第二話 「鈍感」な君へ
校門をくぐるたび、誰かが彼に声をかける。
「おはようございます!」
「ねえ、次の試合も期待してるから!」
「きゃー///」
「カッコいい///」
振り返れば笑顔、横を向いても笑顔。前を向いても笑顔。口角を上げ笑えば、黄色い悲鳴が飛び舞う。
彼がいるだけでその場の空気が明るくなる。まるで、太陽のような人。
顔立ちも性格も、誰もが認める学校一の人気者。
そんな彼だから、いつも恋の噂は絶えなかった。
「どっか行くのか?」
「うん、ちょっとね」
友人達が教室に戻っていく中。俺は別の教室へと寄り道をする。
「後輩に顔を出すだけだから」
そう言えば、誰も怪しまない。人気者の俺が部活の後輩を可愛がってるのは知っているから。
「やっほーーーーーー!!」
「げっ!三毛野さんまた来たんですか!?」
「ちょっと!げっ!とはなんだよー」
と困り顔で言うが、
「今日はどうしたんですか」
見事後輩にはスルーされてしまった。つれない後輩だなぁ。
「ちょっと通りかかったから顔を見に来ただけだよ!!」
「通りかかるたびに顔出しやめてください!」
「えぇ別に先輩が来てもいいじゃん♪」
「対応が困るんです」
対応ねぇ…
「気持ちはよくわかる」
「何がですか」
「きゃー!きゃー!言われて羨ましいのはわかるよ!!」
「、、、、別にッ羨ましくッはないですッ」
言葉に勢いがあるよ、、、
まぁ、三毛野さんを羨ましがってしょうがないか。三毛野さんは生まれつきの魅力だから。
ニッコリと女の子たちの方に向かって笑いかければ
「きゃぁ///」×クラス女の子
後輩のクラスにいた女の子全員の黄色い悲鳴が聞こえる。これを後輩がやっても女の子どころか男も反応しないだろう。
「早く戻ってください」
「えぇ~、もう少し待ってよ」
後輩が面倒くさがっているので、早めに本命の目的に向かう。そう、俺はただただ、後輩をからかうためにわざわざこっち側に来たりなどしていたわけではない。
___後輩をからかうのは何よりも楽しいけど、、、
「おっはよぉ!」
俺はそばに向かうとまっ先に挨拶をした。
ペラッ、、、
「今日は天気がいいね」
ペラッ、、、
「三毛野さんまた来ちゃった♪」
ペラッ、、、
返ってくるのは本をめくる音。見事に俺の言葉はスルーされた。
ガタッ、、
前の席が空いていたので隣から移動し座る。
ペラ、
俺が前に来たことで窓からの光を遮り本に影ができた。
「、、、おはようございます」
「おっはよ!!」
影ができたことでやっと俺のことを認識した。相変わらず、凄い集中力だ。どうやら彼女は一度集中すると、何かに遮られるまで途切れることがないようだ。
それは彼女のことをよく知らない人からしては嫌われているから無視されていると認識するだろう。だけど彼女は集中力が凄いだけ、、
___
彼女と初めての会話に試みた時もそうだった。
「おっはよー!!元気?」
ペラッ、、
「俺は三毛野尊よろしくね!!」
ペラッ、、
「君すっごく可愛いね!」
ペラッ、、
「いや、綺麗のほうが正しいかな」
ペラッ、!
「ところで君の名前は?」
ペラッ、、
「三毛野さん全部スルーされてますよ」
「知ってるよ!」
後輩は呆れたように見ている。彼女の前の席が空いているので座る。
覗き込むように
「それ面白い?」
彼女が読んでいる本について尋ねた。
ペ、、
本をめくっていた彼女の手が止まった。
すると、本に向けていた目線はこちらへと向いた。
__あぁほんとうに綺麗だなぁ
彼女の黒い瞳は真っ直ぐで強い意志を宿している。
ドッ、ドッ、ドッ、
見つめられるほど音が響く。
今にでも心臓が破裂してしまいそうだった。
「誰ですか」
「え、俺?三毛野尊。学校一のイケメンな人気者ってやつだよ」
冗談っぽく肩をすくめてみせる。
けれど彼女は、ほんの数秒こちらを見ただけで、すぐに本へと視線を戻してしまった。
___名前すら、届いてないのか。
「三毛野さん、相手にされてませんよ」
すかさず隣から後輩が呆れ声をかけてくる。
わかってるよ。そんなの。
だけど、、、、。
「でも今、一瞬こっち見た」
「は?」
「ちゃんと、俺の声、届いた」
後輩が「いやいや、、」と首を振る。
わかってるよ。たぶん、本を読んでいたら急な影が入って驚いただけなんだろう。
それでも俺は笑う。
ナンパなんて、軽口なんて、何度だって成功してきた。一度話しかければ、その子は俺の虜。
けど、この子には効かない。
どんなセリフも、どんな笑顔も、全部スルーされる。
だからこそ、たった一言でも、一瞬でも、俺を見てくれることが嬉しかった。
それが、彼女に惹かれる理由のひとつなんだろう。
「黒川、だよね?」
「、、、、」
「君の名前」
「、、そうだけど」
短く、それだけ。
でも――俺にとっては、宝物みたいな答えだった。
「よし。覚えた」
俺はわざとらしく満面の笑みを見せる。
すると後輩が「もう諦めたらいいのに」とぼやく。
――いや、無理だな。
俺は確信していた。
この子は、今までの誰とも違う。
軽く笑って流せるような相手じゃない。
俺は、もう後戻りできない。
「これからも毎日来るからね!!」
「もう来ないでください」
「、、、、」
後輩に嫌がられようが俺は会いに来た。
「やっほー!」
「はぁ、来た、、」
「、、、、」
肝心の本人からはスルーされている。




