第一話 「鈍感」な君へ
モテ男×氷の美女
が織りなす物語。
THE王道系。
道を歩けば連絡先を聞かれる。
校門をくぐれば、必ず誰かに声をかけられる。
廊下を歩けば、自然と視線が集まる。
教室にいれば必ず誰かがそばにやってくる。
彼が笑えば誰もが見惚れる、学校一の人気者だった。
そんな彼だから、いつも恋の噂は絶えなかった。誰と付き合った。誰と別れた。誰と今いる。誰が狙っている。
けれど本人は軽く笑って受け流すばかりだった。ナンパだって行う、女の子に告白されたら誰それ構わず恋人になる。また「女の子はみんな優しく」的なことを言っているが、「来るもの拒まず去るもの追わず」な精神であった。一言で表すと期待だけさせる、女たらしクソ野郎であった。
恋は遊び、口説き文句は冗談。
彼にとっては本気の恋なんて遠いものだと思っていた。
けれど、その日。
人ごみの中でふと目が止まった瞬間、世界が静かになった。
彼の視線の先にいたのは、学校一の美女。
淡々としており、無駄な言葉を嫌い、無駄に笑わず、誰にも媚びず、いつもひとりでいる。
近寄りがたい空気をまとい、誰もが憧れながら遠くから見ている存在。隣に立てる人はいない。
――そんな彼女に、一瞬で心を奪われた。
ドッ、ドッ、ドッ、
胸が跳ねるのを止められない。
彼は気づいたのだ。
これが「一目惚れ」というやつなんだと。
「後輩に顔を出すだけだから」
そう言えば、誰も怪しまない。人気者の彼が部活の後輩の様子を見に行くのは、日常の一部みたいなものだから。
けれど実際には、そこに“彼女がいるかもしれない”という期待のほうがずっと大きかった。
彼は特別なことは言わない。いや、アピールはめちゃくちゃするけど、、
ナンパなんてお遊び程度にしてきたので、女の子を口説くのは達人だ。だが、彼女には「好き」「付き合って」などとは言わず。あ、いつかは伝えるけど。ただ「おつかれ」と声をかけるだけ。
本を読んでいる彼女の隣に腰を下ろして、数分話すだけ。
彼女に一言、一言、伝えるだけで精一杯だった。
それでも、その小さな一歩が彼にとっては大きな進展だった。
彼女は、相変わらず淡々とした表情のまま。
笑っても、頷いても、ほんのわずかな変化しか見せない。
――けれど、彼はその小さな変化に気づいていた。
自分だけが気づいていて、誰も気づいていない。
ただ「後輩に会いに来た」という言い訳を重ねながら、ほんの少しずつ距離を縮めていく。
彼が恋をしたのは、誰よりも手の届きそうにない彼女。
ここから、不揃いな想いの物語が始まる。




