表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星を探して

作者: 顎歌

その日は、なんてことない青い快晴の空が広がる日でした。雛は、今日も風が心地よく吹く草原で寝転がってボンヤリと空を眺めていました。


「あぁ、今日も空は遠いな。あの雲とかふわふわして気持ち良さそうなのになぁ。」


雛は腕を空伸ばしますが

こんな小さな羽では、届くわけもなく空を切り緑の芝生に落ちました。


「まぁでも、この芝生も触っていて気持ちがいいし、風も吹いて涼しいからいっか。」


そんな風に

またボンヤリと空を眺めていました。


そうして時間が過ぎ

空の色が雲を橙に染めた頃、いつの間にか眠っていた雛は、頬を突かれて起こされました。


頬を突いていたのは、雛の身体の倍以上ある大きな鷲でした。


「やぁ、雛。今日も空を見ていたのかい?」


ギロリとした怖い表情からは

考えられないぐらいの高い声で鷲はいいます。


「そうさ、空は遠くて広くて好きだね。」


雛がそういうと鷲は首を傾げます。


「そんなにいつも空を見ていて大好きなら飛んで見ればいいじゃないか。こんな風に」


鷲は大きな羽を広げて羽ばたく

真似をしました。


雛は首をゆっくりと振り

自分の羽を見つめていいます。


「見てごらん。鷲と違ってこんな小さな羽じゃ飛べるわけがないだろう?それに空と同じぐらい芝生の感触も好きなのさ。」


鷲は納得がいってないようで

難しい顔をしました。

それからまた風の音が

雛と鷲の間を抜けていきました。


「そうだ!!雛、背中に乗れよ!!」


静寂を切り裂いた鷲は大きな声で嬉しそうに

雛に言いました。


「鷲、急にどうしたんだい?」


いい案を思いついたんだ。と子どものような眼をした鷲は雛に提案します。


「雛がここから見ている空も確かに綺麗だけれど、この空は、何百何千の空の景色の一つに過ぎないんだ。雛にその景色を見せてあげるよ。だから乗ってみ!!」


ほら、ほら、と雛が考える隙もなく鷲は

くちばしで雛を捕まえ、背中に乗せました。


「ほら行くぞ!!しっかり捕まって!!」


鷲は大きな羽を天高く広げて芝生を蹴って飛び上がりました。


「え、ちょっ、まっ」


ぁぁぁあぁああ


芝生にいた時の数倍の風が身体に当たって

雛はしがみつくのに必死になりました。


しかし、その風は一瞬で止み

鷲が声をかけてきます


「雛、見てみぃ。ここが空さ。」


雛は、ゆっくりと目を開けました。


そこには、見たこともない美しい

橙色の海と藍色の空が

広がっていました。


「なんだ、これ。空の上に橙色の海があるなんて。」


雛の口は、空きっぱなしです。

鷲はそんな雛の顔が可笑しかったようで

吹き出します。


「海か、ある意味そうだな。でもちょっと違うんだよ。雛、これは雲さ。ここは雲の上なんだよ。」


雛は、今日一番の大きな声で驚きました。


「雲!?雲って、あの雲かい?」


「そうさ、触ってみてよ。」


鷲はそう言って身体を傾け

螺旋状にゆっくりと雲に近づいて行きます。


雲スレスレの所で止まり、雛の前には海のような雲が広がっています。


雛は、恐る恐る羽を雲につけました。


「冷たっ!!」


キーンと冷えた冷たさに雛は、羽を畳みます。


その様子を鷲は、また笑いました。


「ハッハッハ!!どうだった?初めての雲の感触は?」


雛は、感じたことをそのまま言葉にしました。


「冷たいし痛いし、ふわふわしてない。なんか、触った感触がないよ。雲。」


そんな雛の反応に鷲は嬉しそうです。


「そりゃそうさ。雛、雲の正体はね、水蒸気っていって小さな水の粒の塊なんだ。」


「えっ?んじゃ雲って水なの?面白い。」


「そう、目に見えないぐらいの小さな水の塊さ。だから雛が海っていったことも、あながち間違いじゃない。」


雲が水であって、水が宙に浮くなんて

そんな魔法みたいなことが空にはあると知り

雛はワクワクしました。


「ねぇ鷲。他にもっとないの?

空の面白い所!!」


「そうだなぁ、じゃあこのまま星まで飛んでってしまおうか?」


鷲は、冗談っぽく言いました。


「星?なにそれ?!面白そう!!」


雛は興味津々な様子です。


「そうか、知らなかったか。んじゃ教えてあげよう。」


ごほんと少し誇らしげに咳をした鷹は

ゆっくりと語り始めました。


「あの藍色の空に黄色い光が点々とあるだろう?あれが星さ。」


「あー、あれなら見たことあるよ。夜になると出てくるちっこい点々の奴でしょ?なーんだ、それぐらい知ってるよ。」


「そうか、それじゃ君と私が生活しているこの場所も星だって気づいていたかな?」


雛は笑いました。


「それは、嘘だね。だって僕たちがいる所は黄色くないしそれにあんなに小さくないよ。」


鷲のからかいを跳ねのけてやったと、雛は胸を貼ります。


「あの星が黄色く見えるのは、太陽の光が当たって黄色く見えてるのさ。雲が橙になるのも太陽のせいさ。」


「それに小さく見えてあの星はもの凄く遠くの場所にある。だから実際の大きさは、僕の何千億倍もの大きさだ。僕たちの星もあの星から見れば、とてもとても小さく見える。」


雛は、鷲の話がとても現実の話だと

信じられませんでした。


そんな雛の様子を感じ取ったのか

鷲が言いました。


「行ってみるかい?星へ行くには、宇宙っていう暗い空を果てしない時間を掛けて飛んで行かなきゃいけないけれど……」


雛は迷いました。

何を隠そう雛は、暗い所が怖かったのです。

そんな怖い場所で果てしない時間を過ごさなければならないのだから行きたくなくなるのも無理ありません。


「鷲の話はとても気になるけど、暗いのが怖いから辞めとくよ。もうすぐ夜だし、ここまででも充分、楽しかった。ありがとう、鷲。」


このまま今日の楽しい思い出を持ち帰って

楽しい夢を見て寝よう。雛はそう思いました。


そんな帰る気満々の雛に

鷲はこう言いました。


「雛が暮らしてる所に来る前の話。僕も怖がりだったんだ。飛ぶのも住処から離れることすらも初めてのことはみんな怖かった。でもある時、人間っていう羽のない旅をする動物と出会って仲良くなった。その人間って奴がよく言ってたんだよ。」


「散歩とか旅ってさ、絶対、誰も通らないでしょっていう山道やちょっと薄暗くて怖い道でも歩いてみれば、その先に知らなかった凄く綺麗な景色があったりするんだ。」って


鷲が話始めると風がピタッと止みました。


「言ってること自体は、僕にはよく解んなかった。でも意味は解った。やってみなきゃ本当に怖い物かなんて分かんないって言いたかったんだ。」


雛は、宇宙の先の星の景色を見ている自分を想像して見ました。そこに居たのは、不安もあるけど雲の話を鷲に聞いたときのようにワクワクしている自分でした。


「それからビビりながらちょっとずつ新しいことをやってみたんだ。そしたらいつの間にか怖いじゃなくてワクワクが勝つようになってた。」


「雛だっていつかきっとそう思える日がくるはずだよ。だって、今日、空を飛んでみたら面白かったでしょ?」


雛は、自分の胸に宿ったワクワク感を思い出して頷きました。


それを見て鷲は安心したように言います。


「僕は、まだ星に行ったことはないけれど、暗がりを抜けた先の星は、きっと空よりも綺麗なものだと思うんだ。」


「だから、雛。僕はこのまま星へ旅に出ることにした。今、決めた!!」


そう言って、鷲は身体を傾け

雲へと急降下しました。


雲の中はやっぱり冷たいと雛は思いました。


雛の住む家が見える頃には、もう辺りは

真っ暗で草木も安らかに眠っていました。


鷲は、雛をそっと下ろすと


「この決断は、今日、雛と空を飛んだから出来た。

ありがとう。またね。」


そう言って

星が輝く宇宙へ旅立っていきました。


その飛んでいった跡が星と星を繋いでいる

道みたいで雛の記憶に深く刻まれた景色となりましたとさ。


雛が見つけた星のことは

また別のお話で。

読んで下さってありがとうございます。


散歩が趣味な俺が言いたいこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ