15 検査会場での攻防②
ジョージ理事官の質問に、バーコードンが回答に詰まった。慌ててワタルが答える。
「す、すみません。実は僕が備品庫に廃棄用のインクを置きに行った際に、保管用紙の上に落としてしまったんです。言い出しにくかったんで、払出数量に入れてしまいました。申し訳ありません」
実際は、インクがついたままの手で紙に触ってしまって数枚ダメにしただけだったが、話を膨らませて話した。
「なるほどな」
ジョージ理事官が呟いた。ワタルは心の中で安堵した。
ジョージ理事官はワタルに質問してきた。
「ワタルと言ったな。君はどういった世界から召喚されたんだ?」
「あ、はい。地球と呼んでいる惑星に住んでいました」
「なるほど、私と同じか。どこの国だ?」
「に、日本です」
「日本人か。真面目で精緻な仕事をすることで有名な民族だな。当然、不正経理をするにしても真面目に精緻に行うんだろうな」
ワタルは、震え出した右手を慌てて机の下の膝におき、ジョージ理事官から見えないようにした。
ジョージ理事官の表情から真意は読み取れない。冗談なのだろうか、本気なのだろうか。
ワタルは、冗談だと捉えて答えた。
「確かに真面目で器用な人が多いと思いますが、僕なんかは真面目だけが取り柄の不器用な人間でして……」
「完璧なんたよ」
ジョージ理事官は、ワタルの言葉を最後まで聞かずに話し出した。
「この世界に呼ばれてもうすぐ1年。様々な地区の会計経理を見てきた。どこも私が元いた国に比べると、ミスが目立つ。不正経理も稚拙なものばかりだ」
「だが、君たちの係は違う。完璧すぎるんだよ。数字の操作が不可能な印刷機のカウンター以外、完璧に整合が取れている。完璧すぎて、逆に怪しいんだよ」
そう言うと、ジョージ理事官はニヤリと笑った。
† † †
「ひ、日頃の努力の賜物です」
バーコードンが声を絞り出して言った。
ジョージ理事官が笑った。
「それなら良いのだがな。たかが少額の随意契約、どうしてここまで丁寧に力を入れて処理しているのか。単に君たちが真面目で何事にも全力なのか。あるいは全力で隠したい何かがあるのか」
ジョージ理事官がワタルを見た。
「せっかく同じ出身世界から召喚された者に出会えたんだ。散歩でもどうかね。ワタル君。地図を見ると、ニャムニャム商会はちょうど良い運動になる距離のようだ」
まずい、理事官はニャムニャム商会の帳簿を確認する気だ。ワタルたちは顔を青ざめた。
バーコードンが慌てて申し出る。
「わ、私やセミロンも同行させていただきます」
「結構。君たちは他の検査対応があるだろう。ワタル君だけでよい」
ジョージ理事官はバーコードンの申し出を言下に拒否して、ワタルの顔を見る。
「さあ、今すぐ出発しよう。商会の者が色々と気を遣って準備してしまうと申し訳ないからね」
「分かりました。それではこれから参りましょう」
ワタルはバーコードンやセミロンを安心させるため、ニッコリ笑うと、ジョージ理事官にそう答えた。




