またいつか一緒に【第八話】
リレー小説(第二弾)設定・注意事項
★全40話
★一話2000文字以上
★登場人物数制限なし
★ファンタジー要素無し
★SF要素無し
★地の文は主人公視点
★重複投稿可
★ジャンルはその他
★執筆予約制廃止(予約を入れてくださる著者様を拒みはしませんが、ある程度の執筆予約が入ってからの執筆開始はしません。執筆予約を入れられた著者様に関しては、活動報告に掲示させていただきます)
★執筆著者様は、執筆前に聖魔光闇様にご連絡下さい。
★執筆投稿後、必ずご一報下さい。
★あらすじは、前話までの要約を明記
★あとがきに執筆者様募集広告を添付
第一話:聖魔光闇先生 http://ncode.syosetu.com/n1590t/
第二話:日下部良介先生 http://ncode.syosetu.com/n2296t/
第三話:ふぇにもーる先生 http://ncode.syosetu.com/n3991t/
第四話:koyak先生 http://ncode.syosetu.com/n4630t/
第五話:創離先生 http://ncode.syosetu.com/n8318t/
第六話:蟻塚つかっちゃん先生 http://ncode.syosetu.com/n9612t/
第七話:聖魔光闇先生 http://ncode.syosetu.com/n1100u/
どうぞよろしくお願いします。
公民館のようなその建物の中に入った俺は、呆然と内部を見つめていた。
古い建物だとは思ったが、そこはかつて民家であったことがうかがえる構造である。広い玄関から部屋に上がりこむと、廊下の右手には三十畳はあろうかと思うほどの大部屋があり、左手を見ると、商売でもできそうな台所が見える。
ただ、広間も台所も、そして廊下や玄関に至るまで、家具や調度品といったものが、何もないのである。
そう、廃墟といっていいほど、建物の内部は荒んだものだったのだ。
「勝俊、お前……」
俺は何と声をかけていいか分からなかった。
「身体が不自由なお前を呼び出して、ごめん。ほんとは俺の方から行かなきゃいけないのに」
埃のたまった畳に座り込んで、勝俊が言った。
「それはいいけど……。ここ、どこなんだよ」
もちろんこの町のことではない。なぜこの古い建物にいるのか、それを訊きたかったのだ。
「ここは親父の別荘だったんだ。景気がいいころの、親父のね。俺んち、会社経営してただろ。羽振りも良くて、調子に乗ってた時の、親父の隠れ家。良い意味も悪い意味も含めて、隠れなきゃいけないときがあったみたいだから、こんな田舎に別荘を作ってたんだ」
勝俊は溜息をついて、「今度は息子の俺が、ここに隠れるときが来るなんて、思ってもみなかったよ……」
そういえば、こいつ、お坊ちゃまって呼ばれていた時があったな。社長の息子で、将来は二代目で安泰だ、とからかわれながら、羨ましがられもしていたものだ。
しかし、中学を卒業する頃だったろうか、勝俊の父親の会社が倒産したと聞いていた。夜逃げまではしなくて良かったみたいだが、高校に入ってからも、しばらくは暗い顔をしていたっけ。その後、父親はどこかで働き始めたと聞いていたが、その頃になれば、プライベートな家庭事情を聞くことはなかった。
しかし勝俊は、なぜ俺をここに招んだのだろうか。
「何かあったのか?」
俺は、それとなく訊いてみた。復讐代行が、勝俊に触手を伸ばしてきたのか、と思っていたからだ。
「俺……怖いんだよ」
勝俊は俯いたまま、小さな声でそう言った。
「何かあったのなら、俺に話してくれよ」
「殺される……。俺たち、殺されるんだ!」
語気を強め、勝俊が顔を上げた。
顔面は蒼白になり、目は血走っているようだ。明らかに、何かに脅えている表情である。
俺はその時、少し不安を覚えた。こいつ、もしかしたら、俺が代行業者を使って復讐しようとしていることを知っているのかもしれない。
もしそうなら、何のために俺を招んだのか、答えは一つしかない。自分の身を守るため、俺をどうにかするつもりなのだろう。
しかし……。
「考えてみろよ」
と、勝俊は言った。「智哉のあの駅での事故に始まり、優は半身不随。来栖は彼女に刺され、三日月は彼女が死んで、本人も意識不明のままだよ。後は誰がいる。――俺しかいないだろ」
勝俊はゆっくりと首を振りながら、体は少し震えているようでもある。
「誰に殺されるんだよ。俺たちのグループに、共通する犯人なんているか?」
まさか、俺だとは言えない。
「俺には分かったんだ。あの時、あの目を見たとき」
勝俊は俺の顔を見た。「あのオッサンだ」
「オッサン?」
「お前を駅のホームで突き飛ばした、あのオッサンだよ」
そういえば、俺たちの不幸の始まりは、あのオッサンに突き飛ばされてから始まったのだ。
「まさか……。確かに俺はあの事故のせいでこうなってしまったけど、どこでどうつながるんだよ。あのオッサンは酔っ払ってたわけだし、俺たちの知り合いじゃない」
「俺たちのグループ、いつから始まった?」
「いつって……小学校の五年から……だよな。中学も高校も一緒で、いつまで同じグループなんだって言って――」
「小学校の修学旅行、憶えてるか?」
俺の言葉を遮って、勝俊が訊いて来た。
「ああ、伊勢神宮だとか、鳥羽の方だとか――」
「その伊勢神宮。俺たちがやった事件、憶えてるよな」
「事件……」
「ゴミ箱をあさっていた浮浪者を見つけて、俺たち、ひどいことをしただろ」
俺の脳裡に、あの頃の思い出がよみがえった。
俺たち五人組は、小学五年のクラス替えのときから、腐れ縁である。何をするのもいつも一緒で、遊ぶときも、悪いことをして叱られるときも、いつもこのメンバーだった。
そして修学旅行で行った伊勢神宮での出来事。小さな商店街のゴミ箱をあさっている、一人の浮浪者を見つけた。ぼろ雑巾のような服を着て、何が入っているか分からない小さな手提げバッグを持っていた。
まだ子供だった俺たちは、可哀想だな、と思う前に、この汚らしいオヤジめ、と思ったのだ。
誰が一番だったか忘れたが、そのオヤジに一人の少年が石を投げた。そしてつられたように、みんなで石を投げ、挙句の果ては、浮浪者が集めていた食料を蹴散らし、散々罵声を浴びせて逃げたのである。
通行人が警察に届け、俺たちは補導された。近くの交番に連れて行かれた俺たちは、先生と警察官にこっぴどく説教されたのだった。
「――あの時、被害者の浮浪者が交番に来たよな。脅えながらも、俺たちを鋭い目で睨みつけてた。恨みのこもった恐ろしい目だったよ」
勝俊がそう言った。
「ああ、そうだったな。あのことは今でも後悔してるよ」
これは俺の本音でもあり、たぶん、みんなも同じ気持ちを持っていると思う。
「俺だって後悔したさ。でも、消えることはないんだ」
「どうしたんだよ、勝俊。それとこれと、何が関係――」
「あのオッサンだよ」
と、勝俊は俺をまっすぐに見て言った。「駅でお前を突き飛ばした奴」
「――は?」
「お前が電車にはねられた後、あのオッサン、俺たちを見たんだ。薄笑いを浮かべてたけど、あの憎しみのこもった目、間違いなくあのときの浮浪者だ。俺は確信したんだ」
でも……。俺には分からない。あれだけの衝撃を受けて、すぐに気を失ってしまったんだから。
俺は何が何だか分からなくなってきた。
「あのオッサンが俺たちに復讐しようとしてる、ってことか?」
「ああ、間違いない。だから俺、しばらくここに隠れてたんだ」
それでこんなに無精髭が伸びているのか。
そんなことがあるだろうか。復讐しているのは俺であり、代行業者だ。いくら恨みを持っていたにせよ、あの浮浪者が俺たちを見つけることなんてできるとは考えられない。
まさか、浮浪者が代行業者を使って……。
「でも、なんで遥がここにいるんだ?」
俺はなぜか、少し離れて座っている遥に気づいて、言った。
「憶えてないのか。彼女も、あの現場にいたんだ」
そうだっけ……。
「私は止めたわよ。可哀想だからやめなさい、って。でも、あのおじさんから見たら、同じ仲間だもんね。だから勝俊君と二人で、もしかしたらって話してて。私、死にたくない!」
そうか……そうだったのか。
「これからどうするんだよ」
と、俺は訊いてみた。
「今、調べてもらってるんだ。さっきのタクシーの運転手、実は俺のオヤジの秘書だった人なんだ。小さい頃から可愛がってもらって、何でも面倒見てくれた人なんだ。だから、今回のことも相談してたんだ」
勝俊はそういって、俺の耳元に顔を近づけた。
「実は、相談に乗ってもらいたいことがあるんだ。俺たちが助かるための、ね」
助かるため、か……。
俺に言われても困るってもんだ。やっているのは、俺なんだから……。
話を聞いた俺は、遥を連れてその家を出た。
玄関から少し離れ所に止めてあるタクシーの中で、運転手――元秘書は、小型のパソコンをいじっているようだった。
明滅するモニターの明かりが、不敵な笑みを浮かべた運転手の顔を浮かび上がらせる。
何をやってるんだろう……。
俺と遥は、何事もなかったように、タクシーに乗り込んだ。
静かにエンジンがスタートすると、ゆっくりと車が滑り出す。そして、その先の角を曲がろうとするときだった。
突然、地鳴りのような爆発音と共に、爆風が車を揺らした。
驚いた俺は、車から飛び出そうと思ったが、足が言うことをきかない。何が起こったのだろう。
「――智哉、見て!」
隣にいた遥が、俺の肩をつかんだ。
今出て来たばかりの勝俊の別荘から黒煙が上がっていた。そして、あっという間に炎が立ち上る。
台所の方向ではない。今まで俺たちがいた、広間の辺りにある窓から炎が吹き始めていたのである。
「勝俊……勝俊!」
俺は叫んでいた。
しかしこの時、俺は頭の中で、こう考えていた。
これは、代行業者がやったのだろうか。それとも、あの時の浮浪者のオッサンが……。
遠くから、サイレンの音が聞こえ始めていた……。
これはリレー小説です。
リレー小説とは、複数の著者による合同執筆(合作)を言います。
ご参加頂ける方は、聖魔光闇様までメッセージにて、ご一報下さい。
参加していただける方は、再度メッセージにて、正式に連絡が来ます。その後、投稿後にもう一度、聖魔光闇様にご連絡いただきますよう、お願い致します。