第五話「鈍感」な君へ
バレー部の練習は佳境。
スパイク音、ボールを拾う音、笛の合図。
三毛野は主将らしく、的確な指示を飛ばしていた。
「よし!今日は声が出てる!その調子!」
「サーブ、もっと思い切って打っていいよ!」
その姿は、普段教室で見せるチャラついた態度とはまるで違う。
部員たちも尊敬しているし、ファンクラブができるのも納得だろう。
ただ――休憩時間になると。
「、、ふぅ」
汗を拭きながら、つい天井を見上げる。
頭に浮かぶのは、窓際で本を読む黒川の横顔だった。
__これが終わったらデート、、、!おしゃれなカフェとか、映画とか、、いや、絶対『、、、』で終わるんだろうけどさ!
そんな妄想をしているのを、同期の友人に見抜かれる。
「おい三毛野。さっきから顔がニヤけてるぞ」
「へっ!?ニヤけてない!真剣に戦術考えてるの!」
「いや絶対なんか考えてただろ。、、後輩んとこの教室行ってるのも、そういうの関係してんのか?」
「ち、ちがうよ!俺はな!あれだよ!後輩の指導!生活態度の指導!先輩として!」
「、、部活でも指導してやれよ」
「うっ、、」
友人の冷たい目線に、思わず視線を逸らす。
そのとき――後輩が、ひょっこり差し入れのスポドリを持ってきた。
「これ。余ったんでどうぞ」
「おっ、サンキュー!、、あれ?お前、今日はやけに静かだな?」
「え、いや、、いつも通りですけど」
「うそつけぇ!クラスで見たぞ俺!女子に『一緒に帰ろぉ』とか言われて普通にテンション高く返事してただろ!」
「そ、それは、、場のノリで、、」
「ほぉ〜? じゃあ俺の前では猫かぶりしてんだなぁ!」
「違います!ただ絡んでくると、ツッコミ疲れるだけです!」
「おいコラ!」
横で聞いていた友人たちは爆笑。
「ははっ、三毛野、完全に後輩になめられてんな」
「ちげーし!俺はこうやって可愛がってやってんの!」
「それ可愛がりっていうか、ただのいじりだろ」
「だ、だから!違うって!」
そう言いつつも、内心は焦っていた。
__、、やべ、これ以上黒川ちゃんの教室行くと、ほんとに『後輩狙い』って誤解されかねねぇ、、
でも行かないと彼女に会えないし、、どうすりゃいいんだ俺、、、
笛の音が鳴る。再び練習が始まる。
主将の顔に戻り、声を張り上げる。
けれどその胸の奥では、やっぱり同じ言葉が響いていた。
早くデートしたい!一緒に映画なんて最高!!←後輩もいるけどね。
映画デートと言えばお決まり4つがあるから今日で落としちゃうぞ!!!!
___
バレー部の練習を終えた三毛野は、家に帰るや否やソワソワしていた。
「よし、髪型チェック!服装チェック!、
、笑顔の角度チェック!」
鏡の前であれやこれやとポーズを決める。
まるでアイドルの撮影会。
いや、もしかしたら今日こそ「黒川ちゃん」との本格的なデート。そう信じて疑わなかったのだ。
、、たとえ間に後輩がいることを、無意識にスルーしていたとしても。
___
映画館前。
「お待たせ~!、、って、え?」
そこに立っていた黒川は、淡いブルーのシャツに黒のパンツ。
シンプルで、けれどやけに大人びて見える装いだった。
「、、」
無表情。
いつも通り。
だが、その姿を見た瞬間。
__ズボ〜ん
この男数々のデートをしてきた中で女の子達の定番かな!と何かよくわからん基本があった。
__女の子は皆初デートはスカートなのかと思ってた
内心の叫びを押し殺しながら、満面の笑みで手を振る。
「黒川ちゃん、今日も最高に可愛いね!」
「、、(軽く会釈)」
「、、はいはい、先輩、騒がないでください」
既にツッコミ役は定位置。
___
チケット売り場。ポップコーン。
①財布
「俺が奢るからさ!今日は特別に!」
懐から財布を取り出す。
女の子に財布を出させる隙を与えない!これぞ王子様ムーブ。
「、、」
黒川は淡々と自分の分を購入していた。
「あっ、、」
「、、(自分のも普通に買ってる)」
「ちょ、ちょっと!ここは俺が、、」
「、、必要ない」
「が、がーん!!」
財布を掲げたまま、銅像のように固まる。
「(、、先輩、カッコつける前に現実を見ましょうね)」
「キャラメル味食べる?」
「、、塩」
「コンソメで」
見事に意見が割れた。
三毛野、キャラメル。黒川、塩。後輩、コンソメ。分け合おう!カップルサイズぅ!とかは無かった、、
___
映画スタート。
②ドキドキ
選ばれた映画は――まさかの「シャーク」。
「えぇ!? アクション!? サメ!?」
←当日まで何を見るかホウレンソウされていなかった男。
『、、、言ってなかったけ』
←ホウレンソウしたか覚えてない後輩。
女の子といえば恋愛映画。ホラー映画。興味がないとか言っていたけど結局観るかなと、そう信じて疑わなかった三毛野は、膝から崩れ落ちそうになる。
黒川「、、(無表情でポップコーンを食べる)」
後輩「、、(普通に見てる)」
「(ま、まぁ、これも一種のデート、、だし!?)」
必死に自分を励ます。
「席ここですよ」
そこは一番うしろの真ん中だった。背の高い2人からしたらちょうどよい場所だ。
後輩、黒川、三毛野。
__これ、黒川ちゃんを端っこにしたら独り占めできたんじゃ、、
___
サメ、登場。
③お決まり展開
暗い海のシーン。
静寂のあと、突然――
「ガバァァァッ!!」
巨大なサメが飛び出した。
「うわあああああああああああ!?」
小声だけど心の声が漏れまくっていた。
__心臓突き破るかと思った、、、
驚きのあまりポップコーンを隣へと零してしまった。
映画館中が一瞬で静まる。
「、、」
無表情のまま、自分の膝に落ちたポップコーンを一粒拾う。
「うるさいですよ。迷惑です」
「ご、ごめん、、!でもサメがぁ、、サメがぁぁ!!」
心臓が口から飛び出そうな勢い。
黒川は相変わらずの真顔でスクリーンを凝視。
微動だにしない。
「(くっ、、!スゴいこの肝の据わり方、、!!)」
___
上映中後半。
④手を繋ごう作戦
三毛野は震える手を、そっと黒川の手に近づける。
__今だ、、サメの恐怖で自然と手を繋ぐ流れ、、!!
あと数センチで指先が触れる――その瞬間。
「、、(ポップコーンを拾って手を動かす)」
スッ、、とかわされる。
「(あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)」
心臓が二度目のサメショックを受けて爆発寸前。
「、、(全部見てた)」
『三毛野さん、哀れすぎる、、』
___
クライマックス。
映画はどんどん盛り上がる。
サメが船を襲い、人々が逃げ惑う。
「、、」
最後まで無表情でスクリーンを見つめる。
『黒川ちゃん、、強い、、強すぎる、、!!』
『いや普通に映画見てるだけです』
一方で三毛野は、最後までサメに飛び跳ね続けていた。
『ぎゃああ!』
『ひぃぃ』
『うわああああああ!』
声には出ていないが表情が騒がしかった。
もはや観客の子供よりうるさい。
___
映画館を出て。
外に出ると、もう夜の気配。
「はぁ、、はぁ、、俺、映画館で命を削った気がする、、」
「ホラー映画誘うくせにこれだとダメじゃないですか」
「ホラーは恋人マジックがあるの!!」
ホラーのドキドキが手を繋いだりして恋のドキドキに変わる!これだとホラーも無敵に!!
「、、面白かった」
「ですよね。迫力ありました」
淡々とした二人の会話を聞き、三毛野はがくりと膝をつく。
『なんか、、俺だけ、命の危険を感じてんだよ、、』
__デートの基本お決まり4つも効かなかったし、、
しょげていた。
しかし次の瞬間。
「、、また、面白いのがあったら行こ」
それだけを言い残し、彼女は歩き出す。
「えっ、、!? ま、また!?」
顔を真っ赤にしながら、慌てて後を追う。
「、、(ほんとにめんどくさい先輩だ)」
___
帰り道。
こんな時間に一人にはできないので皆で駅に向かっていた。
黒川は無表情。
後輩はクール。
そして三毛野は――
『デートだ、、!! これはもうデートだぁぁぁぁぁ!!』
心の中でだけ、大絶叫していた。




