17 真相
「ジョージ理事官、それにワタルの旦那。お待ちしておりました」
ジョージ理事官とワタルがニャムニャム商会の掘っ立て小屋の中に入ると、ニャムニャが直立不動で敬礼のような動作をした。いつもと雰囲気が違う。
ニャムニャの案内で、奥の物置のような部屋に入ると、ニャムニャが床の敷物をめくり、複雑なリズムで床をノックした。すると、床の一部が上に開き、地下へと続く階段が現れた。
地下へ降りると、武器を持ったミャウ族が立哨しており、ニャムニャたちに敬礼のような動作をした。
ニャムニャの先導でジョージ理事官とワタルは長い通路を進む。所々でミャウ族とすれ違った。
「こ、ここは一体?」
「もうすぐ分かるよ」
ワタルの問いに、ジョージ理事官が笑顔で答えた。
通路の突き当たりには、広々とした空間があった。第36区の庁舎に勝るとも劣らない様々な設備機器が持ち込まれている。多くのミャウ族が通信機器で連絡したり打ち合わせをしたり忙しく動いていた。
「ようこそ、レジスタンス第36支部へ」
ニャムニャとジョージ理事官が後ろを振り返り、笑顔でワタルに言った。
† † †
「す、すみません。まだ状況がよく飲み込めなくて」
打ち合わせスペースに座ったワタルは、困惑しながら、向かいに座るニャムニャとジョージ理事官に聞いた。ジョージ理事官が説明しはじめた。
「この50年間、帝国は拡大の一途をたどってきた。特にここ数年は急進派が政権を取ったこともあり、その傾向が顕著だ」
「だがな、皆がそれをよしとしている訳ではない。帝国内にもこの傾向を止めたいと考えている良識派も多くいるんだよ。昨年即位されたばかりの、まだお若い皇帝陛下を含めてな」
ジョージ理事官が茶目っ気たっぷりにウインクした。
「私は、表向きは帝国検査院の検査能力向上のため召喚されたことになっているが、実際は、陛下の密命により、占領地や新たに併合した地域のレジスタンスの育成、資金力の強化のため、この世界に呼ばれたんだよ。元自衛官で、情報保全隊や会計監査隊勤務の経験もあるしな」
「え? ジョージ理事官は、日本人なんですか?」
「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?」
「そうすると、ジョージって……」
「ああ、『譲る』に漢数字の『二』で譲二だよ。ちなみに名字はこの世界ではとても口にできない恥ずかしい単語らしい」
そう言うと、ジョージ理事官はニャムニャに聞こえないよう、ワタルに顔を近づけて耳打ちする。
「『松本』と言う普通の名字なんだがね」
ジョージ理事官は笑いながら椅子に座り直すと、話を続けた。
「この世界にきたら、こんな厳つい顔になってしまったが、本当は普通のお爺ちゃんだよ」
「支部のリーダーであるニャムニャから『帝国職員から裏金を使ったミャウ族の子どもの支援の打診があった』との報告を聞いたときは驚いたよ。しかも『預け』の手口を知ってるって言うんだからな。それで慌てて確認に来たわけだ。我々の仲間に値するかどうかね……ん、ど、どうしたんだ、ワタル君?」
ジョージ理事官は、ワタルが突然泣き出したので、驚いて聞いた。
ワタルが涙を流したまま尋ねる。
「ジョージ理事官、もしかすると、貴方の息子は『平和の和』に『歴史の史』で和史、孫は『さんずい』に『歩く』の渉ではないですか?」
ジョージ理事官が絶句し立ち上がった。
「まさか、まさか渉なのか? どうしてここにいるんだ! まだ若いのに……」
「おじいちゃん!」
ワタルがジョージ理事官に抱きついた。ジョージ理事官はワタルを抱きしめると、何度も何度も頭をなでた。
† † †
「そうか。そういうことがあったんだな。ほんとに大変だったな。心労が祟ったのかな」
「もっと親孝行しとけば良かった……」
「こればかりは天命だ。悔やんでも仕方ない。それに、あの世があることが分かったんだ。お父さんお母さんがあの世に来たら、思いっきり孝行してあげればいい」
「はは、確かにそうか」
ニャムニャは気を遣って席を外してくれていた。ジョージ理事官とワタルは、まさかの再会を喜んで、限られた時間だったが、たくさん話をした。
「ね、ねえ、ゲルングとゲルンゲって何か分かる?」
「ああ、ゲルングはゲルンのモモ肉だな。ゲルンゲはゲルンのバラ肉だ。ゲルンはこの世界の豚みたいな牛みたいな大きい鶏だな」
「ぶ、豚みたいな牛みたいな鶏か……」
話が一段落すると、ジョージ理事官はニャムニャを呼んだ。ニャムニャが来ると、真面目な顔になってワタルの顔を見た。
「なあ、渉。ニャムニャが率いるこのレジスタンス第36支部を助けてやってくれないか? 私はもうすぐあの世に行く。帝国中央で後を託せる人材を育てることができたからな。だが、どうしても帝国全土には目が届かない」
ジョージ理事官は、ワタルの両肩をがっしりと掴んだ。
「この帝国が、世界が少しでも良くなるように、戦争で悲しむ人が1人でも減るように、手助けをしてやってくれないだろうか。おじいちゃんとして、同じ元公務員として、そして、帝国職員としてのお願いだ」
ワタルは、肩に置かれた祖父の手に優しく触れると、胸元まで下ろして、両手でしっかりと握った。
「どこまで力になれるか分からないけど、全力で頑張るよ。おじいちゃん!」
「ありがとう、ありがとう!」
ジョージ理事官は、何度も何度もお礼を言った。
次回完結予定です。推敲が間に合えば今晩投稿できればと考えております。よろしくお願いいたします。
10/21 誤字修正しました。




