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第1章 殺戮同居 - 3

 ドアを開けた。びっしょり濡れた少女が戸口に立っていた。予想通りさっき路地に倒れていた少女だった。少女の視線は素っ裸で現れた明宏を無表情にいちべつし、彼の目とかち合って止まった。


「何だ?」


 明宏は無表情に聞いた。少女の冷たい顔が歪んでしくしく泣き始めた。


「お、おじさん……悪いおじさんが追いかけてくるの、助けて……」


 母性本能をくすぐる演技だ。感心するほどの人格変身だがあまりにも露骨だった。本気で騙そうと思うならそこまでわざとらしく演技をしないだろう。


「誰に追われてるって?」

「あ、うーん、だから……さっき公園で…あ、見たの……あるおじさんが死ん、死ぬのを……怖くて逃げようと思ったら目が合ってしまって……」


 仮想の殺人犯を作り上げた少女が最後の言葉を濁した。


「それで道で倒れていたって?」

「えッ?そ、そう……助けて、私をかくまって」


 こいつは何でこんなしょうもないことをするのか?全然つじつまが合っていない。


「ベルを鳴らして10分も過ぎたのに悪いおじさんはどこなんだ?」

「こ、怖いの。お願いだからかくまって」


 特にいう事も無いからはぐらかしているのか?イラついて息が詰まりそうだ。


「めんどくさいな、いい加減にしろ?一体どういうつもりなんだ?」

「え?ひどい。私は今、身の危険を感じているのに……なんでそんなに冷たいの?」


 話しぶりは子供だが子供らしくない話をしている。


「その男を殺したのはおまえだろ……」


 周辺に雷が落ちたのかぴかっと閃光が走った。少女は大げさな演技をして後ずさりした。


「わ、私みたいな子供がどうやって大人のおじさんを殺せると思うの?……犯人が後ろから襲って首を切りつけたんだから」


 本当に恐怖に怯えているならあんな風に分析された言葉が次々に出てくるはずがない。少女はその会社員を殺した。どうやって殺したのか?というクイズを出しているのだった。少女の背は大体130センチ。殺害された会社員は相当背が高い方で175センチ。いくら頑張っても少女の背だと会社員の首にナイフを当てられない。


 明宏は答えが当たり前過ぎてむかむかしてきた。相手にするのも面倒でドアを引っ張った。だが何か引っかかって閉まらなかった。腕ほどの太さの角材がドアの隙間に挟んであった。この角材はいつ準備したんだ?


「あ……無視するの?」


 少女がアカデミー女優主演賞を総なめするような表情で言った。


「普通なら、子供が大人を殺せない、お前が普通の子供だったらな……」

「な、何のこと……?」

「それを話したら帰るか?」


 少女は頷いた。


「おまえの演技はなかなかなものさ。でもめちゃわざとらしい。笑う価値もないほどだ…。だがおまえが殺人魔ということを知らない間抜けな一般人なら話が違ってくる」

「……」

「公園の防犯カメラの死角を利用して遊び場で倒れていればいいんだし。そこを通りすぎる大人なら雨の中で倒れている子供を見てそのまま通り過ぎることはない。おまえを発見した大人はひとまず救急車を呼ぼうとする。そこでおまえは『寒い』とか言ってなんか具合の悪いふりをすればいい」


 的を付かれて、演技する必要がなくなってこわばっていた表情が解かれた。


「会社員は少女の居場所を移そうとおぶったはずだ。抱いて移動させることもできるが、傘を差すためにはおんぶしかなかっただろう。おんぶされたら小さな子だって十分に大人の首を切りつけることができる。おまえは右手に持った凶器で男の左首を切りつけた。後は俺の下校時間に合わせて、人があまり通らない路地に倒れていればいいんだ」


 言い終わると明宏は角材を足で押しのけてドアを閉めようとした。だが今度は少女の手が直接ドアの隙間に滑り込んできた。


「聞いたら帰るんじゃないか?」


 少女はそれに答えず明宏をじっと見上げていた。何か言いたげそうで明宏はちょっと前の忘れていたことを思い出した。


「おまえは、山荘でカップルを殺した奴なんだろ?」


 少女が眉を寄せてきた。


「……何の事?」

「手口が同じだ。会社員を殺した手口でカップルも殺したんだな?」


 雨音が静かに聞こえる。


「おまえの目当てはこれだろ?」


 明宏が紙の片端を持って少女の目の前で振った。その紙は少女が書いた偽の遺書だった。


 〈山荘の殺人魔がこんな面倒な奴だとは……〉


 少女は偽造した遺書を書いてカップルを自殺に見せかけようとした。だがそれを盗まれて計画がこじれてしまったのだ。誰かの計画を台無しにしてしまう楽しみ。明宏はこれを楽しみたいだけだったのに、反って危険な奴を呼び寄せる羽目となった。


「コピー本はないからな。さっさと持ってけ。それからもう俺にかまうなよ」


 少女が偽の遺書に手を伸ばした。その時、遺書を掴もうとする少女の手から炎が上がった。明宏は一瞬、燃えていく紙を何事もなかったように置いた。燃えくずが廊下に落ちた。


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