6 歓迎会
その日の夕方。ワタルは、バーコードンの自宅へ行くことになった。この世界に慣れていないワタルは、当面の間、バーコードンの居室に居候することになったのだ。
今晩はワタルの歓迎会を開いてくれることになり、セミロンも同行することになった。
ワタルは、初めてこの世界の外に出た。今までいた第36区の庁舎は、現代の日本にあっても違和感のない高層ビルだ。一方、庁舎前の街並みを見て、ワタルは息をのんだ。
破壊し尽くされた街。穴だらけの石畳の通りの両側には、瓦礫を避けて掘っ立て小屋が並んでいる。通りでは、ネコそっくりの姿をした人たちが行き来していた。まるで長靴をはいたネコ、銀河鉄道の夜のアニメのようだ。
所々で、ネコそっくりの姿をした子どもが物乞いをしていた。道端で動かなくなっている子どももいたが、誰も構おうとしない。
「第36区は、もともとミャウ族の国だったんだがな。あの美しい街並みに戻るには何年かかるんだろうな」
バーコードンが周りを気にしながら小声でワタルに話した。
庁舎から5分ほど歩いた先に、厳重に警備された立派な宿舎があった。周りの掘っ立て小屋との差が著しい。バーコードンが守衛に身分証を見せて中に入る。
一行は宿舎内の売店で食料を買った後、バーコードンの居室に入った。セミロンの居室は一つ下の階だそうだ。
「お疲れ様、適当に座ってくれ」
ワタルとセミロンは、ダイニングの4人掛けテーブルの椅子に並んで座った。程なくして、バーコードンがお皿に載せた様々な料理と、ワインのような飲み物を持ってきて、ワタルとセミロンの向かいに座った。
バーコードンがワタルに聞く。
「この飲み物には酒精が含まれている。ワタル君の今の身体に合わなければ言ってくれ」
「分かりました。ご配慮ありがとうございます」
ワタルはバーコードンやセミロンの所作を真似して乾杯した。味はまさにワインだった。少し飲んだ限り、身体は子供だが、お酒は特段問題なさそうだ。
庁舎もそうだったが、宿舎の建物や調度品は、現代の日本と変わらない。一方、先ほどのミャウ族の破壊された街並みを見ると、元々は石造りの家々が並んでいたようだ。地域によってかなり格差があるのかもしれない。
「……それじゃ、ワタルさんは、向こうの世界では我々と同じ会計課の職員だったんですね」
「ええ、そうなんです。まさか異世界に来て、役所の会計課で働くとは思いませんでした。しかもまた裏金作りに手を染めることになるとは……」
「申し訳ない! まあ、これも何かの縁だ。よろしく頼むよ」
などと雑談をしていたが、ワタルはずっと気になっていたことをバーコードンに聞いた。
「そもそもバーコードンさんたちは、どうして不正を働いてまでこの地区の人たちを助けようと思われたんですか?」
「……実はな、私も彼らと同じような経験をしたことがあってね」
バーコードンがグラスをテーブルに置き、話し始めた。