陽の当たる場所に、影は伸びる
町は今、かつてないほどに活気づいていた。
薬草店には遠くの村からも注文が入り、見たことのない顔が通りを歩く。
リスベルは「ゼルの力だな」と笑い、リオナにも感謝の言葉を口にするようになった。
それは、嬉しいはずだった。
だけど、ふたりの関係は、なぜか少しずつ「居心地が悪く」なっていた。
ゼルは毎日のように誰かに呼ばれ、相談され、手伝いを頼まれる。
リオナと顔を合わせる時間は、だんだん短くなっていった。
「町の人たちの役に立ててる。悪いことじゃないだろ?」
そう笑うゼルに、リオナは笑い返すことができなかった。
彼が他人に囲まれて笑っているたび、心の奥がざわついた。
“自分じゃなくてもいいんじゃないか”と。
そしてある日、ついにゼルが言った。
「……なあ、この町に、ずっといるのも悪くないなって思い始めてたんだ。でも、最近……逆に息が詰まってきた」
その言葉は、リオナの胸に静かに突き刺さった。
「なんで? みんな、あなたのこと……」
「だから、だよ。俺、誰かの“都合のいい理想”になるの、苦手なんだ。
役に立つのは嫌いじゃないけど、囲まれてるのに、なんか……孤独だ」
町が明るくなるほど、ゼルの笑顔が薄れていた。
リオナもそれに気づいていたのに、見て見ぬふりをしていた。
「わたし、また……同じこと繰り返してるのかな」
自分が何もできなかったあの春。
セイルを理解しきれず、気持ちを伝えられず、気づいたら手の届かない場所にいた。
今度もまた、誰かの背中を見送るだけになるのか。
町が光に満ちる中で、二人の間にだけ、長い影が伸びていくのだった。