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3 スキル「裏金作り」

「ちょ、ちょっと待ってください! 裏金作りってどういうことですか?!」


 ワタルは慌てて聞いた。女性が少し困った顔で答えた。


「あれ、翻訳石の翻訳が上手くいってないでしょうか。『裏金作り』とは、正規の会計手続を逸脱して、別途に経理する資金を捻出する行為です。認識の齟齬はありますか?」


「い、いえ、そういうことではなくて……」


 突然、女性の隣に座っていた男性が立ち上がり、ワタルの手を取った。


「ど、どうか、その裏金作りのスキルを駆使して、我々を助けて欲しい!」


「は、はあ……」


 ワタルは困惑した、何が何だか分からない。


「あ、あの、確認なのですが、この世界では、裏金作りは法令に反しないのでしょうか。何か競技みたいなものだったりするのでしょうか」


 裏金作りで助けて欲しいという趣旨が良く分からなかったので、ワタルは念のため聞いた。女性が笑顔で答える。


「いいえ、重罪です。魂砕刑(こんさいけい)に処せられ、魂自体が粉々に砕かれ消滅させられます。あの世に行くこともできません。我々の世界で最も重い刑罰です」


 こ、魂砕刑……名前だけでも怖い。ワタルが質問する。


「そんな悪いことをして助けて欲しいって、皆さんは犯罪者なのですか?」


 女性が少し辺りを見回した後、真面目な顔になって静かに答えた。


「いいえ、この第36区の住民を少しでも助けることができればと考えている者です」



† † †



「第36区の住民を助ける?」


 ワタルが聞き直した。女性が答える。


「この第36区は、1年前に帝国が占領した地域に設置された地方機関です。占領後間もないこともあり、住民は困窮しているものの、帝国中央はこの辺境地域について何も対応してくれません」


「そこで、あなたの『裏金作り』のスキルを活用して、少しでも救民資金を捻出したいんです」


「あ、あの、その場合なんですが、帝国中央とやらに陳情して予算を配賦してもらうことはできないのでしょうか」


 ワタルは、思いつく合法的な方法を伝えた。女性が悲しい顔をして答えた。


「それは無理です。住民の福利厚生のため予算の配賦を訴えた職員は、スパイの嫌疑をかけられ更迭されました。おそらくもうこの世にはいないでしょう」


「そ、そうですか」


 この世界は、想像以上にディストピアのようだ。


「お願いです! 第36区の住民を救うには、あなたのスキルが必要なんです。どうか、救民資金捻出のため、裏金作りに力を貸してください」


 先ほどの男性に引き続き、女性も立ち上がり、ワタルの手を取った。


「わ、分かりました。それで住民の皆さんのお役に立てるのであれば」


 ワタルはそういって頭を下げた。



† † †



「お疲れでしょうから、今晩はこちらの部屋でお休みください。お食事はこちらをどうぞ。お口に合えばいいのですが」


 ワタルは、女性に案内されて祭壇のあった部屋や会議室と同じフロアにある部屋に案内された。部屋には窓がなく、テレビもないが、その他はビジネスホテルのようだ。ちょっとしたデスクにベッド、ユニットバスがついている。


 女性が用意してくれた食事は、肉と野菜がタップリと入ったシチューのようなものだった。ワタルはその内容について女性に聞いた。


「あの、この食べ物は何と言うものなのですか」


「これはゲルングルンです。この世界で日常的に食べている料理です」


「これは何のお肉なんですか?」


「それはゲルングですね」


 昔ギャグ漫画で読んだようなやりとりになり、ワタルはそれ以上質問するのを諦めて食べた。美味しかった。

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