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6 ウリケルさん

続きです。

宜しくお願い致します。

「ウリケルさんありがとう!」


 ウリケルと名乗ったエルにしか見えない人物?が杖で差し示した場所を小さな木製のスコップで少し掘ると、エルの握り拳程の大きさの石が出てきた。


「………」


「ここからも石が出てきた!すごいね!何で石が有る所が解るの?」


 また他の場所を少し掘ると、今度はエルの握り拳より少し大きな石が出てきた。


「………」


「魔法?魔法って昔話の賢者様?とかが使っていた、あの魔法って事?」


 雨等で農作業が出来ない時には館の納屋で農具の修理や手入れや、館の部屋では服の修繕などをしている母やお手伝いの老人達が、昔話や有名な物語を良く聞かせてくれていた。


「………」


「すごいすごい!ウリケルさんは魔法使いだったんだね!」


 その物語には剣一本で悪い魔物を退治する英雄譚や、様々な魔法で悪い帝国と軍隊を撃退する大魔法使いの物語や、聖なる力で人々の怪我や病気を治療して人々に不幸を呼び寄せる悪霊を浄化させる聖女の話など色々有ったのだが、その中でも特にエルが好きだったのは様々な魔法と知識や技で悪者を退治する賢者の物語だった。


「………」


「いいなー!すごいなー!僕もウリケルさんみたいに魔法を使える様になれないかな?」


 夢見る少年…いや、英雄や大魔法使いや賢者や聖女に憧れいつかは自分もそうなりたいと本気で思っている、幼児は自分の才能や限界を知らないので夢は大きいのだ。


「………」


「魔法を使える様になるには適性?が必要なの」


 そこで突き付けられる容赦の無い現実。幼いエルには可愛そうでは有るが、理想と現実は相容れない物なので有る。


「………」


「適性ってどう言う意味なの?」


 だが、今のエルには先ずは難しい言葉の意味を教える所から、始めなければならなかった。だが、エルにだけ見えるウリケルはそんな些細な事には興味が無いのか、一つ一つ丁寧にエルが理解出来るまで根気強く教えるのだった。


「………」


「魔法を使うために必要な性格や能力、性質?、素質?」


 教えれば教える程次から次へと新たに、幼児には難しい言葉が出てくるがそれも根気強くエルに言葉の意味を説明する。


「………」


「性格や能力は聞いた事が有るけど、性質?とか素質?ってちょっと僕には難しい言葉だね」


 エルもウリケルの言葉を素直に聞き理解をしようと頑張ってはいるのだが、如何せん生来の落ち着きの無さとあまり物事を考えない性格なので、理解出来ない物は理解出来ないと割りきっている。


「………」


「うん、良く意味がわからないや」


 その内何とかなるだろうぐらいにしか考えていないので、取り敢えず解らない事は先送りにしてしまう。


「………」


「そうなんだ…結局は才能?って事なんだね!」


 なのでウリケルも一番簡単な言葉で伝えた方がエルにはわかり解り易いと思い、教え方をエルに解り易い様に変えながら教えていく。


「………」


「ウリケルさん、それで才能って何?」


 人の話を何処まで本気で聞いているのかいないのか、何処まで理解しているのかしていないのか、今までの弟子の中では一番の問題児で有る事は理解出来た少し疲れたウリケルで有った。


「………」


「生まれ持った素質や訓練によって発揮される物事をなしとげる力って、また難しい言葉が出てきた…」


 簡単な言葉に言い直そうにも限界が有る、出来るだけ簡単な言葉に直し直せないものはそのまま放置してしまう。ウリケルも少しずつ、エルに感化されてしまった様で有る。


「………」


「それで、僕に魔法を使う才能って有るのかな?」


 エルに魔法を使う才能が有るからこそ他の人には見えない自分が見えるのだが、幼児にそんな事を説明しても解らないだろうし素直に魔法の才能を認めてしまって、才能に頼りきって努力や研究や好奇心を怠る様な弟子にはしたくは無いのでここは少し冷たくあしらうウリケルで有る。


「………」


「えっ…無いの!僕は魔法を使えないの?」


 こう言ってしまえば魔法を使える様になるために自分の出した課題にも本気で取り組むで有ろう、そして努力を惜しまず自らが邁進するで有ろうとウリケルはほくそ笑む。


「………」


「今は使えないけど、修行をすれば僕にも魔法を使える様になるの?」


 ウリケルの思った通り、エルのやる気ゲージはマックスで有る。今なら少々難しい課題を出しても喜んで取り組む事だろう。今日弟子になったばかりのエルに課題を出す気は全く無いのだが…。


「………」


「えっ本当なの!それなら僕、魔法の修行をしたいな」


 褒めて伸ばす。それがエルには良いだろう。中には叱って伸びる子もいるが、エルを叱ってしまっても萎縮したりやる気を無くしてしまうだけだろうから。褒めるだけでは成長に限界が有るかも知れないが、エルの始まったばかりの今後の人生は今後幾らでも壁にぶち当たるだろう。中には乗り越えられずに自信を喪失してしまう事も有るかも知れない。その時に改めて自分が出て行き、エルを励ませば良いのではと考えているのがウリケルの作戦だ。


「………」


「本当に?やったあー、じゃあ、ウリケルさんが僕の先生になってくれるの?」


 将来への希望や期待が溢れんばかりの才能有る幼児が、ウリケルの新たな弟子になった瞬間で有った。


「………」


「先生じゃ無くて師匠?師匠って何?」


 やはりエルには難しい言葉はまだ早いのかも知れない。だが、彼の才能を伸ばすためには早すぎる事は無い、むしろ少し遅いくらいなのだ。


「………」


「先生だけど先生じゃ無いって…教え導く者?また難しい言葉が出てきた…僕、良く解んないや…」


 今はそれで良いだろう。自分が教えた事を全て吸収した時に、エルがどの様に化けるのかが楽しみで仕方の無いウリケルで有った。


「………」


「まあ、良いや!師匠、宜しくお願い致します」


 でも、少し位は悩んだり考えたりした方が良いのではと思うが、それを口に出す事をウリケルはしなかった。それをエルに教えるのが、自分に与えられた最後の使命なのだからと心の中にとどめていた。


「……」


「でも師匠大変です。僕はお手伝いを終わらせないと魔法の修行が出来ません」


 魔法の修行も大事だがお手伝いも大切だ。自分の将来のために知識や見識を吸収する事も勿論必要だが、そのために家族を蔑ろにする事は許されない。家族や友人知人や仲間の大切さを説くのも師匠の重要な仕事なので有る。


「……」


「はい、解りました師匠!先ずはお手伝いを一生懸命頑張ります」


 そして再びエルはウリケルが杖で指し示す場所を一生懸命に掘って、畑にする予定の場所から石を次々に掘り出していくので有った。


「……」


「でもやっぱり、ウリケルさんの名前ってどこかで聞いた事が有る気がするけど、どこで聞いたのかな?」


 エルは少し…いや、物事に余り頓着しない、それこそ自分の気になる事以外は少々どうなろうが興味が無い、それどころか興味の無い事がどうなろうと気にならないし気にしない。


「……」


「でもやっぱり、ウリケルさんって物語に出てくる賢者ウリケルと同じ名前だよね」


 そんな少し変わった男の子なので、昔話に出てくるウリケルと言う名前の賢者の名前と同じ名前なので気にはなるみたいだ。しかし、その物語の登場人物を賢者ウリケルと認識してしまっているために賢者とウリケルを分けてしまうと途端に別の人物だと思ってしまっていたのだった。


「……」


「でも、賢者ウリケルって大昔の英雄さんなんだよね?ウリケルさんは僕とお話ししているからとても昔の人には見えないからそんな事はある筈が無いよね」


 エルは知らなかったウリケルが自分にしか見えない事を、そしてウリケルの声も自分にしか聞こえていない事を…。回りから見るとエルが一人で虚空を見ながら喋っているとしか見えない。しかしエルは少し…色々と変わった子供なのでそんな不思議な事も有るかも知れない、村に実害が無い限りはと放置されているのが実情だった。


「……」


「次はここ?解りました師匠」


 新たにウリケルが杖で指し示した地面を、エルは小さな木製のスコップで掘り起こす。そこで出てきたのはエルの握り拳程の綺麗な半透明な石?だった。


「何だろう、石なのかな?でも石にしては綺麗だよね…師匠綺麗な石が出てきました!」


 エルは見慣れない綺麗に輝く不思議な石?を発見したので、素直にウリケルに報告したのだった。

続きが気になる方、応援をお願い致します。

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