第三話 「鈍感」な君へ
彼は、女子に囲まれることに慣れていた。
笑顔を向ければ簡単に返ってくる視線。軽い冗談で沸く空気。
告白の言葉だって、これまで何度も聞いてきた。
だからこそ、自分が「学校一の人気者」だということも分かっていた。
けれど――彼女の前では、そのどれもが役に立たなかった。
本を片手に、窓際で静かに座る彼女。
声をかけても、振り返る表情は変わらない。
冗談を言っても、淡々とした返事しか返ってこない。
「やっほぉ!今日も本、読んでるんだね」
そう口にした自分の声が、ひどく間の抜けたものに聞こえて、思わず耳まで赤くなる。
誰よりも話し慣れているはずの女子に、何も言葉が出てこない。
笑わせることもできず、気の利いたことも言えず、ただ隣に座るだけ。
けれど、それでもいいと彼は思った。
後輩に会いに来たという言い訳をしながら、ほんの数分でも彼女の隣にいられるなら。
その小さな時間を積み重ねることでしか、彼は近づけない気がしたのだ。
「、、、じゃあ、またね」
そう言って立ち上がる彼の背に、彼女は短く頷く。
たったそれだけのやりとり。
それでも彼の胸は、どうしようもなく高鳴っていた。
ドッ!ドッ!ドッ!
___今にも爆発しそう
女子を惹きつけることには慣れていた。
けれど、好きな人ひとりを振り向かせることに、こんなにも不器用になるとは思ってもみなかった。
「おっ、黒川ちゃん!今日も、クールビューティーだね~。もしかして俺にだけ心を開こうとしてる?」
「、、」
「いや、ただの無言だと思いますよ。心閉じてるんです、完全に」
後輩がつかさずツッコミを入れる。
「ちぇっ、そんなつれないなぁ。でも大丈夫、俺は何度でもノックする男だから!」
「、、、(小さく首を傾げる)」
「いや、ノックしても鍵かかってるし、そもそも中に入れてくれる気ないっすよ」
「ふふっ、でも知ってるか?恋はオートロックを突破する魔法なんだよ!」
「それ不法侵入ですよ、三毛野さん」
「、、、」
立ち止まり、窓の外を見てるだけ。
というかほとんど、後輩としか喋ってない気がするんだけど!!
「あー!無視しながらも横顔が絵になる! くぅー」
黒川ちゃんは罪な女の子だね!
「ただ窓見てるだけですから!感傷に浸ってるだけですから!」
三「、、、でも俺、やっぱり黒川ちゃんのこと可愛いって思ってるよ!」
「、、、(軽く会釈して去る)」
「それ、返事じゃなくてただの礼です!」
三毛野は片手を胸に当て、切ない顔で彼女の背中を見送る。
「、、フッ、ツンデレってやつだな」
「違います!ただの無関心です!」
相変わらず、後輩のツッコミは鋭かった。
___
放課後、俺は体育館へと向かう。その理由は簡単、バレー部に所属しているから。三毛野さんはちゃらんぽらんな人だが運動だってできる。
「サーブ100本」
「次、レシーブ」
「終わったら、、、」
それにこう見えて、
「三毛野さんまじかっこいいよね!」
「主将なのもハイスペ高いし!」
バレー部の主将だった。ファンクラブだってあるし!
意外だぁとか、こんな人でもできるんだぁ!とか思ったやつ!そこの君!レシーブ200本だから!
休憩中、、、
「お前、よく後輩の教室に行く割には部活のときはあまりかまってねぇよな」
友人Aが聞いてきた。
「私情を挟まないからね俺は」
それに後輩に会いに来てんじゃないんだよ!彼女に会いに来てんの!
「かまってちゃんが、」
「ちょっと!誰がかまってちゃんよ」
「かまってちゃんだろ」
「お前も大変だな」
友人B、友人Cも絡んでくる。
その矢先は後輩まで向かった。
「は、はぁ」
「そこ!否定して!」
部活の友人に言われるほどではないだろ!
というか!後輩が否定してくれないと俺が後輩の為に行ってるみたいじゃんか!
でも、ここで肯定するとして!
『お前好きな人いるのかよ』
『きもっ』
『女たらしが』
『今度見に行こうぜ!』
なんて事になって、彼女に拒絶されたらどうするだよぉぉぉぉ!
←もう、拒絶というか無視されていますけどね、、by後輩
「ほら!休憩終わり!!」
友人B「うぇ」
友人C「へぇい」
友人A「応」
どうせなら、こんなだらしない野郎共の声より、好きな子の声援を聞きたいぃぃ
「三毛野さん今日は一段と考え込んでいるな」
「主将だからだろう」
三毛野の様子を見て他の後輩たちはそう考えているが、
___いや、あれは全然違うこと考えてるな、、、
と真相を知るやつには考えていることお見通しだった。
『『デーートいきたいぃ』とか』
見事的中していた。
「三毛野さん、今部活中ですよ」
「わ、わかってるよ!」
___ 彼女に応援されたい!
___黒川には応援来ないでほしい
などと複雑な思いが巡っていた。
___
部活終わり。汗だくになりながら着替える三毛野。鏡を見てはナルシスト全開。
「ふぅー、今日も三毛野さんイケメンだな。汗で輝く、まるで宝石、、、!」
「黙って着替えろ。眩しいのは蛍光灯だ」
「ひっどいなぁ」
三毛野___でもよ、もし黒川ちゃんがこの姿見たら、、『頑張ってますね』って! きっとそう言ってくれるに違いない!
(小声で)「、、絶対言わないと思います」
「そこ否定するなぁぁ!!」
てか、なんで考えてることわかるの!」
「そりゃ、わかっちゃいますよ」
「なんで!」
「、、、事実を知ってるので」
「たしかに!」
俺の恋心は後輩しか知らない。




