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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
40/68

渡る世間は夢ばかり その四

「ふーん……そうだったんだ」

 話を聞いていたアリスが、冷然とした声で呟く。

「確かに、血も涙も無い機械でないと、他人の恋人奪うなんてマネ出来る訳無いもんね」

 そう言うアリスこそ『血も涙も無い』発言をしている事に、何故気付かないのだろうか。

 余りにも冷たいアリスに、藤原は胸が痛む。

 普段のアリスなら、こんな事は絶対に言わない。

 だが、その責任の一端は、どうやら自分にあるらしい。

 それも、当然なのだろう。

 妊娠の件はもちろん、妹の様に接してきた自分が、全く影響していないなんて言い切れない。

 そう思うと、怒りという感情は浮かばなかった。

 自責と沈痛の思いが、身体のどこか奥に積もるばかりである。

「人外相手に、この格好はちょっと不利だね……」

 アリスは、斧を高く掲げた。

 彼女の周囲に魔力が充満し、空気がピリピリと震える。

「シニカル、マジカル、エコロジカル!」

 アリスが唱えると同時に、彼女を中心に凄まじい発光が起こる。

 目を閉じる程度ではどうにもならない閃光に、藤原は視界が真っ白になる。

 ようやく見える様になった時には、既にアリスは違う姿になっていた。

 黒一色の服装は、とても露出度が高い。

 服は胸しか隠しておらず、スカートは太股を半分も隠していない。

 それでも色気を感じないのは、アリスの子供体型だからこそであろう。

 その割に、手袋は腕まで覆い、ニーソックスは膝よりも上だ。

 手に持っていた斧は、柄が伸びて彼女の身長と同じ長さになる。

 その先端では、黒い宝石が鈍い輝きを放っていた。

 ヒールの高い靴だが、彼女の身長では焼け石に水だ。

 背中から生えた大きな翼は、底無しの闇を湛えていた。

「ふむ、この様な姿も似合うのだな。

研究の為にも、是非一度、徹底的にコスプレさせてみたいものだ」

 こんな事を言っているが、秋原はあくまでも真面目である。

 いつか実現してしまいそうな気がするが、それは別の話。

「こ……これは……? ボクの服はこんなのじゃ……」

 変身した当人が、誰よりも驚いていた。

 どうやら、本人にも覚えのない姿になってしまったらしい。

 そんなアリスに、明が言う。

「それが、今の貴女に最も相応しいという事でしょう。

己の願望の為に暴力を振るうのなら、悪魔の姿が相応なのでは?」

「くっくっく……なるほどね」

 アリスは、不敵な笑みを浮かべた。

「だったら悪魔で良いよ……。悪魔らしいやり方でいかせて貰うからさ!」

 半ば開き直り気味に叫び、アリスは斧を構える。

 先端の宝石を明に向けると、そこから無数の黒い弾が放たれた。

 明は藤原を下がらせると、再び障壁を展開し、どうにかそれを凌いだ。

 次の瞬間には、アリスが斧を振り被って飛んでくる。

 明は左腕を剣に変え、それを受け止めた。

 火花が散り、鍔迫り合いの緊迫感に満ちた音がする。

 結果は、引き分けだった。

 アリスは数メートル上空へ下がり、明も三歩後退する。

 左腕を人間のそれに戻し、明はスカートをたくし上げた。

 そこから現れる、大量の小型ミサイル。

 それらは、それぞれ違う軌道を描きつつ、標的はただ一人だった。

「くっ……!」

 アリスは舌打ちをすると、斧を大きく振った。

 カーテンの様な黒い障壁が現れ、全てのミサイルを受け止める。

 続け様にミサイルが爆発し、爆音が耳を劈いた。

 煙も収まらないうちに、明は右手の銃を構える。

「スコープ、セット」

 そう言って明が掛けたのは、フレームの太い、レンズの大きな眼鏡。

 ナウなヤングも一瞬で勉強が出来そうに見えてしまう、いわゆる『真面目眼鏡』だ。

 細かいところにも盛り込まれている萌え要素に、秋原も大満足の様子である。

 そして、明は狙いを定め、一撃を放つ。

 乾いた破裂音と同時に、

「うわあぁっ!?」

 アリスの悲鳴が聞こえた。

 空中をふらふら漂いながら、アスファルトに不時着する。

 見ると、翼に大きな穴が開いていた。

 そんなアリスに、明は容赦無く銃身を向ける。

「……もう止めましょう、望月さん。身重の身体なのでしょう?」

 アリスはゆっくりと立ち上がり、攻撃的な目を返した。

「だったら、二対一でも構わないって事だね。本当に良いのかな?

後ろの二人を守る為に、殆ど動かなかったんでしょ?」

「……貴女の理論で言えば、三対二です」

 そう言って、明は再び撃つ。

 今度は、アリスのツインテールの片方を吹き飛ばした。

 纏められていた髪が宙を舞い、バラバラになって落ちる。

「……三発目は、本当に当てなければなりません。

どうか、投降して下さい。私は、貴女を傷付けたくは……」 

 明は、出来る限り丸く収めようとしていた。

 二発をわざと外した事は、誰の目にも明らかだ。

 恐らく三発目も、何だかんだで急所には当てないだろう。

 それが、この状況下での精一杯の優しさなのだ。

 アリスが武器を降してくれる事を、藤原は心から祈った。

 藤原もまた、明と同じ事を考えていたからだ。

「アカリン……キミは本当に……本当に……」

 アリスは、俯いて身体を震わせていた。

 そして、次に顔を上げたその時、

「救い様の無いバカ女だよ!」

 説得が無駄である事が判った。

 止むを得ず、明は銃身を急所から外そうとする。

 足や手を狙えば、充分戦闘力は奪えるだろう。

 だが、その時には既に、何もかもが手遅れだった。

「!?」

 吹き飛ばしたアリスの髪の一本一本が、明に向かって飛んでくる。

 糸の様に細いそれらは、見る見るうちに太くなり、最後には蛇になった。

 数え切れない程の蛇が、明の脚に、腕に、首に、全身にまとわりつく。

 襟や袖、スカートから、メイド服の内側にも入っていった。

「きゃああああああああああああああっ!?」

 流石の明も、堪らず悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。

 銃口にも蛇は侵入し、明は完全に無力と化す。

「あ……や、だ、だめ……そこは……はぁん……くぅ……あぁっ!」

 蠢く蛇の群に、明は声にもならない声を上げる。

 藤原は慌てて駆け寄ろうとするが、

「こ、来ないで……下さい……!」

 明に静止され、退かざるを得なかった。

 そんな明を見下しながら、アリスは彼女に歩み寄った。

 その表情は、子供の様に無邪気なそれだった。

「さて、どーしよっかな〜。服破いちゃおうかな?

でも、メイド服は破いちゃいけないらしいし……う〜ん……」

 好きなお菓子を一つだけ選ばされる子供の様な顔で、アリスは考え込む。

 無邪気である事がいかに残酷であるかを、藤原は思い知らされた。

「望月さん……ひゃんっ……や、止め……うわぁあ!?」

「あははは。やっぱりそんな声も出せるんだね。

純潔キャラ演じてるけど、エッチな事ばっかり考えてるから、体もそんなにエロくなったんでしょ?

それとも、作った人の趣味かな? 巨乳萌えだったのかも」

 アリスの言葉責めに、明は力無く首を横に振った。

 その顔は羞恥心で赤く染め上げられ、目尻には涙を湛えている。

 明の痴態に、アリスは『無邪気』に嗤った。

「きーめたっ。お兄ちゃんを毒した罰として、そのやらしい身体を徹底的に嬲ってあげる。

お前が爬虫類相手に感じちゃう様なエッチな女だって事、お兄ちゃんに教えてあげるんだ。

で、『こんな目に遭うなら生まれるんじゃなかった。死にたいくらい恥ずかしい』って思う頃に殺してあげる」

 アリスの無慈悲な裁きに、明は声も出ない。

 それすらも、アリスは楽しんでいる様だった。

「じゃあ、こんなのはどうかな? こっちは良心的だよ。

『私は、他人の恋人を平気で奪ってしまう、盛りのついた汚いメス豚です。

今まで生きてきてすみません。もう二度と生まれません』って謝るだけ。

そしたら、ご褒美に今すぐ殺してあげるよ。ね、良心的でしょ?

……さ、選ぶ権利くらいは認めてあげるから、早く選んじゃってよ。

言ったでしょ? 『悪魔らしいやり方でいかせて貰う』って。

うふふふふふ……あははははははは。

あはははははははははははははははははははははははははははは」

 明の顔に、悔しさの表情が浮かぶ。

 思うだけで、意思通りに動く事すら敵わないが。

 しかし、それすらもアリスは気に入らない様だった。

 彼女の表情に、またしても狂気が満ちていく。

「何かな、その反抗的な表情は? 言いたい事があるなら言えば?

……ボクの機嫌を損ねない範囲でさ!」

「あっ……や、や……いやぁああああああああああああああッ!」

 明は悲鳴を上げ、背中を弓の様に反らせる。

 一体、メイド服の内側で何があったのだろうか。

 大粒の涙を流す明を見て、アリスは嗤いが止まらない。

 出せる限りの声を絞り尽し、明はぐったりと脱力した。

 その瞳には感情すら映らず、どこかを虚ろげに見ている。

「自分の立場、解ってるのかな?

僕が本気で怒ったら、こんな小説、あっという間に発禁に出来るんだから。

楽に死ねるうちに、さっさと死んだ方が良いと思うよ。僕が優しくしてあげてるうちに、さ」

 アリスの言葉に反応する余力すら、明には残されていなかった。

 蛇がどこを伝おうが、虚ろな目は何も映さない。

 偶にどこかが反射的に動く事から、辛うじて生きている事が窺える。

「……ねえ、聞いてる? まだ死んでないんでしょ?

この程度で満足できる訳無いじゃないか。

本当は、もっともっと甚振って、苦しませて、辱めてやりたいんだよ。

だから、さっさと起きなよ……起きてよ……起きろってば!」

 そう叫ぶと、アリスは踵で明の左手を踏み躙る。

 それでも起きないので、斧の柄で頭を突付いた。

 やはり、動き出す気配は無い。

 いよいよ業を煮やしたアリスは、明の腹を思い切り踏み付けた。

「がッ……あぁ……くぅ……」

 明は、断末魔にも似た呻き声を上げる。

 ずっと不機嫌だったアリスの表情に、ようやく無邪気な笑顔が戻った。

「やっぱり死んだフリしてたんだね。最後まで汚い卑怯者なんだから。

……これで、少しは解ったかな? 恋人を奪われる苦しみっていうのが。

信じられないくらいの涙が、いつまでも止まらないんだよ。

刺されてるみたいに胸が痛くて、絶望感で頭が真っ白になっちゃって……」

 そこで、アリスは明が気を失っている事に気付く。

 アリスは憎しみの限りを瞳に込め、明を見下した。

 聞こえていないであろう明に、冷たい声で告げる。

「念の為言っとくけど、ボクが満足しても終わりじゃないよ。

お腹の中のこの子だって、きっとお前を甚振ってやりたいハズだから。

二人分の罰を、死ぬまで……ううん、死んでも受け続けて貰うね。

多分、元の形すら判らなくなっちゃうと思うよ。

くっくっくっく……あははははははははははははははははははははは」



「離せよ秋原! 放っておける訳無いだろ!」

 藤原は、秋原の制止を振り切ろうと必死になっていた。

 明に下がるように言われたものの、これはとても見ていられない。

 明が傷付けられるのも、アリスが傷付けるのも。

 こんな事が、まかり通って良いものか。

 一方、秋原は冷静だった。

 藤原から見れば、あるいは楽観的だったのかも知れない。

「まあ慌てるな、藤原。魔法少女に触手はつきものだからな。

アリス嬢ではなく明さんが受けているのが少々引っかかるが、エロければ正義だ。

荒んだ現代社会のオアシス、もう暫し楽しみたいと思わんか?」

「思わねえよ!」

 藤原は秋原の手を振り解くと、二人の方へ向かった。

 だが、一歩目でその足は止まる。

 秋原が、藤原の服の襟を掴んだからだ。

 グイと引き戻され、百八十度回される。

 そこには、いつになく真剣な秋原が居た。

 いつにない剣幕に、藤原は言葉も出ない。

「素人が図に乗るなよ。貴様に一体何が出来る?

小悪魔魔法少女と最終兵器メイドの真剣勝負にしゃしゃり出て、無事で済むと思うのか?

だから、明さんは貴様を拒んだのだ。それを無駄にする気か!?」

「…………」

 秋原の言葉は、藤原にとって残酷な程に的確だった。

 確かに、別段特殊な能力を持っていない自分が、何か出来る訳が無い。

 自分が何か出来るのであれば、既に秋原が動いているだろう。

 それでも彼が動かないのは、先ほどの大量出血と、為す術が無いからであろう。

 いかに秋原が鉄扇柔術の達人と言えど、この状況は無理がある。

 わざわざ足を引っ張るくらいなら、大人しくしておいた方が良い。

 秋原は、彼なりにベストを尽くしていたのだ。

 感情的になっていた自分を、藤原は悔やむ。

 だが、それでも藤原は動かずにはいられなかった。

 夕も真琴も巻き込んで、事態は確実に大きくなっている。

 当事者である自分が、明やアリスを差し置いて、身の安全だけを考えていて良いのだろうか。

 このままでは、明は確実にアリスに殺される。

 ……『殺される』という表現が適切か否かは定かでないが。

 そして、アリスは『人を殺した』という事実を背負うことになる。

 身籠った子を産めば、その子は『人を殺した母親の子供』という烙印を押されるだろう。

 これでは、誰一人として幸せになれはしない。

 全員が、重過ぎる何かを一生背負わされるだけだ。

 秋原の言葉は、恐らく間違ってはいないだろう。

 しかし、何もかも理屈通りに動ける程、器用に立ち振る舞えない時もある。

 藤原は、秋原の目を見据えた。

 意外な反応に、秋原は少し驚いた様だった。

「確かに、俺が出ても意味無いかも知れない。

けど、事の発端は俺なんだろ? 俺が出ないでどうするんだよ。

俺は、明さんやアリスが傷つけ合ってるのを、黙って見ていたくない。

俺にとっては、二人とも……大事な存在なんだよ」

 秋原に、自分の思いの全てをぶつける。

 秋原は眉一つ動かさず、藤原を見据え返した。

 少しの間、睨み合う二人。

 そして、秋原が小さく笑った。

「ふっ……認めたくないものだな、若さ故の過ちというものは」

 秋原が手を離し、藤原は自由になる。

「秋原……」

「しかし、ついに貴様もハーレムエンドを選ぶ様になったか」

「……何でそうなるんだよ」

 シリアスな雰囲気が続いていたところへの不意打ちに、藤原は思わずツッコんだ。

「ふっ、恥じる事はないぞ、藤原。巨乳メイドが欲しい一方、つるぺた幼女も欲しい。

漢として、実に自然な欲求だ。否、『志』と称しても問題無かろう。

この手の話の主人公は、十中八九優柔不断。

言い換えれば、今までにそこら中でフラグを立てている筈だ。

貴様の頑張り次第では、両取りも不可能ではあるまい」

「あのな……」

 滅茶苦茶な事を言い出す秋原に、藤原は溜息を吐く。

 だが、秋原の真面目な部分を、藤原はちゃんと知っている。

 美少女について熱く語る一方で、その目は何手も先を見据えているのだ。

 長い付き合いだから判る、表面には現れない部分。

 それを知っているから、藤原は秋原を心のどこかで信用してきた。

 そんな彼の反対を押し切ったのだから、いい加減な行動は出来ない。

「じゃ、行ってくる」

 軽く告げると、藤原は二人の方へと向かう。

「待て、藤原」

「……今度は何だ?」

「今の貴様……そこそこ良い漢だぞ」

「それって褒めてるのかよ……」

 藤原は苦笑すると、今度こそ二人のもとへと向かう。

 彼に聞こえないように、秋原は漏らした。

「これで、奴の死亡フラグが立ったか……。次は俺の時代だな」

渡夢編とかけて、虫刺されの痒みととく。

その心は。

……かいてもかいても終わらない。


アリスのSな言動が楽しくて楽しくて。

終わらせたくないな、とすら思うのですが、どっちが本編か判らなくなるので、やはり終わらせなければなりませんね。

次こそ、次の投稿でこそ、きっと終わります。


にしても、これで四十回目の投稿なんですね。

ここまで続いたのも、偏に私の努力の賜物です。読者なんて関係無いですね。

……嘘ですごめんなさい。読者の支えがあってこそです。

これからも一層の精進を心がけますので、よろしくお願いします。

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