第六話「鈍感」な君へ
昼休み。
教室の片隅。三毛野は机に突っ伏していた。
頭の中には、昨日の敗北がリピート再生中。
――ジョーズ。
――堕ちない黒川。
――ビビる自分。
――デートお決まりの4つが通じない。
思い出すたびに、心臓の奥がヒュッとなる。
まるでサメに噛まれたようなショックだった。
三毛野「、、うわぁぁぁ、オレ、ダッサ、、」
顔を伏せたまま呻く。
もうどうしようもなく、自分の情けなさが押し寄せてくる。
黒川、かっこよかったな、、怖がらないで映画見て、微動だにしないし。
あれ、絶対サメより強い。
というか、俺より強い。
、、でも、なんか惚れ直した。いや、最初から惚れてるんだけど。
__一心に見るその横顔が好き。
「おい、三毛野?死んでんるのか」
どん、と背中を叩かれた。
声の主は友人A。
筋肉だけが信頼できる脳筋。脳内はスポ根とタンパク質で構成されている。
その後ろに、にやけ顔のBとC。
「おい、聞いてんのか?」
「死んでるぞ、顔が灰色」
「マジでサメに食われたんじゃね?」
「、、おまえら、うるさいぃ」
三毛野は机から顔を上げ、目の下にクマを作った顔でつぶやいた。
「なんでサメの事しってんの」
「お前がさっきからサメ、サメ呟いてるから」
on、心の声が漏れていたとは、、
「、、、反省会、する」
「はぁ?」
「昨日のこと。反省会する。作戦会議も」
「昨日?部活サボったのか?」
「なんだよ、ナンパでも失敗したのか?」
「お、彼女できた?え、マジで?お前に?」
三人の言葉に、三毛野は額に手を当てて溜息をついた。
こいつらに言うのは気が引けていたがつい口に出していた。
「、、ちがう。その、、ちょっと、デート、、っぽいものに行って、全滅した」
「おおおおお!?」
「誰だよ!?」
「まさかの!?」
「お前が!?サメと?なんで!?」
机がどよめいた。
てか、一人変なこと言ってるし。
慌てて手を振る。
「違う違う!“もしも”だから!? “もしも”デートに行ったとしたらって話!」
「でも今、行ったって言ったよね?」
「言ってない!」
「言ったよね?」
「言ってない!」
「言ったなー!」
「あーはいはい、“もしも”ね、“もしも”デート行ってサメに負けたんだな、わかるわー」
くそ、バカトリオめ。
「サメとデートなんて変わってるな」
「サメとじゃないよ!!」
さっきから友人Aはズレてるは!!
Bがにやにや笑いながら言った。
「友人Aよ、こいつは人間とだよ」
「そうなのか」
サメなわけ無いでしょうが!
__さすがの三毛野さんでも人間以外には欲情しないわ
「で、“もしも”そのデートが失敗だったとしたら、どういう反省点があるわけ?」
三毛野は真面目な顔になる。
肘をついて、軽く拳で顎を支えた。
「、、まず、“相手の趣味をリサーチすべき”だった」
「へぇー。おまえにしてはまともな意見」
「で、何見たん?」
「アクション。サメのやつ」
「ジョーズかよ!恋愛映画とかじゃねえの?」
「そう思ってたよ!恋愛映画=デートって定番だと。でも興味ないって言われて、、」
その瞬間、思い出し笑いがこみ上げる。
いや、笑えない。
でも笑うしかない。
「今までの彼女たちにはそれで通用してたからな笑」
「馬鹿だな」
「ごもっとも」
「みんなが同じなんて思うからだろ」
友人Aの言葉が特に刺さる。
「興味がないから見ようとは思わないって言われて、あ、これは心臓にトドメ刺されたなって、、」
「強っ、、振られてやんの笑」
「ていうかそれ言われて生きてるお前も強い」
「で、サメ映画でどうだった?」
「オレが一番ビビってた」
「え。」
「だってでっかいサメがドーン!って!“ギャー”って!」
「女子よりビビる男子」
「お前、、いつもと逆じゃねぇかじゃねぇか(笑)」
「笑ってるの見えてるよ!」
三毛野は机をバンと叩いた。
「そりゃビビるよ!音すげぇし!横で後輩がポップコーン食ってるのに、俺だけ”ヒッ!”って!」
「後輩?」
三人の顔が同時にぴくりと動く。
「、、え、後輩?誰?」
「まさかの三角関係?」
「おいおいおい、裏切りの男だな」
「違う!違う!後輩は付き添い!いや、ほら、仲いいから!」
――説明しても余計に誤解される。
ああ、なんで言っちゃった。
「ま、もしも、な?」
「“もしも”デートで、“もしも”後輩が一緒で、“もしも”サメ映画で、、、“もしも”ビビって、“もしも”空回りしたんだな?」
「、、、お前ら、死ぬほど性格悪いな」
笑いが止まらない三人を尻目に、三毛野は天井を見上げた。
__でも、ほんと。空振りしまくりだったし。
心の中ではちゃんと反省していた。俺はすごくダサいと思うたびに、、、
黒川ちゃん、ほんとにかっこよかったな。そう思う。
スカートじゃなくてパンツスタイルで、さらっと歩いて、財布出して自分で払って。
奢るよって言ったのに、軽くかわされて。ド迫力でも淡々と見て。
別に当たり前の行動だと思うだろう。俺も思ってるし。
でも、ずっとドキドキしてた。あれは、惚れ直しちゃう。いや、惚れてるんだけど。もっと、その横顔が見たい。もっといたい。もっと、、、
「三毛野顔紅いぞ」
「、、、次は、もうちょっとスマートにいく///」
「ほう、“次”ね?」
Bがニヤリと笑う。
「で、“もしも”次に誘うならどう誘うわけ?」
「うーん、、、デートしよう♡、とか?」
「おえ」
「きもい」
「即通報」
「お前ら容赦なさすぎだろ!!」
「てかさ、お前ほんとに恋愛経験あんの?」
「あるわ!彼女だって何人もいたし」
「浮気野郎」
「浮気なんて一度もしたことないよ!三毛野さんは一途なの」
__来るもの拒まずさるもの追わず、なだけで!
「いやー、三毛野は顔は、顔は、いいけど、恋愛レベルは中学生で止まってそうだな」
「なんで二回も言った!」
――そんな中。
教室の前を、後輩が一人で通りかかった。
移動教室らしい。手にノートを持って、ぼんやり歩いている。
Bがニヤリと笑う。
「おーい後輩くーん!」
「、、、なんですか」
「お、タイミングいいな!今“もしも”の話してんだよ」
「“もしも”女の子をデートに誘うなら、どんな風に言えばいいと思う?」
後輩はぴたりと足を止めた。
ゆっくり三毛野を見て、ため息をつく。
「、、、三毛野さん、また“もしも”ですか」
「え、う、うん、“もしも”だよ!」
「“もしも”なら、そうですね」
後輩は少しだけ考えてから、ぼそっと言った。
「相手が行きたい場所に、理由つけて誘えばいいんじゃないですか。デートって言うより、“行くついでに”みたいな感じで」
「「「おおおぉぉ」」」
「めっちゃまともだ」
「クソ野郎との差がえぐい」
「さすが後輩、経験者だな」
「残念ながら経験ありません」
即答。
けど、顔に眉間のシワがよっていた。
__彼女いたことないんだな
と誰もが思ってしまうほど。
そして、教室のドアに手をかける前にもう一言。
「あと、無理してカッコつけないほうがいいです」
「!?」
バタン。
「ダセェってよ」
「だってよ」
「でもなぁぁ」
__好きなこの前じゃカッコつけたいよ。
そう思いながら机に突っ伏していたら、
「三毛野、課題出して」
「あっ、ごめん」
クラスメートの女の子に呼び止められた。
「あれ、どこやったけ、」
__机、鞄、、
「えぇぇ!!ない」
「何やってんだよ」
「あ、お前のノート借りっぱなしだった」
「ちょっと!!」
友人Aは急いで自分のクラスに取りに戻った。
「ごめんね」
「早く出してよね」
「はぁい」
この子は小さいながらも怒ったら怖い。
「ね、ちょっと聞いてもいい?」
「いいけど」
友人Bはにこやかに言った。
「”もしも”付き合ってない男女が一緒に出かけるならどこがいいと思う?」
「まじかよ」
__この人はどんだけ他の人を巻き込むわけ
「えっ、二人っきり!?」
「う〜ん、まぁそんな感じ」
「コンビニかな、、、?」
「コンビニ??」
「私だって二人っきりで出かけたことないし、よくわかんない男女ってそんな感じじゃない、、、」
「そんな感じなの!?」
今まで三毛野と出かけてきた女の子は下心しかなく、誰でもOKな三毛野だから、である。
「大人数なら別だけど」
「そうなちゃうよね、、、」
「なんの会話これ、、」
__巻き込んでごめんね
「恋愛相談強い?」
「無理だけど、、」
「恋バナとか」
「興味ない」
友人B、諦めずに聞いてるけど。頼る女の子を間違ってるよ。、、、鈍感だからこの子。
クラスメートであるこの子も、イケメン三毛野さんに惚れなかった子。
黒川ちゃんと、鈍感なところが同じだからいいアイディアないか、と思ったけど
__だめだこれりゃ
「お前のノート持ってきたぞ」
「ありがと、、っていうか早く返してよね」
「わりぃ」
クラスメートにノートを渡しておわろうとしたが、、
「そういえば」
友人Bが引き止めるように
「”もし”後輩と出かけるならどうする」
「後輩?」
__え、言っちゃうの!?
自分の恋バナをクラスメートに伝えてしまうのか!恋バナを続けるのか!?
と焦ったが。
「やっぱ、映画かな」
「他には」
「マックとか」
「面倒な事に答えてくれてありがとな」
「どういたしまして」
そう言い帰っていった。
「二人っきりと、後輩じゃ違うもんなのか」
「事情が違うからな」
「それに」
友人Bはクラスメートを見ながら、
「うちの後輩がお世話になってるしな」
と言った。
「そうだったか」
「委員会とかでな」
気になるようで気にしない会話があるが、、
「誰も彼も否定だったけど良かったな」
その言葉が嬉しかった。
三毛野は頭を抱えた。
「あぁぁぁぁ!!!」
__間違ってなかった。
映画を選んだこと間違ったかと思った。変だったかなって。不安になってしまった。でもクラスメートのお陰で肯定感が上がった。
「本人によるけどな」
三人の笑い声が響く。
昼休みの教室に、男子高校生たちのどうしようもない会話が飛び交う。
だけどその中で――
三毛野の心の奥には、まだ燃えるものがあった。
__次こそは。黒川ちゃんが楽しめるようにもっと知ろう。
そう心に誓いながら、彼の恋は、今日も空回りしながら続く。




