16 ワタルの覚悟
ワタルとジョージ理事官は、2人で第36区の庁舎を出た。帝国検査院の書記は随行を申し出たが、ジョージ理事官はやんわりと断っていた。
ミャムミャム財団による援助が始まって約3ヶ月。路頭で亡くなる子どもはだいぶ減ったが、路上で物乞いをする子どもは依然として多い。
「この景色を見てどう思う? ワタル君」
ジョージ理事官が歩きながら聞いてきた。ワタルは正直に答える。
「困っている人たちの手助けを少しでも出来ればと思います」
「行政官としての矜持かね?」
「行政官として、そして、一人の人間として、当たり前の感情だと思います」
「それは、違法であっても為すべきことかね?」
ジョージ理事官がワタルの目を見て聞いてきた。間違いない、この人は全て知っている。
ワタルは覚悟を決めた。ジョージ理事官の目をまっすぐ見つめて静かに答えた。
「はい。それが世のため人のためになるのであれば」
ジョージ理事官は、懐から小さな黒い棒を取り出した。先端にはダイヤモンドのような宝石が付いている。
「これが何か分かるかな?」
ジョージ理事官が尋ねた。ワタルが静かに答える。
「魂砕刑に使う魂引石ですね……今回のことは、全て僕が1人で考えたことです。どうか、他の方は見逃してあげてください」
「よかろう……右手が震えているぞ?」
ワタルは、ジョージ理事官に言われて初めて気づいた。左手で右腕を押さえつける。
怖い。全てを投げ出したい。他人に責任を押し付けて逃げ出したい。でも、何故か、そうすることは出来なかった。
左手のないミャウ族の子どもの笑顔、バーコードンやセミロン、ニャムニャの涙。皆を少しでも助けることが出来るなら、魂が消えてしまってもいい。何故か心の底からそう思えた。
ジョージ理事官は、魂引石をワタルの額に当てた。ワタルは目を閉じた。
† † †
「目を開けなさい。ワタル君」
ジョージ理事官に言われて、ワタルは恐る恐る目を開けた。目の前には、光り輝く魂引石があった。
「こんなに透明な輝きは初めて見たよ。美しい……君は心の底からこの地区の住民の幸福を願っているようだな」
そう言うと、ジョージ理事官は魂引石をもう一度ワタルの額にそっと当てた。魂引石の輝きは消え、元どおりになった。
ジョージ理事官は、魂引石の付いた黒い棒を懐に片付けると、笑顔でワタルに言った。
「さあ、急ごう。ニャムニャが待ちくたびれてるぞ」
「え? ど、どうしてニャムニャさんの名前を?」
ワタルは事態がよく飲み込めなかったが、ジョージ理事官が足早に先に歩いて行ったので、慌ててジョージ理事官の後を追いかけた。
続きは明日投稿予定です。




