、何事も無く城に到着しました。

 途中で豆腐屋の車と峠を攻め合ったりもしましたが、童話ではよくある事なので省略します。

 王族の住まう場所だけあって、その外観は、見る者を圧倒します。

 滅多に外を出歩かないアリスですから、尚更でした。

 一人で入るのは不安なので、ホリと一緒に入ろうと思ったのですが、

「実は、お城の駐車場が満車だったので、傍のスーパーの駐車場に留めたんです。

レシートがあれば駐車料金がタダになるそうなので、僕は買い物してきますね」

 ホリはスーパーに行ってしまったので、止むを得ず一人で入る事になりました。

 従者の厚遇に緊張しながら足を踏み入れたアリスは、再び驚く事になります。

 煌々と輝くシャンデリアに、敷き詰められた赤い絨毯の海。

 近づく事すら恐れ多い、職人の技と魂を感じるアンティークの数々。

 育ちの良さを感じさせる紳士淑女に、雰囲気に浮かれつつも鋭い眼光を持つ守衛の兵士達。

 何もかもが、贅の限りを尽くしていました。

「うわぁ……スゴい……」

 圧倒されて溜息を漏らしながら、アリスは城内を歩き回ります。

 見る物全てが威光を放ち、アリスの目に焼き付きました。

 その姿は明らかにお上りさんでしたが、そんな事は気にも留めません。

 舞踏会の会場に着いた時には、すっかり夢現に浸っていました。

 そんなアリスを目覚めさせたのは、荘厳且つ流麗なオーケストラ。

 はっと目を見開くと、広大なその部屋では、華々しい男女がひしめき合う様に、それでいてどこか規則的に踊っています。

 この中のどこかにアカリとユウもいるのでしょうが、とても見付けられません。

 暫く虜にされていたアリスですが、我に返り、人々の間を縫う様に歩き始めます。

 来てみたのは良いものの、何をどうすれば良いのか、さっぱり判りません。

 ナツメと秋原によって背と胸が大きくなり、綺麗なドレスを貰ったものの、このお城には綺麗な人がたくさんいます。

 何度か人にぶつかりながら、ひとまず部屋の隅に逃げた時には、もうへとへとになっていました。

「……やっぱり、場違いだったのかな。あはは……」

 その場に座り込み、自嘲気味にアリスは笑います。

 見た目だけ繕っても、振る舞いまでは真似出来なかったのです。

 熱が冷め、次第に自分に向けられた声が聞こえてきました。

 それは、不遜な哀れみや、卑劣な雑言ばかりでした。

 悔しさの余り、アリスは涙が溢れそうになります。

 言い返せない事実だからこそ、尚更でした。

 もう諦めて帰ろうかと、アリスが思ったその時……。

「大丈夫か?」

 一人の男性が、アリスに手を差し伸べました。

 燕尾服を身に纏い、歳は十代後半くらいでしょうか。

「え!? いや、あの、ボク……じゃなかった、私は別に、その」

 突然の事に戸惑いつつも、アリスはその手を掴みました。

「無理に取り繕わなくて良いよ、お上りさん」

「や、やっぱり判るんだ……」

 予想通りすぐに見抜かれてしまい、アリスは落ち込みます。

 やはり、自分は場違いな存在なのでしょうか。

「気にする事は無い。ここにいる奴等だって、初めから勝手を知ってた訳じゃないんだし」

 俯くアリスに、彼は優しく話しかけます。

 そして、立たせたアリスに再び手を差し出しました。

 その意図が読み取れず、アリスは首を傾げます。

 もしかして、手を貸した料金でもせびるのかと勘繰るのですが、

「良かったら、俺と踊らないか? せっかくだから教えてやるよ」

 気持ち良い程に外れてしまい、アリスは申し訳無い気持ちになりました。

 恥ずかしそうに顔を俯かせ、伸べられた手を掴みます。

 こうして、アリスは嬉し恥ずかし舞踏会デビューを果たすのでした。

藤原の配役は、多分誰でも予想出来たんじゃないでしょうかね。

本編とは関係無いとは言え、アリス大歓喜です。

配役の関係上、恐らく藤原が最もキャラ崩壊しておりますが、ご了承下さい。


……って、まだ名前出てないのに、何て事を書いてしまったのでしょう(汗

まあ、ここまで読み進めた方なら判るでしょうし、面倒なのでこのままで。

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