13 受検準備
「ついに帝国検査院が来るぞ。14日後だ」
援助の現場を見てから3か月後、ワタルがこの世界に来て半年。庶務係の隣にある小さな会議室で、バーコードンが隣に座るセミロンと向かいに座るワタルに通知文を見せて言った。
この3か月、徐々にではあるが、裏金の捻出額は増えていた。
先日、第36区の監査課の監査があったが、契約書類や決裁の形式的なチェックが中心で、庶務係は呼び出しを受けることなく無事に終了した。今回の帝国検査院の検査が本丸のようだ。
「帝国検査院は、どの程度の権限を持っているのでしょうか」
ワタルは聞いた。バーコードンが答える。
「皇帝直属の機関ということもあり、かなり強い。あらゆる会計データへのアクセス権限があり、我々は拒否できない。また、行政機関の契約相手方への検査権限もある。検査妨害や不正経理を行った者に対して、即決処分で魂砕刑を執行する権限も持っている」
ワタルが対峙してきた日本の検査院も相当強力な権限を持っていたが、刑罰を科す権限を持っている分、こちらの世界の検査院の方がより強そうだ。
「確か、悉皆検査ではないんですよね」
「ああ、一定額以上の契約を検査するのが通常だ。今のところ、その対象額未満で裏金作りをしているが、万が一抽出で少額の随意契約を見られると厄介だな」
バーコードンが腕組みをしながら言った。ワタルが同意する。
「仰るとおりです。今回の裏金作りに使っている契約についても、対策を講じておく必要がありそうですね」
「裏金作りに使っている契約自体を隠すという方法はないのでしょうか」
セミロンがワタルに聞いた。ワタルが答える。
「難しいですね。私のいた世界と同じだとすると、おそらく相手は帝国財務省や帝国銀行のデータも持っています。それと突合されると、契約額と支出額の不一致が生じて、契約を隠していることがバレてしまいます。契約一覧は、正直に作って見せるしかないですね」
ワタルは両手を頭に置いて天井を見つめた。
「会計課内の契約書類は完璧に整っています。あとは、消耗品の一部未納入の事実をどうやって隠すかですね」
ワタルは、姿勢を戻してセミロンの方を見た。
「セミロンさん、納入確認書は、たしか全てセミロンさんの署名でしたっけ」
「はい。他係の方の名義を借りようかとも思いましたが、疑念に思われるおそれがありますので、すべて私の署名で作成しています」
これは仕方ない。仮に他係名義で納入確認書を作成すると、検査でその名義者に詳細を聞かれてバレてしまう。
一方、セミロン名義で作成すると、ニャムニャム商会の納品に偏っていることに気づかれる可能性が出てくる。痛し痒しだ。
「そこは説明で乗り切るしかないですね。あと、消耗品の受払簿と、消耗品に関連する資料との整合性をチェックする必要がありますね。例えば、紙の枚数と、印刷に使用する消耗品の消耗率との整合性や、飲料の数量と会議出席人数との整合性ですね」
「その点は大丈夫だ。消耗品の受払簿について、受入数は契約ベースにしていて、未納分は日々の払出数量に均して追加計上してある。印刷機のインクについては、その払出数量に応じて早めに交換してある。印刷枚数のカウントデータについてはどうしようもなかったが……会議出席人数は書類上調整済みだ」
バーコードンが胸を張った。
「ありがとうございます! 万が一に備えてニャムニャさんに連絡しておくとして、後は検査で当たらないことを祈るのみですね」
ワタルが笑顔で言った。バーコードンとセミロンが頷いた。
都合がつけば今晩投稿させていただきます。




