第89話 ぶん殴ってくれ
【愛華視点】
今日は文化祭の出し物を決める日
二先生が「誰か実行委員の立候補者いるかー?」
と聞くが若干シーンとした沈黙の中
「ほぁい!!」と元気よく紅葉さんが手をあげる
あぁもう嫌な予感しかしない
「んー誰もいないか〜」
「先生!あたし!あたしいるよ!!!」
「いないんなら文化祭は何もなしっつーことで」
「あ゛だじいるよ!!!」
「わーったわーった、じゃあ紅葉後よろしく」
二先生はそう言って紅葉さんを教壇に立たせ
もう仕事はない、と言わんばかりに椅子に座って居眠りを始める
「はい!じゃあ誰かやりたいことあるかな?」
皆次々にたこ焼きや唐揚げなどの屋台や
何か作っての展示とかどうか、と話が盛り上がる
正直、文化祭を回る時間さえあればなんでもいい私はボケーッと話半分に聞く
「ねえねぇ、あたしも提案いいかな、劇とかどお?」
みんなが盛り上がってる中、紅葉さんが1つ案を出す
「劇って…具体的に何するの?」と聞かれ
紅葉さんはフッフッフ、と不敵な笑みを浮かべる
「ありきたりかもしれないけど、シンデレラ!それでね、王子様に一色ちゃんとか愛華ちゃんとかどおかなぁ〜って!」
その言葉にクラスの皆の視線が一斉にこっちに向く
「それだったら見たいかも……」と皆がざわつく
一色さんは確かに似合いそうだな
アイカッテダレダロウワカンナイナァ
「…あ?ウチ?なんで?」
「似合いそう!!!」
「誰がそんな面倒な事するかよ……」
「え〜じゃあ愛華ちゃんやってくれる?」
「愛華ちゃんって人が誰かわからないなぁ」
「いやいや、反応してる時点で分かってるじゃん」
バレた……よしここは
「一色ちゃんの方が適任だと思うよ」
これで逃げる
「愛華の方がいいだろ、皆の王子様らしいし?」
何それ初めて聞いた
「それ本当に愛華ちゃんって人?きっと違う人だよ」
あまりにやりたくなくてとぼけてると
仕方ねえな、と一色ちゃんが立ち上がって
王子様役に一色ちゃんの名前を書く
割と自分は芝居が上手いことが分かって満足
王子は嫌だけどモブならやってもよさそう
というか姫役は誰にするつもりだろう
「じゃあ姫役は誰がいいかな〜♪」
と紅葉さんが周りを見渡してると
一色ちゃんはそのまま勝手に姫役やら色んな役に名前を書き始める
姫役……紅葉さん?
「ちょ、一色ちゃん、なにしてんの」
「お前が無理やりウチにこんな役をさせるなら、お前も責任もって主役しろ」
「え〜!!?あたしは1番あってない気がするけど!?」
「知るか」
紅葉さんは「出来るかなぁ」と不満げにしてるが
何故か私は意地悪な姉役の所に置かれていた
確かシンデレラが王子のとこ行く前に虐めてた人だよね?
「一番合ってなさそうなとこに愛華を置いて王子役断ったの後悔させてやる」
なんかごめん……断れる雰囲気でもないし……
人に意地悪したことないんだけどなぁ……
身近にそんな人…………あ、いた
「ねぇ、ちょっと試しに演じてみてもいい?」
「お、いんじゃね、そこの寝坊助先生にやってやれ」
私は先生にべし!と強めにおでこを叩いて
「んあ?もう終わった?」と寝ぼけてる先生に
人差し指を突きつける
意地悪に…意地悪に……
「おはよう〜まともに会議も行かない雑魚で無能な先生?」
「おーっとっとっと???」
「すぐに状況把握出来ないとか、どんだけ頭よわよわなの?やっぱり僕が見てないと何も出来ないね!」
僕、と言う一人称でもしかしたら気づかれたかな
榎木さんの喋り方を真似してみた
正直こんなこと言ってたかな…とは思ったけど
まあよしとしよう
後ろで笑い堪えてる一色ちゃんの声が聞こえたけど気にしない
先生は目をパチクリして私を見た後
黒板の役の方を見てようやく理解した顔をし
私の両肩を掴んで耳打ちをしてきた
「ちょっとこういう愛華もいいなって思った私をぶん殴ってくれ、頼む」
その後後ろで聞いてた一色ちゃんの笑いのツボが収まらず
結局その日は終了した
……今度もうちょっと練習して先生にやってみようかな…
【作者から一言】
今回の終編から、色んなキャラの固定概念を和らげようと色々した結果
やけに色々乗り気な愛華が見れて個人的には嬉しいです
でもこれ微笑ましく見れるかもしれませんが
恐らく中学のトラウマから引き出された言語なんですよね…
もう解決してるとはいえ、この子のメンタルどうなってんの…




