14 検査会場での攻防①
いよいよ帝国検査院の検査当日となった。
バーコードンとワタルは、いつもより早く出勤した。セミロンもいつもより余裕をもって出勤してきた。
帝国検査院から事前に通知のあった出張官は、内務省担当検査官1名、副検査官2名、書記10名の他、任期付召喚職員である理事官1名ということだった。
これらの出張官が手分けして各部局の検査を行う。会計課の検査は、理事官と書記2名が担当するということだった。
午前中、会計課の全体概要説明が始まった。ワタルとセミロンは、検査会場の後方の席に座らせてもらった。前方で説明する会計課長の向かいには、真ん中に理事官、両脇に書記が座っていた。
書記は、歌舞伎の黒衣のような格好をしていて、顔はまったく見えない。
理事官は、ワタルと同じ燕尾服のような服装で、まるでプロイセンの鉄血宰相ビスマルクのような口ひげを貯えた厳つい顔をした老人だ。老練で厳しい魂なのだろう。
ワタルは、検査で当たらないことを祈ったが、午後一で理事官に呼び出された。
† † †
「帝国検査院内務省担当検査官付理事官のジョージだ」
「会計課庶務担当課長補佐のバーコードンです。こちらがセミロン庶務係長、あとこちらがワタル会計指導官です」
検査会場。ジョージ理事官に向かって真ん中にバーコードン、右にセミロン、左にワタルが座り、お互いに挨拶した。書記2名は他の検査をしているようで不在だった。
ワタルは、ジョージという名前を聞いて、もしかするとヨーロッパ辺りの人が召喚されたのだろうかと思ったが、聞ける雰囲気ではなかった。
ジョージ理事官が、契約一覧を見ながら質問してきた。
「今年に入ってから庶務係の契約数が増えているようだが、理由は?」
バーコードンが答える。
「はい、占領後1年が経過し、軍の司政官による本格的な民政移管に備えて、会計業務改善プログラムを実施することにしました。その関係で、今後の円滑な契約業務の実施に資するため、現地の業界団体へのヒアリングや実態調査を行っておりまして、契約数・金額ともに増加しているところです」
「他の係に比べて随意契約が多いようだが?」
「はい。ヒアリングの会議費や調査費は、ほとんどが消耗品費でして、単発かつ少額の発注が多いことから、随意契約が増えております」
「契約相手がニャムニャム商会に偏っているように見えるが?」
ジョージ理事官が突っ込んできた。鋭い。冷や汗がワタルの背中を伝う。
バーコードンはにこやかな表情を崩さず答えた。
「まだ占領後1年ちょっとということもあり、現地で対応してくれる業者は限られております。他係のように大口の契約であれば、帝都の大企業が入札してくれますが、庶務係のように少額かつ単発の契約ですと、現地での調達に頼らざるを得ません」
「色々と新規開拓を目指してはいるのですが、このニャムニャム商会は帝国に比較的好意的でして、発注を頼みやすいという実情があります」
「ふむ。見積もり合わせは行っているのか?」
「はい、可能な限り行っております。ご覧になりますか?」
バーコードンは、見積書の一例を提示した。
実際は、他社見積もりの多くがニャムニャム商会による偽造だ。ただ、偽造といっても、子どもたちの援助に賛同してくれる他の商会がワザとニャムニャム商会の見積もりより少ない金額で作成してくれているので、ある意味本物だ。
ジョージ理事官は、一瞥するとすぐに別の質問をしてきた。
「先ほど、書記に印刷機の印刷回数と紙の受払数量を確認させたが、印刷回数が払出用紙枚数より3割も少ない。何故だ?」
痛いところを突いてきた。バーコードンが回答に詰まった。




