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5 悪知恵

「そもそも帝国の会計制度ってどうなっているんでしょうか?」


 ワタルが長机の向かいに座るバーコードンとセミロンに聞いた。制度が分からなければ裏金も作れない。

 バーコードンが説明してくれた。


「ワタル君がいた世界と似ているはずだ。そういう条件で召喚しているからな」


「そうすると、一定の年度を区切って予算が編成され、各部署に予算が配賦された後、その予算の範囲内で、積算→契約等の締結→契約等の履行確認→支出決定→支払、という流れでしょうか」


「そのとおりだ」


「一連の流れは、複数の係に分けて実施されているのでしょうか」


「そうだ。契約係と支出係が分けられている」


「お金や支払の管理はどのようにされているのでしょうか」


「国庫金は帝国財務省と帝国銀行が管理していて、各部局の支出決定に基づき、帝国財務省が帝国銀行に指示して支払っている」


「監査はあるんでしょうか」


「会計課の内部監査と、監査課による監査、あと帝国検査院の検査を受けることになっている。ただ、会計課の内部監査は、庶務係の担当だから、考慮不要だ」


 やはり、日本の官庁会計と似ているようだ。別世界で似たような制度設計がされていることに、ちょっとだけ感動した。皆考えることは同じなんだろうか。


 ワタルは質問を続けた。


「例の件なんですが、この世界では過去にどういった手口が行われているんですか」


「私の知っている限りでは、窓口で受け取った現金を収納せずに別途経理するという手口だ。ただ、納入者からの問い合わせですぐにバレてしまうらしい」


 思ったより裏金作りの手口は発達していないようだ。この世界の人は善良な人が多いのかもしれない。いや、逆に自分がいた世界が悪人だらけだったのだろうか。


 この世界に来るまでは、不正経理に関与することが本当に苦痛だった。辛くて辛くて仕方がなかった。でもこの世界では、その辛い経験が住民の役に立つかもしれない。


「分かりました。では僕がいた世界の役所の手口である『預け』ができないか検討してみましょうか」


 そういってワタルは笑った。前向きな気持ちで裏金作りの話をしている自分を可笑しく感じた。



† † †



「預け? 何を預けるのかね?」


 バーコードンが不思議そうに聞いてきた。ワタルがにこやかに答える。


「僕のいた世界と似たような会計制度だとすると、一連の会計手続の中で書類の金額等を偽造して国庫から不正な支出を引き出すことは極めて困難です。ほぼ100%どこかの段階でバレます」


 バーコードンとセミロンが同時に(うなず)く。ワタルは説明を続けた。


「ですので『正規の会計手続』で支出して、その支出したお金を業者に預けて別途経理するんです」


「例えば、物品を購入する契約を締結して、契約の相手方に実際に代金を支払います。その上で、物品は納入させず、支払ったお金を業者にプールして、後で別のことに使うという訳です。業者にプールする以上、裏金の使用はその業者経由に限定されますが」


「なるほど。支出後の操作だから、支出前までの役所側の書類に不備はないということか。だが、物品を納入させないとなると、その物品がないことでバレるんじゃないか?」


 バーコードンが聞いてきた。もっともな疑問だ。ワタルが頷きながら答える。


「おっしゃるとおりです。その点については、主に消耗品で対応することになるかと思います。監査の際には、消耗品はすでに使用してなくなったと説明するのです。納入確認書は、どうしても虚偽になってしまいますが、それ以外の役所側の書類は、完璧に整います」


「いやー、よくそんな悪知恵が働くな……あ、いや、申し訳ない」


「いえ、僕も同感です」


 バーコードンの率直な感想に、ワタルは苦笑しながら同意した。ワタルが続ける。


「ただ、この『預け』を行うためには、業者と納入確認担当者の2者の協力が必要になります」


「業者は任せてくれ。心当たりがある」


「納入確認については、私が交代して対応できれば、上手くいきそうですね」


 バーコードンとセミロンがそれぞれ答えた。

続きは明日投稿予定です。

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