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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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藤原を我が物と思う望月の その三

「ふと、思ったのだが……」

 アリスが次の服に着替えている最中、蘇った秋原は呟く様に言った。

 猫アリスを抱きしめた余韻に浸っている真琴と、そろそろ帰りたくなってきた堀が、秋原の方を向く。

「……何故、アリス嬢は向こうで着替えておるのだ?」

 余りにも突飛な発言に、少しの間、教室が静まり返った。

「何故って……先輩がそう言ったんですけど」

「その通りだ、堀。故に、俺は己自身に問う」

 そう言って、秋原は机を思い切り叩いて立ち上がった。

 いきり立つ秋原に、真琴と堀は声を呑む。

「何故! 何故俺は、アリス嬢を見えない所で着替えさせたのだ!?

この手の小説において、白けない程度のお色気は必須!

着替えシーンは、その際たる物ではないか!

読者に萌えと冒険と興奮を提供するのが、我々の最たる役目。

少年誌すら乳首券を発行する昨今、基本中の基本を忘れ、エプロンや猫耳に現を抜かすとは……不覚!」

「つまり……望月さんに、ここで着替えて貰うという事ですか?」

 本気で後悔する秋原に、堀は若干引き気味に尋ねた。

 実行したら捕まるのは明白なので、堀としては否定して欲しいのだが。

「ふっ……ご名答だ。今日の貴様、なかなか目立っておるな」

「いえ、先輩程では」

 逃げ出したい衝動に駆られ、堀は頭を抱えた。

 藤原が居ない所為か、今日は全員が自由過ぎる。

 藤原が将棋部の部長に座する理由が、何となく判った堀であった。

「よし、アリス嬢をここに移動させるとしよう。

読者サービスになる上、我々も視姦を堪能出来る……まさに一石二鳥だ」

「ほ、本気ですか先輩!? 駄目ですよ、捕まりますよ!」

 教室を出ようとする秋原を、堀は慌てて引き止めた。

 目立つ為に、二人にある程度合わせていたが、これは流石にやり過ぎだ。

 このままでは、秋原を主犯に全員が捕まってしまう。

 質素ながらも、平凡な毎日の為に、堀は必死だった。

「止めてくれるな、堀。愛とは躊躇わない事なのだ。これこそが俺の愛!」

「宇宙刑事みたいな事言わないで下さい! 捕まる側ですよ!?」

「案ずる事はない。コメディなら精々ボコボコにされる程度であろう」

「それが嫌だって言ってるんです!」

「解せん奴だな。幼女の着替えシーンに遭遇して負った名誉の傷であれば、末代まで誇る事が出来るであろう」

「駄目だこの人……早く何とかしないと。新谷さん、女性として何か言って下さい!」

 収拾がつかないので、堀は真琴に呼びかける。

 ロリショタと正義をこよなく愛する真琴なら、秋原の悪行を無視出来ないだろう。

 その上、秋原曰く、真琴はハイスペックな後輩キャラ。

 そんな彼女の言葉なら、秋原にも届くかも知れない。

「秋原先輩! それには異議を申し立てるっス!」

 反対の意思を表明する真琴に、堀は安堵した。

 これで二対一。多数決では必勝である。

 その上、真琴を擁したのなら、秋原も引き下がるを得ない筈。

 やや特異な性癖を持つ真琴故に、秋原側に付くのではと懸念したが、どうやら杞憂だったらしい。

「衣擦れの音に胸ときめかせ、見えそうで見えないアングルに興奮するのが生着替えの醍醐味っス。

もろに見えたら台無しっスよ! それなら、DVDや愛知版や盗撮で十分っス!」

「……まあ、予想はしてましたけどね」

 こうして堀の期待は、数秒と経たずに裏切られてしまった。

 正義だ何だと普段から言っておいて、盗撮とはどういう事なのだろうか。

 これも、割といつもの事なので、今更殊更に驚く事もないのだが。

「ふむ、一理あるな。ならば、擦りガラスを用意しよう。

真琴嬢は、擦りガラスを挟んで見るが良い。我々は直に見る」

「そういう問題じゃないですから! と言うより、『我々』って僕込みですか!?」

 案の定巻き込もうとする秋原に、堀は懸命にツッコむ。

 藤原の様な手練のものではなかったが、それ故に熱だけは勝っていた。

「私、どちらかと言うとシルエット派っス」

「だから捕まりますってぇええええええええええええッ!」

 かくして、後の世のツッコミを担う若き芽は、今日も戦うのである。



「えっと……とりあえず、堀君にお礼言った方が良いのかな?」

 次の服に着替えたアリスは、教室に戻るや否や、力尽きた堀を目の当たりにした。

 空白の時間に何が起きたのかは知らないが、何食わぬ顔でいる二人が何かしようとしていた事は充分察せる。

 証拠が無いので問い詰めることが出来ないのが残念だが、より一層の警戒を警戒を心掛ける事にしよう。

「さあ、アリス嬢! その無粋なタオルを脱ぎ捨て、幼い肢体を解き放つのだ!」

「うぅ……」

 とかくテンションの高い秋原に、アリスはそれを躊躇う。

 校舎内では余りに恥ずかしい格好なので、タオルを羽織って隠しているのだ。

 タオル一枚という格好も充分恥ずかしいのだが、そこまで頭が回るアリスではない。

 あくまで立場の差があるだけで、ここにいる四人の中に、生粋のツッコミ役は一人としていないのだ。

 極力タオルを脱ぎたくないアリスだが、秋原と真琴が向ける期待の眼差しが突き刺さる。

 それは決して健全なものではない筈なのだが、余りにも直球なのでたじろいでしまう。

 何よりこのままの姿でいれば、もしかして下には何も着ていないのではと妄想されそうで恐ろしい。

 やむを得ず、アリスは羽織っていたタオルを脱ぎ捨てた。

 そうしてアリスが晒したのは、幼いスクール水着姿。

 ダブルフロントが印象的な旧型で、色はオーソドックスな紺だ。

 胸には、『ありす』と書かれたゼッケンが刺繍されている。

 肩や尻の食い込み具合も絶妙で、その姿そのものが芸術の域に達していた。

 脇に鎖骨に生足と、様々なフェティシズムに応える姿が、そこにある。

 夕方の日差しがアリスを照らし、さながら放課後のプールサイドの様な演出だった。

「くぁ――――――! まさか、望月さんのスク水が拝めるなんて! 私、感動と興奮で涙と鼻血が止まらないっス!」

「良い、実に良いぞ、アリス嬢。やはりスク水はつるぺたにこそ似合うものだな。

水着イベントは、それだけでアニメ一本になる程のテコ入れ要員だ。

苦情が来ない程度の健全なエロスで、主人公と視聴者の心と股間を鷲掴みにする。

これが出来ずして、ヒロインを自負する事は出来まい」

 褒めちぎりながら、秋原はアリスを撮影し始めた。

 負けじと、真琴も鼻血を抑えながらカメラを構える。

「水着は良いとして……何でスク水なのかな?」

 身体を腕で隠しながら、アリスは尋ねた。

 水着の出番といえば、やはり夏の海だろう。

 情欲を煽る砂浜、出会いを演出する海、悪戯な太陽、二人の距離を縮める波、そして恋は花火の様に……。

 そんな一夏のアバンチュールも、スクール水着では台無しである。

 コスプレ物のAVではないのだから、もっと可愛い水着がある筈だ。

「アリス嬢、人には得手不得手というものがある。仮に、アリス嬢が普通の水着を着たとしよう。

しかし、アリス嬢には強調する胸が無い。魅せるウエストラインも無い。

つるぺた幼児体型でそんな物を着たところで、自虐以外の何物でも」

「うわぁああああああああああああああああん!」

 秋原が言い切る前に、アリスは教室を飛び出して行ってしまった。

 どうやら、突き付けられた現実が、相当堪えた様だ。

 水着姿を校内中に晒すのだから、泣きっ面に蜂である。

「ふむ……『つるぺたでビキニも、それはそれでギャップがあって萌える』と続けるつもりだったのだが」

 何のフォローにもなっていないが、堀が力尽きている今、誰もツッコむ事はない。

「乙女心は複雑っスからね。他人の話を最後まで聞けない年頃っスよ。

はぁ……水に濡らせたり、食い込みを直させたり、肩紐をずらしたりしたかったっス……」

 心底残念そうに言い、真琴は溜息を吐いた。

 脱がす事を全く考えていないのが、何とも粋である。

 相手の同意を一切得ていないものの、無理矢理もなかなか乙なものだ。

「まあ、そうしけた顔をするでない。これで、真琴嬢のたっての願いが叶ったのだからな」

「…………? 私、何かお願いしたっスか?」

 秋原の言葉に、真琴は首を傾げる。

「なんと、忘れたと言うのか。真琴嬢に頼まれて、この時までスク水を預かっておったのだぞ」

「――あ! お、思い出したっス……あのスク水は……!」

 真琴の身体が、わなわなと震える。

 胸の奥から湧き出る興奮が、全身を満たしている様だ。

 そして、秋原がそれに着火する。

「そう……アリス嬢が着たスク水は、かつて真琴嬢が着用していた物だ」

「ふんぬはぁあああああああああああああああああああああッ!」

 歓喜の咆哮が、教室の隔たりをも越えて響き渡った。

 熱を帯びたあらゆる感情が溢れ出す余り、言葉にすらならない様だ。

 全てを解き放ち、真琴は放心する。

 それは、さながら真っ白に燃え尽きたボクサーの様であった。

「おお、真琴嬢よ。萌え死んでしまうとは情けない。だが、その気持ち、俺は理解して余りある。

かつて自分が着ていた服を、愛らしい幼女が着ている……興奮して当然だ。

しかも、水着は直に身に着ける物。これはある意味、間接キスに近い。

間接キス……何と背徳的で甘酸っぱい響きであろうか。

経験の無い学生にとって、これ程胸躍るものは無かろう。

俺が小学生の頃など、月に二回は女子の縦笛が盗まれたものだ」

「それって、要するに無法地帯じゃないんですか?」

 若き日の回想に浸る秋原に、真琴と入れ替わる様に復活した堀が問う。

 果たしてその回数に、秋原自身は含まれているのだろうか。

 そんな事を堀が考えている最中、廊下から物音がする。

 三人が音のした方を向くと、そこにいたのは、

「…………」

 呆然と立ち竦んでいるアリスだった。

 恐らく、戻ってきたところで話が聞こえたのだろう。

 次第に血の気が引き、身体が震えているのが判る。

 水着一枚で寒いから、ではないらしい。

 今すぐにでも脱ぎ捨てたいという防衛本能と、ここで脱ぐ訳にはいかないという理性がせめぎ合っている様だ。

 拮抗状態だったそれらが、ふとした拍子に爆発する。

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああん!」

 悲鳴にも似た声を上げ、アリスは隣の教室に飛び込んでいった。

「私のお下がりを嫌がるなんて……もしかして、昔はお下がりばかり着せられてた、とかっスかね?」

「よもや、実は姉がいるなどという後付け設定ではあるまいな……余りにも強引が過ぎるぞ。

……否。もしかすると、敢えて妹かも知れん。それも、アリス嬢より発育の良い、な。

姉より発育の良い妹は、この手の業界では常套手段。生物学など、元より眼中に無い。

あらゆる方面で妹より小さい事を気にする姉……うむ、なかなかどうして萌えるな。

妹のお下がりを着せられるという屈辱を味わう様も、実に微笑ましい。

巨乳分が若干欠乏しているこの小説に於いては、貴重な人材となるやも知れんな」

「それ以前の問題だと思うんですけど……」

 加害者の自覚が皆無な二人に、堀はそれ以上何も言えなかった。

 馬に念仏が理解出来ない様に、この二人にモラルは理解出来ないのだ。

小説家になろうユーザーよ、私は帰ってきた!

……という事で、半年ぶりの更新になります。空きすぎて申し訳無いです。

『ハジメテノオト』の連載を始めたので、尚更遅くなりました。

なかなか速くは書けませんが、その時に出来うる最大限の物を書けるように努めておりますので、これからも宜しくお願いします。

あと、『ハジメテノオト』の方も宜しくお願いします、とちゃっかり宣伝。

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