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相棒

中近東 国境紛争




戦場となった砂漠。


国境が引かれているこの地点は激戦地となっている。


黄色い砂は誰かが流した血によって重く湿り、照らし付ける日光によって屍は腐っていく。


急拵えの塹壕に飛び込んだ一人の人影。


手には紛争地帯には珍しいM4カービンを持ち、砂漠地帯用迷彩色の防弾ベストと同色の戦闘服そしてカバーを付けた鉄帽を着用している。


「ハァハァ…マズいな、こりゃ…」


呟いた彼は傭兵、名前はオルソン・ピアース。

この紛争では軍曹待遇となっている。


先程まで最前線で敵と砲火を交えていたのだが、所属する小隊がほぼ壊滅の浮き目に合い、一時撤退を余儀なくさせられたのだ。


激戦を物語るように彼の戦闘服とヘルメットカバーの布は所々が破れ、戦闘の激しさが垣間見える。


そんな状態を意に返さぬ様に彼は腰に巻いてある弾帯に入っている弾倉の数を確認している。


「…チッ…」


舌打ちする所を見ると、手持ちの残弾は少ないようだ。


取りあえず、興奮状態を収める為に彼はポケットから愛飲のタバコを一本引き抜き火を点けた。


戦場で敵に見付かる様な行為はご法度だが、無駄な興奮も自殺行為に繋がる為のやむを得ない処置だ。



不意に最前線側から何者かが駆けて来る足音がオルソンの耳を打った。


傍らに置いてあった小銃を構える暇もなく、刹那の瞬間に何者かが塹壕に飛び込んで来る。


慌てて銃を構えると飛び込んで来た人影は塹壕内で受け身を取るように転がり、態勢を立て直すとオルソンに手に持っていたAK-47を突き付けた。


塹壕内で突き付けられる、M4とAK-47。

互いに緊張が走るが、オルソンは人影の恰好を確認するなり銃を下ろす。


その人影もオルソンの恰好に緊張を解いて銃を下げた。


「…敵兵じゃねぇな」


「そっちも」


「俺は、第四歩兵小隊のピアース軍曹だ。貴様は?」


「…俺は、第二機甲大隊所属のローランド軍曹」


「壊滅した?」


「そうだ…」


第二機甲大隊は最前線にて敵軍と戦車戦を繰り広げたが、奮闘の甲斐なく壊滅したのだ。


オルソンは、その生き残りがいた事に若干の驚きを覚えた。


「貴様以外に生き残りは?」


「何人かはいると思うが…正確には」


オルソンは頷くと小銃を抱えて塹壕の壁に背中を預け座った。

それに倣うようにローランドと名乗った若い軍曹も隣に座り込む。


「…なぁローランド、つったか?」


「あぁ…」


「お前、日本人だろ?」


「何故、そう思う?」


質問に質問を返すローランドに視線を向けたオルソンは彼の顔を覗き込む。


「ここいらに肌が黄色い奴はいねぇからな」


「なるほど…。確かに“元”日本人だ」


「なんで、戦場なんかに?」


オルソンはわざわざ“元”を付ける事に疑問を感じたが、気にしないようにして先を促す。


「傭兵…だからな。アンタだってそうだろ、アメリカン?」


「なんでそう思う?」


「英語に訛りがある。それに、中近東にそんな名前の奴はいねぇ」


中々鋭い奴だ、と思いオルソンは苦笑した。


大まかにだが、英語はイギリス英語とアメリカ英語に分けられる。

単語や意味、アクセントの違いから何処の出身かは大体だが判断できる。

だが、それを判断できるのはネイティヴに限られるのだ。


かなり勉強したか話し慣れている奴だとオルソンは判断した。


「原隊も出身も違うが、協力するしかなさそうだな?」


「あぁ…」


そう言い合うと彼等は小銃に新たな弾倉を叩き込んだ。


彼等の耳を打ったのは多数の足音。

耳を澄ませれば、彼等の履いているブーツとは違う音で向かってくる。


敵軍である。


軽く頭を上げてローランドは敵の人数を確認する。


「どうだ…?」


「…敵軍は二個分隊クラスかそれ以上。戦車はいねぇみたいだな」


戦車がいない事に若干だが二人は安堵した。

現在の彼等に鋼鉄の巨獣と渡り合う装備はないのだ。


「どのくらい引き付ける?」


「200…いや、100だ」


「了解」


装備の点検を済ませると彼等はいつでも射撃が出来るように姿勢を直した。


敵部隊は彼等がいる事に気付く様子がなく、雑談を交わしながら接近してくる。


そして距離が100mを切ると彼等は塹壕から身を乗り出して、手に持った小銃の銃爪を引いた。


共にフルオートで発射された弾丸が敵部隊に襲い掛かり、初撃で八人ほどが撃ち倒される。


敵部隊に気付かれ応戦が始まると、彼等は攻撃の間隙を縫いながら射撃を続ける。


「クソッ!」


オルソンが舌打ちした。


今のが最後の弾だったらしく、持っていたM4を背中に預け、腰からカスタムされたM1911A1を抜き、射程外だと判っていても牽制の為に撃ち始めた。


「弾切れか!?」


「ああ、そっちは!?」


「そろそろヤバい。コイツを使え!」


左手をフォア・ストックから離したローランドはバックバッグからM67破片手榴弾を数個取り出し、それを隣にいるオルソンに手渡した。


海兵隊時代から馴染みの手榴弾を受け取ったオルソンは、先がT字に折れた安全ピンを真っ直ぐに戻し、安全レバーを握ってそれを引き抜いた。


敵が約40mまで接近している事を確認し、オルソンは手に持った手榴弾をそれに向けて投擲する。


投擲した瞬間に安全レバーが取れ、手榴弾は放物線を描いて敵に向かう。


そして約5秒後、手榴弾は空中で爆発し、破片が敵に襲い掛かり数人が殺傷される。


同じ様に再びオルソンが手榴弾を投げると爆発した瞬間、再び数人が倒れた。


「なぁ!」


「なんだ、いきなり!?」


「お前、名前は!?」


「はぁ!?」


「俺はオルソン・ピアース、お前は!?」


「ショウだ、ショウ・ローランド!!」


「判ったショウ。ローランドは偽名だろ!?本名は!?」


「生き残ったら教えてやるよ!」


「そうかい!あと、もうひとつ。ショウ、俺とコンビ組む気はねぇか!?」


「いきなりなに言いやがる!?…生き残ったら考えてやるさ!!」


「上等ッ!!」




これが彼等の出会いであり、壮絶で混沌とした傭兵の世界に名乗りを挙げた一組のコンビの誕生である。





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