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暑さも寒さも彼岸まで  作者: ミスタ〜forest
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恐らくは仁義無き戦い その三

 昼下がりの公園。

 遠くの方から、子供達の声が聞こえる。

 ボクは、今日も隅の方で、一人佇んでいた。

 理由は単純で、人と関わるのが怖いから。

 嘘を吐き続ける事が怖かったから。

 このままで良かった。

 今までに、何回かだけ友達が出来た事もあったけど、

『秘密』を隠したままの付き合いは、とても後ろめたかった。

 夢を見る度に、嘘を吐いていると言う背徳感に苛まれ、

とうとう眠る事すらも怖くなり、心身共にボロボロになった。

 その後何をしてしまったのか覚えてないけれど、

いつの間にか縁が切れていた事だけは確かだ。

 自分だけならまだしも、他人まで傷付けてしまう嘘を吐いてしまうくらいなら、

始めから友達なんて居ない方が良い。

 だから、ボクは独りのままで良かった。


「こんな場所で、何してるんだ?」

 それは、突然の出来事だった。

 ボクと同い年くらいの男の子が、ボクに声を掛けてきたのだ。

「こっち来なよ。一人くらい増えたって大丈夫だから」

「い、いいよボクは……」

 突然の事に、ボクはしどろもどろになる。

 どうして、ボクなんかに声を掛けるのだろう?

 ボクに、必要とされる価値なんて無いのに。

 生きる理由も解らないボクに、生きる理由なんて無いのに。

「じゃあ、一人で何してるんだよ?」

「えっ……そ、それは……」

 更に質問され、返答に困っていた時、不意に微風が吹いた。

 撫でる様に優しく、抱く様に暖かい風だった。

 余りの心地良さに、ボクは我を忘れ、風に身を委ねる。

 目を閉じれば、すぐにでも眠れてしまいそうな程だった。

 風は、とても正直だ。感情の通りに、微風になったり、嵐になったりするから。

 だから、ボクは風が好きだった。

「風が……好きなのか?」

 彼の声が聞こえ、ボクは我に返る。

「ど、どうして判るの!?」

「さっきのを見れば、誰だって判るよ。

確かに、結構気持ち良いよな。遊んでると判んないけど」

 そう言ってから少し間を置き、更に彼は続ける。

「でも、偶には皆と……って言うのも良いんじゃないか?

いつも一人だけだと、いざって時に困ると思うぞ」

 彼はそう言って、ボクに手を差し伸べる。

 本当は、すぐにでもその手に縋りたかった。

 それがボクを孤独から救い出してくれるなら。

 ボクは、すっと独りだった。だから、判る。

 孤独に勝る恐怖なんて、そうそうあるものではないと。

 何か叫んでも、何も返ってこない。

 何か感じても、共感も反感もない。

 何か聞こえても、応える権利が無い。

 存在に気付いてもらえない恐怖を、ずっと感じてきたから。

 彼の手も、言葉も、何もかもが眩しくて、ボクにはとても直視出来ない。

 だから、直接彼の手に触れようと手を伸ばす。

 ――お前は、また嘘を吐こうとしている。

 ――お前は、また嘘を吐こうとしている。

 ――お前は、また嘘を吐こうとしている。

 ――お前は、また嘘を吐こうとしている。

 ――お前は、また嘘を吐こうとしている。

 ボクの頭の中で、汗が噴き出る程に冷たい言葉が、乱反射する様に繰り返された。

 耐えられなくて、ボクは出しかけた手を引っ込める。

「い、嫌だよ! ボクは……」

 ボクには、勇気が無かった。

 孤独から這い出る勇気も、輪に加わる勇気も無かった。

 そして何より、『秘密』を隠し通す勇気が無かった。

「ボクは……何?」

 それでも、彼は怒りも呆れもせず、ボクの話を最後まで聞こうとする。

「ボクは……秘密があるんだよ。

絶対に誰にも言っちゃいけない秘密なんだ。

だから、ボクは秘密を隠したままキミ達と友達にならなきゃいけない。

キミ達に、ずっと嘘を吐かなきゃならないんだ。

そんなの嫌だよ……。だから、ボクはこのままで……」

 嘘を吐くと、虚しい。嘘を吐かれると、悲しい。

 『嘘』は、お互いを傷付けてしまう。

 だから、ボクはこのまま嘘を吐く人が居ないままでいたい。

 今まで、誰にも言った事が無い本音を、初めて彼に話した。

「……別に、良いんじゃないか?」

「えっ……?」

 でも、彼は事も無げに言った。

「誰だって、人に知られたくない事の一つや二つくらいあるさ。

それを隠したまま人と付き合うって、そんなに悪い事かな?」

「…………」

 初めてだった。ここまで堂々と、嘘を吐く事を許された事は。

「でも……怖いよ……」

「確かに、今までずっと一人だったなら、おいそれとは無理だと思う。

けど、そのまま独りで居る訳にはいかないだろう?」

「…………」

「まずは、俺と友達になろう、な?」

「……友……達……」

 ボクは、繰り返す様に言った。

 ずっと欲しかった言葉を。

 ずっと恐れていた言葉を。

 今まで諦めていた言葉を。

「でも、ボクはもう、嘘を吐いた背徳感に苛まれる夢を見たくないんだよ……」

 『秘密』を隠したまま友達を作った日から、ボクの悪夢は始まった。

 あの恐怖をもう一度味わうなんて、ボクには耐えられない。

「夢は、その人の心を表してるって聞いた事がある。

君がそうやって、秘密を持つ事を極端に嫌っているからじゃないかな?

そうじゃないとしたら、俺に出来る限りの事はするからさ。友達として、当然だろう?」

 ボクが感じた事の無い感覚が、彼の言葉には溢れている。

 寒気がするくらい温かくて、近付き難いくらい眩しくて。

「思っている程難しい事じゃないんだぞ?

俺が友達になりたいと思って、君が友達になりたいと思えば、

その時点で二人は立派な友達なんだ。だから、あとは君次第だ」

「…………」

 彼の言葉は、ボクが今まで抱いていた不安を、次々と薙ぎ払ってくれた。

 一言一言が温かくて、優しくて、頼もしくて。

 彼と一緒なら、ボクも頑張れるかも知れない。

 彼ならば、ボクを必要とし、必要とされるかも知れない。

 あとは、ボクが勇気を出して、一歩踏み出せば……。

 だから、ボクは覚悟を決めた。

「ぼ、ボクと……ボクと……と、友達に……な……て……下さい……!」

「あぁ、喜んで」

 こうして、ボクと彼は友達になった。

 友情の証にと握手を求められ、ボクは彼の手を握る。

 家族以外の人から初めて感じた、人の温もり。

 人は、ボクが思っていたよりも、ずっと温かかった。

 ボクの存在意義は、きっとここにあるのだ。

 そして、その事を教えてくれた彼に、ボクは人生の全てを捧げても良いと思う。

 彼が居なければ、ボクは一生生きる意味を見出せずにいたのだから。

「そう言えば、まだ名前聞いてなかったな。俺は藤原光。君は?」

「ぼ、ボクは……」

 二人の間を、微風が通り抜ける。

見た通り、アリスの過去話です。

長かった『仁義無き戦い』も、次でラスト。

気合い入れて頑張ります。

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