7 二人の思い
バーコードンが遠い目をして話し始めた。
「今からちょうど50年前、私が8歳のときに故郷が帝国に併合されてね。戦火で故郷は焼け野原。両親や兄弟も失った。ほんと苦労したよ。その後、食べるために帝国内務省の職員になってね。様々な地区で目の前にある仕事をこなしてきた」
バーコードンがグラスを手にとった。ワインのような飲み物を見つめる。
「だが、年齢的に最後の任地になるこの第36区に来て、あの破壊され尽くした街並み、ミャウ族の現状を目にすると、どうしても自分の子どもの頃を思い出してね。あの飢えている子どもたちのために、食費や医療費を少しでも捻出できないかなと思ったんだよ」
バーコードンは、ワインのような飲み物を飲み干すと、グラスを置いてセミロンを見た。セミロンが話し出す。
「私は、帝都の出身なんですが、兄を戦争で失ってから、裏で反戦運動を続けていたんです。もちろんバレれば殺されます。それがバーコードン補佐にバレちゃいまして……死を覚悟しましたが、補佐はそれを黙ってくれました。そして、今回の裏金作りを一緒にしないかと相談を受けたんです」
「戦争で苦しむのは帝国臣民も相手国民も同じです。私は快諾しました。ですが、私も補佐も、裏金作りのノウハウがありません。そこで、庶務係で進めていた会計業務改善プログラムの助言指導を受けるという理由で、任期付召喚職員の採用に漕ぎ着けたというわけです。人事課との折衝はほんと大変でしたし、条件に合う魂が見つからなくて苦労しましたが、こうしてワタルさんに来て貰って良かったです」
そういってセミロンは笑った。ワタルは2人の話を聞いていて少し涙目になりながら話した。
「皆さんは、そんな本当にお辛い経験をされているんですね。僕は、長く平和な国で、上司の私利私欲のため裏金作りをしていただけですが、その経験が少しでも皆さんのお役に立てれば……頑張ります!」
ワタルは一礼した。どうもこの世界には「お辞儀」はないようだが、2人はワタルの気持ちを察してくれたようだった。
「ありがとう、ワタル君、明日からもよろしく!」
「ワタルさん、よろしくお願いします! 一緒に頑張りましょう」
3人は改めて乾杯した。
続きは明日投稿予定です。