真面目で優しい婚約者には好きな人がいるみたい。大好きだから、寂しいけど──彼の為に別れを告げます。
子どもの頃から、ずっと大好きだった。
真面目で優しくて、太陽みたいな人……
控えめな笑顔を見るだけで、幸せだった。
最近、目が合わないね。
もう私の事、好きじゃない……?
勇気を出して、私から触れてみたのに、思いきり拒否された。
──やっぱり噂は本当だったんだ。
『ソード=アライブは婚約者がいるのに、聖女を好きになってしまった』
本当は何も知らない顔をして、ずっと一緒にいたかった。
でも曇った表情を何度も見る度に心が萎んでいく。
時間が経てば、元に戻れるかも……
私が努力すれば、きっと彼ももう一度見てくれるはず……
二人で話したくて、部屋へ誘っても断られる。
偶然を装って触れようとしたら、溜息をつかれた。
デートもお茶会も減っていて、最近は一緒にいても、彼は上の空。
寂しい……
自信なんて、とっくに砕け散った。
二人きりを避けられる。努力しても、空いた距離は縮まらない。
本当はなかなか決断できなかった。
もう限界だって認めたくなかっただけ──
でも優しいあなたはきっと自分からは別れを告げない。
あなたの為に私から言うね。
「ソード。私と別れて……」
✳✳
10年前──
『ソード。大きくなったら、結婚して』
『俺とレイラじゃ、身分が違い過ぎるよ』
『そんなぁ……やだっ! ソードがいいんだもん!』
『困ったな……泣かないで、レイラ。ほら、魔法でお花を出してあげる』
空からパラパラと花びらが降ってくる。
『凄い! こんな魔法、見た事ないわ!』
『ふふ。もう泣きやんだ』
ソードが優しく笑う。
幼い頃から、私はソードが大好きだった。
侯爵家の五女とそこの庭師の息子。庭師は男爵家だったけれど──普通なら、家格が違い過ぎて、婚約者にはなり得ない。
お父様とお母様がどこかの令息との縁談の話を持ってくる度、大泣きして、『ソードじゃないと嫌だ』と断固拒否した。食事も取らず、勉強やマナー講座も全部放棄。当時、注意、説得には応じず、一切聞き入れなかった。同じやり取りを何度も繰り返し、両親も疲れきっていたのだと思う。最終的にはあまりの頑なさに、両親が折れる事となる。
今、思えば、我儘で酷い娘だ。
それでもソード以外の誰かと一緒になるなんて、考えられなかった。
『ソードのお嫁さんになる』
幼い私は信じて疑わなかった。
✳✳
卒業まで、あと僅か。
私とソードは卒業したら、すぐに結婚の準備に入る予定だった。
「おはよう、マイレディ。今日も綺麗だね」
馬車で迎えに来てくれた婚約者の手を取る。
この国では珍しい燃えるような赤い髪に、吸い込まれそうな黒い瞳。長い手足にすっかり伸びた背丈。柔らかく微笑む様子に見惚れる。
「ソードも……」
「男に綺麗だなんて褒め言葉じゃないから。今日、僕は生徒会があるんだ。長引きそうだから、レイラは先に帰って」
話しながら、馬車に乗り込むと、膝掛けを手渡される。
「今日は冷えるから、かけておいて」
「ありがとう」
優しい私の婚約者。ずっとずっと大好きな人。
成長したソードは本当に格好良くなった。通るだけで、周りが振り向くような美形だ。ソードは努力家の天才で、アカデミーでは主席。座学だけではなく、剣技まで一番だった。
「ソード。生徒会が終わったら、うちに寄って。私の部屋でお茶をしない?」
「いや、課題が立て込んでいるんだ。ごめんね」
あっさりと断られてしまい、下を向く。
『少しでいいから会いたい』
子どもの時みたいに我儘を言いたい。
ここのところ、二人きりになるのを避けられる。前は馬車で隣に座っていたのに、向かいに座ってばかり。
じっと見ていたら、顔を背けられてしまった。
最近、目が合わないのは、どうしてなんだろう……
不安な気持ちは卒業が近付く度に、大きくなっていった。
✳✳
「聖女アナスタシア様とソード=アライブが難関ダンジョンをクリアしたらしいぞ!」
「うちのアカデミーで過去最下層、かかった時間も最短記録ですって」
卒業前の検定で、ソードからダンジョンに潜る話は聞いていた。
能力に応じて階層を決められ、ソード達のペアはかなり下まで潜ると聞いて、心配をしていたから、無事帰還したと聞き、ほっとした。
安全の為に先生も複数付いていくが、ソード達は自力で試験をクリアしたらしい。
「流石、ソード!」
「俺達、同期の鏡だよな」
「あいつならやり遂げると思ってた!」
盛り上がっているのは、ソードの友人だろう。
「アナスタシア様は回復と攻撃魔法を同時に使ってたんだって!」
「そんな事、できるんだ。初めて聞いた……」
「正に聖女様だな!」
「ソードも凄いよ。剣だけじゃなくて魔法も使える。あんなオールマイティなタイプ、いないって!」
騒ぐクラスメートをぼんやり見つめる。
この世界では回復魔法が使える人を聖女と呼ぶ。アナスタシア様は数千年に一人と言われる程の魔法力を持っていると聞いた。
剣でトップのソードと魔法トップのアナスタシア様がペアになるのは、ごく当然の事だった。
「お! 二人が帰ってきたぞ!」
その場が一層騒がしくなった。
「ソード、おめでとう!」
「アナスタシア様、お疲れ様でした」
「お帰りなさい」
「最強ペアね!」
「二人とも格好良いです」
私もソードに話しかけたい。
でもクラスメートに囲まれている様子を見て、尻ごんでしまう。
その時、アナスタシア様が微笑んだ。その優しい笑顔を見て、皆、見惚れている。
アナスタシア様は姫のような気品溢れる美しい人だ。流れるような輝く金の髪に宝石のようなサファイアの瞳。見る者を魅了する内側から光る美しさ。
クラスメートに褒められ、二人が笑う。それをどこか他人事のように眺めた。
「お似合いね……」
誰かの声が聞こえ、唇を噛む。
そうね。私もそう思うわ……
まるで絵画のように華やかな二人を見ていられなくて、目を伏せた。
最近、こんな噂がある。
『ソード=アライブは婚約者がいるのに、聖女を好きになってしまった』
それまで仲の良かったはずの私と急に距離ができて、アナスタシア様と一緒にいる時間が長くなり、違和感を感じる人がいる。それは仕方ない事だった。
ペアだから親密になるのは当然の事。必死に自分に言い聞かせた。
──頭では理解しているのに、二人を見るのが辛い。
ずっとソードの隣は私だったのに……
苦しくて胸を押さえた。
子どもみたいな独占欲もこの胸の痛みも、消えてなくなればいいのに
──
「……話しかけないの?」
声をかけてきたのは、同じ魔法専攻のライザー=ユニオンだ。私とソードの幼馴染でもある。
「うん。後にしようかな……」
「遠慮する事ないと思うよ。レイラはソードの婚約者なんだし」
ライザーが言ってくれても、勇気が出ない。
「俺がソードを呼んで来ようか?」
「いいの! 本当に大丈夫だから……」
ライザーが心配し、気を遣ってくれているのは分かる。それでも頼る事はできなかった。
視線を感じ、顔を上げると、ソードがこっちを見ているような気がした。露骨に目を逸らされ、気分がどんどん落ちていく。
「先生に報告しなきゃいけない事があるから一度、失礼する」
ソードは皆に告げて、アナスタシア様と一緒に部屋を出て行ってしまった。
まだ『お帰り』も『無事で良かった』も、何も伝えていない。
迷ったけれど、少し考えてからソードを追いかける。
せめて一言だけでも……
「……邪魔しなくて、良かったの?」
「別に」
からかうような口調のアナスタシア様と若干不機嫌なソードは私に気付いていない。
「言っちゃえば良かったのに。『距離が近い』って」
アナスタシア様の言葉を深読みしてみる。
なんの話をしているのかしら……
もしかして、さっき、皆に囲まれた時の事?
ソードは人気者だから……
毎回、討伐や試験の度に囲まれたら、大変よね……
気になってしまい、立ち止まる。
「お前には関係ないだろ」
ソードの言葉にドキッとする。
「何、格好つけてんのよ。ソード。あんた、猫被り過ぎ」
「うるせぇ。黙ってろ」
「図星だからって怒るのはどうかと思う」
「余計なお世話だって。くれぐれも首突っ込んでくんなよ」
ソードの面倒くさそうな声、砕けた口調に驚く。
昔の一人称は『俺』だったけれど、貴族のマナーを学んでからはソードは、いつも自分の事を『僕』と言っていた。
しかも『お前』……
そんなに彼女と親密だったんだ。
地を隠してたって事……?
最近の余所余所しい態度を思い出す。
どうしよう。もし彼が彼女を選んだら……
じわりと目頭が熱くなる。
そんなの、絶対に嫌……!
涙を拭い、そっと部屋へ戻った。
✳✳
私は藁にも縋る気持ちで、なんとなく距離ができてしまっていると説明し、お姉様にアドバイスを頼んだ。
仲良しの旦那様がいるから、秘訣を聞ければ……と。
お姉様の助言は至って、シンプルなものだった。
『抱きつく』
本当かな……
でも私もソードと仲良くしたい……
作戦決行の日、どんよりとした曇り空だった。
ドキドキし過ぎて、胃が痛い。
私から触れたら、ソードはどんな顔をするだろう……
はしたない?
呆れる?
朝から緊張して、ほとんど食べられなかったけど、頑張るしかない……!
「ソード。バラを見に行かない?」
「いいね。見頃かも」
週末、いつものお茶会。二人きりになる為、誘い出す。
いつもは完璧なエスコートをしてくれるけれど──
躓いた振りをして、ソードに抱きつく。
あ……ベルガモットの香り。久し振り……
ソードの腕の中が温かくて、キュンとする。
「こ、転んじゃった」
謝りつつ、離れない。
わざとらしい感じになってしまったが、仕方ない。私は演技などした事がないのだ。
その時、驚く程、勢いよく体を離された。掴まれた肩が少し痛い。
間違えようのない拒絶にショックを受ける。
「……気を付けてね」
触れたのは一瞬。思いきり拒否され、目頭が熱くなってきた。
やめておけば良かった。
目も合わない……
明らかな拒絶に、心が軋んでいく。
ずっと優しかったのに……
勇気を出して、私から触れてみたのに、思いきり拒否された。
──やっぱり噂は本当だったんだ。
「……ご、ごめん……なさい……」
「レイラ? なんで泣いて……」
ソードがハンカチを差し出してくれたけれど、もう取り繕えなかった。目元を拭うが、涙が次から次へ溢れてきた。
何も言い訳をせず、その場を逃げ出した。淑女らしくなく、無心で走る。
「待って! レイラ!」
ソードが追いかけてきてくれたけれど、どんな顔をすればいいのか、分からない。
嫌われた……
ぐるぐる考えながら、ひたすら走る。しかし足の早いソードから逃げ切れるわけもなく、腕を掴まれた。
「ごめん。今のは……」
苦しそうにソードが呟く。
「……」
「ちょっと……驚いただけで……」
その時、ソードが前髪をかき上げた。
昔から変わっていない、ソードの嘘をつく時の癖だ。
驚いたからではない。つまり──
「ごめんね。朝から頭が痛くて……今日はそろそろ帰るね」
今は何も聞きたくない。
体調不良を言い訳にすれば、それ以上は引き止められなかった。
覚悟をした方がいいかもしれない……
✳✳
次の日、顔を合わせ辛くて、アカデミーでも彼を避けていた。
これではいけないと、昼食時、待ち合わせの中庭に行こうとするが、足が進まない。
多分、ソードは私を待ってる。
一緒に食事をしないにしても、きちんと断らなくちゃ……
両頬を叩き、自分に括を入れ、角を曲がった。
「ソード、あんた、可愛いところもあるのね」
その声を聞いて、ピタリと足を止める。
アナスタシア様の声だ……
「しつこい。絡むなって」
「いいじゃない。教えてよ」
「なんで、お前なんかに」
「お前なんか? 聞きづてならないわね! 電撃をお見舞いするわよ?」
「やめろ。洒落になんないから」
ダンジョンの課題は終わったから、ペアは解消したはずなのに、またアナスタシア様と一緒にいる。
楽しそうな会話が聞こえ、目を伏せた。
そこは私の場所だったのに……
取らないで……
悲しくて辛くて、声が出ない。
「じゃあ、どこが好きなのか教えて」
アナスタシア様が楽しそうに微笑む。
「……」
「何、照れてんのよ。男ならちゃんと言って」
「……笑顔」
照れくさそうに彼が言う。
子どもの頃、ソードはたくさん私に『好き』という言葉をくれた。
最後に言ってくれたのは、いつだっけ……
思い出すのは、最近のソードの困った顔と横顔ばかりだ。
──ずっと認めたくなかった。
ソードの気持ちが離れているって……
ボロボロと涙が零れ落ちる。
前は私が泣くと、ソードは涙を拭いてくれたり、抱きしめたり、手を繋いだり、魔法を見せてくれたりした。
もう、どれもしてくれない……
泣いてもソードは隣にいないから……
泣きながら廊下を走った。溢れて溢れて止まらない。
……どうして。
私の何が駄目だった?
言えない言葉を飲み込む。
このまま結婚できたとしても、きっとお互い幸せにはなれない。
それでも揺らいでしまう。
傍から見たら、滑稽だったに違いない。とっくに気持ちが離れてしまっているのに、必死に繋ぎ止めようと、藻掻いているなんて──
人とぶつかってしまい、よろけて転びそうになった。
「す、すみませ……」
「レイラ?」
声をかけられて、がっかりした私は酷い。
その人はソードではなかった。
「ライザー」
「ど、どうしたんだよ。そんなに泣いて……」
ライザーは私の様子を見て、戸惑っていた。
✳✳
毎日、泣いてばかりいる。
あれから、ソードと私の間には距離ができてしまった。忙しかったのもある。それより気まずくてソードとは碌に話していない。ソードから決定的な事を言われるのが怖くて、避けてしまっていたからだ。
気が付いたら、笑顔どころか、会話すらなくなってしまっていた。
私が黙っていれば、このまま彼は私と結婚するだろう。
貴族なら誰でも知っている。
婚約解消は家格が下の場合、言い出す事すらできない。相手側が女性であれば、尚更。
うちの方が家格が上。ソードには拒否する権利もないんだ。
婚約解消はどんな円満な理由だったとしても、避けるべきだと言われている。一度、結婚に失敗した場合、傷物として、その後は一切、縁談が来なくなる。
そうなると分かって、優しいソードが踏み切る訳はない。
多分、ソードは自分の気持ちを押し殺して、私と結婚するはずだ。
愛がなくても……
他に好きな人がいても……
──それでもいい。
ソードの側にいたい。
なんて傲慢なんだろう……
冷静になればなる程、虚しくなってくる。
✳✳
忙しくなり、会えない日が続き、とうとう卒業の日を迎えた。
ソードは会いに来てくれていたけど、私は覚悟が決まらず、先延ばしにしていた。
ソードが一緒に選んでくれた青いドレスに身を包み、ソードから受け取ったサファイアのネックレスとイヤリングを着け、赤のルージュを引いた。
──もう潮時だ。
愛のなくなったこの婚約を解消しよう。
「レイラ。綺麗だ。ドレス、似合ってる……アクセサリーも」
エスコートに来てくれたソードは、まるで王子様みたいだった。
「ありがとう」
貰った宝石と同じ青い瞳を見つめる。
久し振りに目が合ったね……
もう十分だ。
最後位、笑顔でいたい。
あっと言う間に卒業の式典もパーティーも終わり、今夜は晩餐に招待されている。夕方、両親と一緒にアライブ家を訪れた。
「二人共、卒業おめでとう」
「結婚式まで後一年だから、準備を頑張らないとね」
「早くお嫁に来てほしいわ」
「うちは少し寂しくなるなぁ」
お互いの両親が和やかに話す中、黙々と料理を口に運んだ。
流石にこの場では言い辛い。
後でソードを庭の散歩にでも誘って──
✳✳
「レイラ。俺の部屋でお茶をしない?」
食事を終えた後、両親はお酒を飲むらしい。ソードが緊張した面持ちで伝えてくる。
あんなに二人きりになるのを避けていたのに……
「ええ」
顔に出さず頷くと、ソードは安堵の表情を見せた。
普通、結婚前の男女が部屋に入るのは、タブーだ。でも幼い頃から兄妹のように育った私達は咎められる事はなかった。
久し振りのソードの部屋は慣れ親しんだベルガモットの香りがした。
カーテンもベッドカバーの色も変わっていない……
懐かしくて切なくて、泣きそうになる。
メイドはお茶を準備すると、部屋から出て行った。
顔を上げると、ソードが口を開いた。
「今日はこの前の事をちゃんと謝りたくて」
「この前?」
「その……レイラが転んだ時の……」
ソードが言い難そうに伝えてきた。
「ソードは何も悪くないわ」
「いや、俺が──」
「私も話があるの」
「え?」
声が震えてしまいそうになり、深呼吸する。
──言いたくない。
ずっと、このまま一緒にいたい……
アナスタシア様と一緒に笑っているソードを思い出し、深呼吸した。
久し振りに見たソードの瞳は、少し不安げに揺れている。
大好きなソード……
本当は何も知らない振りをして、ずっと一緒にいたかった……
あなたが笑ってくれなくなって……
ずっと寂しかったの……
これまでの事を思い返すと、決心が鈍るけれど──
私の我儘で無理矢理結んだ婚約だから──
「婚約を解消しよう、ソード」
なんとか口にすると、その場が静まり返った。
二人きりを避けられる。
努力しても、空いた距離は縮まらない。
望んで言うわけじゃない。本当はなかなか決断できなかった。
もう限界だって認めたくなかっただけ──
でも優しいあなたはきっと自分からは別れを告げない。
あなたの為に私から言うしかないんだ。
「ソード。私と別れて……」
「…………は?」
返事が返ってくるまでに長い時間がかかった。
「あなたを解放するわ」
「解放? 今、なんて?」
「ごめんね。小さい頃、無理矢理婚約させて……今までで言えなくて、ごめん……」
言いながら涙が溢れてくる。
「なんで……君の望む優しくて真面目な男だっただろ? どうして」
ソードは動揺しているように見えた。
「本当に好きな人と幸せになって」
「好きな人? 一体なんの話を……」
聖女様の相手ともなれば、誰でも許されるわけではない。ただ男爵家ではあるけれど、アカデミーの主席だから、ソードなら、きっと許可も下りる。
「アナスタシア様が好きなんでしょ?」
「え!?」
「『笑った顔が好き』って言ってた」
「……ああ。あれ、聞いてたの……あれは……その……」
ソードの頬がほんのり赤くなり、余計苦しくなる。
そんな照れた顔、初めて見た……
これ以上、聞きたくない!
「ソードは私の事、好きじゃない。触れるのも避けてる」
泣きながら訴えると、ソードは少し怒った顔をしていた。
「……俺が好きなのは、レイラだよ」
「そんな嘘、いらない」
「嘘?」
「もうこれ以上は無理なの。私──きゃあ!」
肩を押され、突然景色が反転する。何が起きたかわからず、言葉に詰まる。
目の前にはソードの顔があった。頬を撫でられ、あまりの近さに驚く。私はなぜかソードにソファへ押し倒されていた。
「怖がらせたくなかったんだ。大事にしたいのに……俺だけのものにしたくて……君の望むような優しい男でいたかった」
「……え?」
「レイラの隣に立って恥ずかしくないように、勉強も訓練も、苦手なマナーやダンスも人一倍努力した。聖女はただの戦友だし、俺がレイラにベタ惚れな事も知ってる。あいつにも男いるし、いつもお互いに惚気話したり、悩み相談してただけ……中庭で言ってたのは、レイラの事だ。……言うつもりなかったんだけど、ライザーの前で泣いてただろ。すげー妬いた。あれ、なんで泣いてたの? それに距離も近いし……」
切羽詰まった表情で告げられ、言葉を失う。
その事実を知り、ただ狼狽える。
ソードも私の事、ちゃんと好き……?
「……あの時はソードが……アナスタシア様を好きなんだと思ったら、苦しくて……」
その時、唇が重なって、死ぬ程、驚いた。
「俺にはレイラだけ……」
ソードが自分のシャツのボタンを外し、混乱する。
部屋には二人きり。当然、誰も止める人はいない。
「ソ、ソード? 何を?」
「……俺の事、好き?」
熱を帯びた声を聞いて、戸惑う。
「も、勿論よ。子どもの頃からソードだけ……」
心臓が壊れそうな位、忙しない。
でも、なんとか言えた……
「嬉しい……俺も……レイラが好きなんだ……」
優しく抱きしめられ、耳元で囁かれた。
ソードの甘い声にクラクラして、それ以上、何も考えられなかった。
✳✳
次の日──
「結婚前に申し訳ございません。愛しい気持ちが抑えきれず、レイラと夜を共にしました。式を早めたいと思います。どうか、許可を」
ソードが隠す事もなく真顔で、お父様とお母様、ソードのご両親にお願いをするものだから、恥ずかしくて身の置き場がなかった。
その話を聞いた全員、赤くなりながら苦笑い。でも笑顔で了承してくれた。
でもソードは昨夜何度も『好きだ』『レイラだけ』って言ってくれた。
思い出して、キュンとする。
ドキドキしながら手を伸ばしてみると、ソードは照れながら手を繋いで笑ってくれた。
【END】
いつか、こういうの書きたいな的な昔のネームを久しぶりに見て、衝動的に書きましたw
星の評価で応援してくださったら、嬉しいです。
もし年齢が大丈夫で、苦手ではない方は、R18の番外編があります。
良かったら、ムーンライトノベル様の方へ遊びに来てください!
お手数ですが、ムーンライトノベル様から、同タイトルで検索をお願い致します。




